書物蔵

古本オモシロガリズム

永井久一郎(荷風のパパ)の偉さ――近代図書館のホントウの始まり

明治5年に湯島聖堂に「書籍館」が出来て、日本ではじめての近代図書館になった話は誰でも知っている。
が。
それらをまねて各県でできた県書籍館たちは、みなみな明治10年代末には絶滅してしまったことは、いままで専門家しか知らんかった。通俗図書館史では、発展段階に都合の悪い事実ははしょられちゃうからね。
それを指摘したのが『公共図書館の冒険』だったが。

公共図書館の冒険

公共図書館の冒険

  • 発売日: 2018/04/17
  • メディア: 単行本
唯一生き残った文部省「書籍館」と、府県「書籍館」との一番の違いは、新刊図書を集め続けたか否か。
みんな、近代図書館って新刊をどんどん足し込んで(なおかつ古い本を廃棄する)ってコンセプトがわからんかったんよ。
で、唯一、新刊を集め続けた「書籍館」なんだが、どうやって集めたかというと、もちろん内務省の検閲用納本を回してもらうようにしたんだが、同時に官立の学校からも新刊を回してもらうようにしていたことがわかった(∩´∀`)∩
帝国図書館の前身は、ちょうど東京書籍館の時代から、新刊をちゃんと集めるという近代らしい活動を始めていたことがわかるね

文部省達 九年二月十四日/直轄諸学校
直轄諸学校於テ編纂之図書及教則校則等印刷候節ハ自今一部ツツ東京書籍館ヘ廻付可致此旨相達候事
欄外:官立諸学校ニ於テ編纂ノ図書及教則校則等印刷スル時ハ東京書籍館ヘ一部ツツ廻付
法規分類大全. 〔第35〕 学政門 第1 学政総,学校 上
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/994207/160

当時の事実上の館長、永井久一郎の偉さよ。

明治20年までの諸法令の主題検索をしたい場合

法規分類大全については次のサイトが参考になる。
historicalmethod.hatenablog.com
出版史研究への応用については、次を参照のこと。
『法規分類大全』(1890,1893)と『出版警察例規集』(1929)の新しい読み方:日本近代出版史の史料として 本文ナビ
林昌樹
2016.10,文献継承,第29号

帝国図書館の新聞紙、合冊は明治31年、洋製本は明治41なの?

同館では明治三十一年四月から東京の思のある新聞のみならず地方の主なる新聞をも購入し保存することヽなり内務省の調査したものに依つて大阪毎日、大阪朝日、山陽新報、福岡日々、北海タイムス、芸備日々、新愛知、横浜貿易其他で都合二十首を購入することヽなつてから爾来二十年一日の如くに東京の新聞約十種と共に一箇月分が纏まると一枚宛皺延しをやつて一先づ仮綴とし夫れから洋装の本綴じにして保存して居る
※『中央新聞』大正7年〓月〓日(新聞集成図書館v2,p.125)

帝国図書館における新聞の所蔵については、たしか1本あったね。

  • 「文書に見る帝国図書館の新聞収集--明治・大正期の歩み」『参考書誌研究』(6)23~36(1972-10)

この末尾年表を見ると、明治41年5月12日に「新聞紙洋装製本開始」とあるね
明治31年4月からの新方針は言及がない。

城市郎

ネットにあったこんなん読んだ(´・ω・)ノ

戦前の出版検閲についてはあまりわからず、むしろ、城市郎についてわかった。

湯原:米沢さんは編集者として、できるだけ網羅的な本を作りたいという方針がありましたので、貴重な資料があればどんどん入れていきました。城さんもそれを喜んでいると私は思っていたんですが、あとで『城市郎の発禁本人生』を作ったときに感じましたのは、自分の持っている本以外のものを淹れるのは、城さんとしてはあまり喜ばしくなかったんです(笑)。(p.49-50)

わちきがいふのもなんぢゃが、コレクターだからねぇ…

本のリスト(書誌)は星座にも似るというヽ('◡'◎)ノ

書評が出るような本の著者というものに『本のリストの本』でさせていただいた。幸いに好評で、編集者さんから小さい紹介記事にいたるまで、書評の類の記事が寄せられる。普段、書評を探すような仕事もしているので、これは実地に体験できてよかったことである。
昨日、共同著者の南陀楼さんから教えてもらったのは『週刊読書人』(2020.10.30)の書評「ホンの世界の多元性をあらわす:未知へ導く多彩なリスト、テクストとしても存在」で、長谷川一先生(メディア論)によるもの。
わちきが執筆した項目、戦前の雑誌新聞総カタログのとこが末尾で言及されていて、わが意を得たりであった。要するにリストは単に他の本のリストであるだけでなく、それ自体、本そのもの(テキスト)たりえるんだから、それ自体を読むことができる(おもしろがれる)ということ。
長谷川先生、わかってる!と思ったね(o^ー')b
あと本のリストを、星座に例えるのは秀逸だと思った(。・_・。)ノ
www.amazon.co.jp

児童書研究と大人の本研究

子ども、というと、囲い込んで保護する、ということになる。その伝でか、研究も子供研究は、一般のディシプリンから切り離されて研究される傾向がある。大人の文学は文学一般で、大人の風俗は、民俗学や風俗史で、大人の心理学は心理学一般で。それに対して児童○○学は一般と区別されるし、児童研究なんてのもある。たしか児童研究はNDLCでいうFA、教育学にぶち込んじゃうんじゃなかったっけか。
それで児童ナントカだとその文献をわりと見落としちゃう傾向にあるんだけれど、日曜に高円寺へ行ったついでに森さんを拾って、元ささま、よみた屋へ出張った際に拾ったものがこれ。

