書物蔵

古本オモシロガリズム

十年かけて買えた古本。さまつな行政法は至難!


古本生活20年にならんとするなかでも,買うのが困難なのは実用本,実務本なり。旅行ガイドとか,マニュアルとか,古いもんを買うのはむずかしいのは有名な話。で,そのなかでもとりわけむずいのは法律の実務本じゃないかと。

法学書は,実務書でなく学術書ならスグになんでも手に入るんです,カネさえ出せば。でも実務書は探し回ったのに全然ないよ〜。

先月だったか,次の2冊をやうやく入手。十年ちかくもかかったなりよ。

物品管理法講座 / 財政会計法令研究会. -- 新版. -- 学陽書房, 1980.3 1000円

逐条物品管理法精解 / 津吉伊定. -- 大村書店, 1974 1000円

最初に誤解のないように言っておかないといけないけど,モノをお金と同じように管理しようとする物品会計(物品管理)って制度はあんまりイイ制度じゃないというのはわちきの結論。

けどイイか悪いかはどんなものなのか知らないといけないわけで,調べますたよ昔。当時,日本全体の図書館にある本の3/4はお役所の所有でしたから。

こんな制度は図書館先進国アメリカにはないんで。いろいろ調べてわかったことは,まず,

わからないということ(笑)

民法とか商法とか,社会生活の根幹にかかわる法律は議論百出,判例でまくり,教科書でまくりですぐに,その概要や問題点をしることができまする。

それが,行政法の,それも市民の権利義務に関係ない内部法で,さらにはモノあまり日本でどうでもよくなりつつあるモノの管理法なんて,制度としては生きているのに,それについての説明知というのはごくごく限られたものでありました。

で,最低限の説明知をもとめることになるんだけど,ここで重要になるのは,有権解釈の一種である行政解釈をやる連中(その法律の担当者)のために書かれた注釈書なわけであります。

書き手は学者でもなんでもなく,役人ね。この手の行政(些末)法の注釈書は,読み捨て。法改正でもあろうものなら,そのままゴミに。古本屋も拾ってくれません。個人で,それも古本を買うようなオバカは(わたしくらいしか)おらんだろう。

でもそんなオバカがいったん欲しいとなると,とんでもない苦労することになる。法学専門の古書店はあまたあれど,いくらカネを積んでも手に入らないのだ。よよよ(涙

これもまた,十年かけて買えマスタ。よかったよかった。でもそんなにたつと,正直言って興味がうすれてしまうよ〜(あたりまえ)。

で,話をもとにもどすと,こんな,行政法の,それも些末なものに問題意識が芽生えたきっかけは,もちろん実務上の困難さなわけだけれども,その問題意識を,「ああ,これって問題と思ってもいいんだなぁ〜」と思わせてくれたのは,先人の問題意識にほかならず。

物品管理法が制定されんとしたその時に,国会図書館員と,会計検査院の図書館員がタッグをくんで,立ち上がったのでありまする。

加藤六蔵(あだ名:ロクさん 当時・支部図書館課運営係長)と守屋壮平(当時・会計検査院図書館主任)ね。

詳細は,加藤六蔵「物品管理法の成立をめぐって」『支部図書館外史』支部図書館館友会 1970 p.57-60 を参照してちょ。

現「物品管理法」(注釈書の著者つよし・さだよし,が担当官)の前に,大蔵省佐々木事務官の「物品会計法案」があったというのは上記ではじめてわかる。この物品会計法案では,17の物品分類のなかに「図書」という独立項目があった由。

けど,この「物品会計法案」は討ち死にして,現,物品管理法があるのだす。

話はとぶけど,初代の支部図書館部長は中根秀雄で,「加藤君,役所のセクショナリズムは強固だからなかなうまくいくものではないよ,せいぜい四つか五つの支部図書館が発足すればオンの字だよ」と言ったとか。

この中根さんてーのは,初代のむちゃくちゃ有名な中井正一(ナカイ・マサカズ)の次の副館長ね。中井正一はまた本がでたけど,中根秀雄は,憲法大臣金森徳次郎といっしょに討ち死にして忘れさられました(たしか事件の前半で病死)。「春秋会事件」ね。

中井正一のメディア論 後藤 嘉宏 (著) 著者は,あすなろくんのものぐさ一言日記ってのを書いてるみたい。

ナカイ・マサカズが偉大なのはみとめるけど,う〜ん,そんなにメディア論的に重要かな?すぐ死んじゃった人ってのがわたしのイメージなんだけど。もちろん,彼の数少ない業績の『図書館年鑑1952』は持ってるんですが。よくわからない。留保。この本買えば,わかるかな?

わたしゃ,メディア論なんかどうでもいいから,『国会図書館五十年裏面史』ってのを読みたいんですけど。そんなの書ける人,ひとりしか知らないなぁ。

技芸は長し,しかして人生は短し。たしかローマの格言。

技芸は,法制度もふくめ人間によってつくられたもの。人間は数十年で死ぬけど,人間がつくったものは,その人の死をこえて(悪いいみでも)生き続ける……。

なんでこんなことゆーかってーと,1956年の物品管理法が,国立大の法人化まで長らく図書館を苦しめたわけだし,なぜに,どうして苦しめられ,どんな解決方法があったのかを教えてくれたのは,加藤六蔵ほかの,当時の文献しかなかったんですよこれが。

学説史をまとめるだけで論文になってしまうという未開の沃野。まったく,図書館経営論ってのは何をやってんのかね。

あと,雑誌記事索引をひくと図書館と物品管理法の文献が一件ひっかかるけど,あんま引用しないほうがいいと思う… 先行文献一切調べてないみたいだし 法文を自分の解釈だけで解釈するのって,そりゃーあんまりですがな。

わては(幸いにして)法学部でなかったんで,物品管理法のことしらべるまで法律の解釈とはなんぞやってことゼーンゼン知らんかった。で,困ったんだけど,次の文献が超イイ(法学では定番みたい)。

法令解釈の常識 / 林修三. -- 日本評論社, 1975. -- (セミナー叢書)  まだ売ってる

これ読みやすいし,だいたい法律がいいかげんなものだってことがよくわかる。で,結局,解釈する側の常識が重要になるわけですね。

この本で展開されてる議論ってのは,じつは,indexing作業にまんま当てはまることにもビックリ。それについては,論文1本かけるよ。