書物蔵

古本オモシロガリズム

死せるカクロウ,生ける広報官をうごかす

金森徳次郎ついでに日曜の産経に「国会図書館/職員過多」って記事がでた。原紙をみると,第1面右上トップで題字がすごくデカイ。むむむー,国会図書館はさすが巨大図書館だす〜。題字がデカイのは,産経の認知度がたかいっちゅうわけだす〜。

コトの是非はとりあえず措いてといて(論理的にはいろいろツッコめる記事ですが,こーゆーのは背景に政治的な意図があるので,ツッコンでもあまし意味ナイ),図書館現象学派として注目すべきなのは,記事本体じゃあゼンゼンない。ではどこか。

末尾の「国会図書館幹部」の反論なのだ。それも意味内容ではなくて,表現

〜行政府に対抗できる専門家が必要。森羅万象の法律を扱うので多すぎるとは思わない

どですか?なにかのコトバが引っかかりませんか?そう!「森羅万象」ですよ!

わからないかな。これは日本におけるリファレンス業務の父(と,いま私が宣言します),志智嘉九郎(シチ・カクロウ)のスローガンなのです。

昭和二十四年頃,この仕事を大々的にやろうと決心し,それをPRするために,

古今東西森羅万象,判らんことがあれば,なんでも一応,図書館へ相談して下さい(下記p.56)

この豆本は,古書の蒐集を再開して最初に買ったものの一つ。ネットで安かった。
 知事の難題 / 志智嘉九郎. -- 豆本“灯"の会, 1978.3. -- (灯叢書 ; 第8編)

国立図書館のデータで,NDCに289.1(日本人の伝記)がついているけど,まちがい。正しくは,015.2049(レファレンスワークの雑)。豆本の図書館本はほかにもあるけど,そのNDCのまちがいについてもまたやりまする〜(ひつこいか?)。

んでもって,国会図書館にある調査局ってーのは,Research and Legislative Reference Bureau がホントの名前なわけです。

そんで,このリファレンスってコトバは当時の日本人には全然わからんかったんで,こんな議論を国民の代表がしました。

○大石(倫)委員 カタログとかサービスという言葉は大体日本語にしても意味が通るが、リフアレンスだの、ヘべれけだの、そういつたようなことを法文の上に現わすことは、われわれ議員としての責任上、よほど考えなければならぬ問題だと思う。

2-衆-図書館運営・議院運営委員会連合審査会-1号-昭和23年2月3日 大石倫治(おおいしりんじ日本自由党http://kokkai.ndl.go.jp/

「リファレンス」ってのは,当時,「へべれけ」なわけです。んで,立法リファレンス局は立法考査局になりますた(笑。

ですから,国会図書館が,立法考査局をまもるのに「森羅万象」って表現をつかうのは,その背景に,志智嘉九郎の影響をみてとれるわけです。死してなお,広報担当官の無意識を操るとは。むぅ,偉大なりカクロウ…。

蛇足ですが,立法考査局があったんで国民むけには「一般考査局」もありますた。いまでいう参考係なわけですが…,一般考査(General Reference)局って,偉そうすぎ(笑。

蛇足ついでに,調査及び立法考査,ってあるけど,調査と立法考査の違いはこれでわかってきやす。

立法考査は,レジスレーティブ・レファレンスなわけだから,リファレンス,つまり文献に依拠しなければならないんすね。対して調査は,文献に依拠せずともよいわけです。先行文献がなくてもフィールドワークなどして(自力で現実から概念をきりだして)判断しリポートする活動です。学者でもよくなしえない技です。すごすぎ。