書物蔵

古本オモシロガリズム

『叢書全集価格総覧』の読み方――戦中期、古本屋さんは全員、これ見てた?

絶賛発売中の『本のリストの本』(創元社)がらみで、ツイッターにて岡島先生のご返信を得た。
岡島先生は、かの「積読」なる語が江戸期からあるのを突き止めた先生である。


んで、ちょっと返信を、と思ったら、長くなったのと、あとで使えるのでここへ。
話題になってたのはこの冊子(σ・∀・)

  • 叢書全集価格総覧 : 明治初年-昭和16年 / 川島五三郎, 八木敏夫 共編. 六甲書房, 昭和17

『叢書全集価格総覧 : 明治初年-昭和16年』巻頭「例言」を見てみました。
先生はこれを書誌的なリスト、としてご購入のことと思いますが、同時代としては、1冊1冊に販売価格を書き込むさいのハンドブックだったわけです。
その際に問題となるのが、定価表示が本体(奥付)や箱に印字されていない全集類(多くは予約出版法による予約出版)で。
そもそも古本の公定価格は、リストアップされたもの①と、計算式(出版年と定価)から一律に上限を割り出せばよいもの②の2本立てですが。出版年はほぼ全部の書籍にあるにしても、定価表示がない一群の書籍③がありました。それが、全集類。
「(停)定価二円」するハンドブックをゼロから作成して1000部作って業界内の全国古本屋さん(たしか3000店くらい)に売ったのでした。うちは全集なんて固いもんは売らないよ、ってな弱小古書店は買わなかったでしょうけれど。
この「総覧」はだから、実は3部構成になっており、タイトルより前に②用の計算表があり、本文リスト③、附録古書籍公定価格総覧①が主要な要素です。
古典籍などが入荷したら①の表を見て、それ以下の値段を付けます。普通の本が入荷したら奥付定価を見て①の表で換算した価格以下の値段を付けます。奥付に定価の記載がなければ箱を見て、それでもなければ③を見、そこに示された定価や予約価で①の表を見て、それ以下の値段をつける、というわけ。
なんて、メタレベルの知識がないと、この冊子が何だったのか、わからんですよねぇ…。
その「四」に表示価格のことが書かれており、「全或は揃等の文字なき限り各一冊の価格」とありまする。「六」に価格表示が空欄のものは「予約価並びに定価のない頒布書の非売品」か「事故調査未了或は誤記脱漏」だと。
p193「【ロ】」(後掲図)をむりやり解釈してませう。
露西亜経済調査叢書は58vols.だが1冊ごとの定価は「種々」とあり、これは情報として無価値だなぁ。
露語大辞典は4vols.定価が8円とあるが、これは全四巻の定価? いや例言に従えば、32円になる。1円を今の5000~3000円とすれば、10万円前後でお高いデスね。
露西亜大革命史は10vols.は予約価2円50銭。昭和6年刊行だから表②を見て、と思ったら、表がない。オカシイなと、次の官報告示をみたら、

  • 官報. 1942年07月04日 告示 / 商工省 / 第746号 / 中古品タル書籍ノ販賣價格指定中改正/p105

商工省告示746号二の(四)により大正13年から昭和6年の出版に係るものなので「最高販売価格ハ定価ノ一〇割」。1冊2円50銭以下を古書価として商品に「(公)2.50 美本」「(公)2.10 ツカレ」などと表示できる(「ツカレ」は綴じが緩くなってしまったものなのはご存じの通り)。
露伴全集は12vols.で揃いなら公定価格85円とある。(公)はすなわち古書籍の公定価格なれば(附録p.61を見よ)、そのまま85円以下の値段を付けられるが、1冊売りだと新刊定価4円50銭なので、前記同様、商工省告示746号二の(四)により大正13年から昭和6年に該当し「最高販売価格ハ定価ノ一〇割」つまり、4円50銭以下の古書価をつけてよい、ということになる。単純計算をすると、古本で1冊欠、つまり11冊なら49円50銭が上限なのに、12冊の大揃いなら上限は54円でなくマル公85円以下までつけてよいということになる。
はぁめんどくさ。

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叢書全集価格総覧

ってか、ほんとにこんな使い方してたんかなぁ… めんどくさ。