書物蔵

古本オモシロガリズム

佃実夫

このまえ藤沢で買ってきた山下恒夫『石井研堂』を読みはじめた。おもしろそう。文献を調査するだけでなく,当時,存命していた関係者(研堂の息子など)に取材していたのは意外。足で書いたって感じ。いいね。
著者の山下恒夫ってあんまし聞かないけど,去年,岩波新書で大黒屋光太夫がでてて,それの著者だったんですねぇ。この人,研堂の漂流記モノも編纂してるし,研堂がきっかけで「漂流記研究者(岩波HPより)」になったんですね(笑。
ところで,これ,もとは『思想の科学』の連載だっだとある。まぁ「科学」ってコトバが,ひかり輝くというか,なにか知のありかたの目標みたいにおもわれた時代もあったんだろうねぇ。「科学的に正しい○○」っていういいまわしも(一部に)あるし。でも,科学は語源的にも本質的にも「分科学」にすぎないんだけどね。ある枠組みのなかでのみ通用する正しさ。社会人や常識人のまともさってのは,分科学からはでてこないよ。文学とか歴史とか慣習とかからしか。とくに理工学部ではせめて科学史は必修にすべきという意見に賛成なり。
わてはこの雑誌の同時代人じゃないんだけど,日本の知識人層にたいする『思想の科学』の影響力って結構あったんじゃないかな。図書館本がらみでいえば,佃実夫(ツクダ・ジツオ)ね。
古書通(というか古本屋へ足で通うひと,古本マニヤ)にならわかると思うけど,佃ジツオの『文献探索法』って店頭でよくみるよね。読書人にはかなり普及したんじゃないかな。この人は要するに図書館のリファレンス業務のスキルを一般にひろめようとしたんではないかな。
そういう意味で佃ジツオの図書館史上の業績はもっと大きく評価されてしかるべき。けど,リファレンスの歴史の記述って,必ず佃実夫が落ちているんだよね。不思議ふしぎ。
そういえばこのまえ鎌倉の公文堂でリファレンスブックのリファレンスブックを買った。
辞典の辞典 / 佃実夫,稲村徹元. -- 文和書房, 1975  帯ヤブレ
協会本が定番ではあるけれど(『日本の参考図書』),個人がリファレンスツール(工具書)を開発する時代というのがあったんですね。たのしそう。研堂の『明治事物起原』なんかもその金字塔だよねぇ。いまではちくま学芸文庫にはいって,多巻モノの読み物然としてるけど,じつはこれはリファレンスブックだったのです。以前,持ってたよ昭和59年の翻刻の1冊もの。厚さが20センチもあるの。さすがに持ちきれなくて売っちゃったけど。
ちくま文庫の『起原』は(すくなくともバラ売りは)もう品切れになったみたいで,さっそくAmazonでプレミアをつけるものがあらわれてる。各巻1千5百円ぐらいのものが4千円弱って,ちょっとそりゃあバカ値じゃないかい。全8巻セットでたしか1万円だったし。にしてもセット売りはまだ在庫あるんだろうか?
なんかまた欲しくなってきちゃった。セット売りを買おうかな。それとも,神田の古書店にならんでた昭和19年11月の2巻本を買おうかな。