  • 日本の子どもの読書文化史 / 飯干陽 著. あずさ書房, 1996.1

一見すると先行研究のレビューや文献注形式でなく、うーん、これはイイホシ, アキラ, 1923-さんが、学校教員あがりの研究者だったからかしら、と思うが、少なくとも素材の収集はできている。

10/29追記

きのうは床屋のあと某社へ。社長さんに、教育学系の文献が研究としては至らぬ部分があれど、先行文献として使える件を戦前読書史のデータ集―これはまだ秘密―を例に話す。ってかアイデアは森さんの受け売りなんだがね。

「田舎新聞小説製法」――大正年間の文芸専門通信社

  • 公孫樹『新聞記者はこんなもの』八州閣出版部、大正10 50p 15cm

この本に「田舎新聞小説製法」なる項があり、「小説の問屋」という言い方で、文芸記事専門通信社の活動が書かれている。ただし、いい加減なものとして、何年も前の流行おくれの小説を地方新聞に安く売る、といったビジネスモデルが開陳されている。

『叢書全集価格総覧』の読み方――戦中期、古本屋さんは全員、これ見てた?

絶賛発売中の『本のリストの本』(創元社)がらみで、ツイッターにて岡島先生のご返信を得た。
岡島先生は、かの「積読」なる語が江戸期からあるのを突き止めた先生である。


んで、ちょっと返信を、と思ったら、長くなったのと、あとで使えるのでここへ。
話題になってたのはこの冊子(σ・∀・)

  • 叢書全集価格総覧 : 明治初年-昭和16年 / 川島五三郎, 八木敏夫 共編. 六甲書房, 昭和17

『叢書全集価格総覧 : 明治初年-昭和16年』巻頭「例言」を見てみました。
先生はこれを書誌的なリスト、としてご購入のことと思いますが、同時代としては、1冊1冊に販売価格を書き込むさいのハンドブックだったわけです。
その際に問題となるのが、定価表示が本体(奥付)や箱に印字されていない全集類(多くは予約出版法による予約出版)で。
そもそも古本の公定価格は、リストアップされたもの①と、計算式(出版年と定価)から一律に上限を割り出せばよいもの②の2本立てですが。出版年はほぼ全部の書籍にあるにしても、定価表示がない一群の書籍③がありました。それが、全集類。
「(停)定価二円」するハンドブックをゼロから作成して1000部作って業界内の全国古本屋さん(たしか3000店くらい)に売ったのでした。うちは全集なんて固いもんは売らないよ、ってな弱小古書店は買わなかったでしょうけれど。
この「総覧」はだから、実は3部構成になっており、タイトルより前に②用の計算表があり、本文リスト③、附録古書籍公定価格総覧①が主要な要素です。
古典籍などが入荷したら①の表を見て、それ以下の値段を付けます。普通の本が入荷したら奥付定価を見て①の表で換算した価格以下の値段を付けます。奥付に定価の記載がなければ箱を見て、それでもなければ③を見、そこに示された定価や予約価で①の表を見て、それ以下の値段をつける、というわけ。
なんて、メタレベルの知識がないと、この冊子が何だったのか、わからんですよねぇ…。
その「四」に表示価格のことが書かれており、「全或は揃等の文字なき限り各一冊の価格」とありまする。「六」に価格表示が空欄のものは「予約価並びに定価のない頒布書の非売品」か「事故調査未了或は誤記脱漏」だと。
p193「【ロ】」(後掲図)をむりやり解釈してませう。
露西亜経済調査叢書は58vols.だが1冊ごとの定価は「種々」とあり、これは情報として無価値だなぁ。
露語大辞典は4vols.定価が8円とあるが、これは全四巻の定価? いや例言に従えば、32円になる。1円を今の5000~3000円とすれば、10万円前後でお高いデスね。
露西亜大革命史は10vols.は予約価2円50銭。昭和6年刊行だから表②を見て、と思ったら、表がない。オカシイなと、次の官報告示をみたら、

  • 官報. 1942年07月04日 告示 / 商工省 / 第746号 / 中古品タル書籍ノ販賣價格指定中改正/p105

商工省告示746号二の(四)により大正13年から昭和6年の出版に係るものなので「最高販売価格ハ定価ノ一〇割」。1冊2円50銭以下を古書価として商品に「(公)2.50 美本」「(公)2.10 ツカレ」などと表示できる(「ツカレ」は綴じが緩くなってしまったものなのはご存じの通り)。
露伴全集は12vols.で揃いなら公定価格85円とある。(公)はすなわち古書籍の公定価格なれば(附録p.61を見よ)、そのまま85円以下の値段を付けられるが、1冊売りだと新刊定価4円50銭なので、前記同様、商工省告示746号二の(四)により大正13年から昭和6年に該当し「最高販売価格ハ定価ノ一〇割」つまり、4円50銭以下の古書価をつけてよい、ということになる。単純計算をすると、古本で1冊欠、つまり11冊なら49円50銭が上限なのに、12冊の大揃いなら上限は54円でなくマル公85円以下までつけてよいということになる。
はぁめんどくさ。

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叢書全集価格総覧

ってか、ほんとにこんな使い方してたんかなぁ… めんどくさ。