書物蔵

古本オモシロガリズム

かつて国会図書館で投書や著作権法違反はどう扱われていたか。また調査員に発令されると行う悪習について

書庫から天国へ昇った人の話:追悼文集から図書館史トリビア

しばらく前、神保町の古書展でだったか、ぐろりやさんに譲ってもらった小冊子を車中で拝読。なかにオモシロな記述があって、ゲラゲラ笑う(不謹慎?)。
いやこれは、自殺しちゃった人の追悼文集で。

読んでみると神奈川大学のあと図書館職員養成所(別科か?)をでて国会図書館に入館し調査及び立法考査局(調立;ちょーりつ)商工課に勤めた人。肖像や著作一覧もある。英仏伊語や数学ができて調査員として嘱望された人であったらしい。変わったところでは、文芸春秋. 44(4)に「わかっちゃいない大人たち:子供の眼に映る哀れむべき大人の人生! それをフランスの現代ッ子たちは痛烈に批判する」J・ドレ(p174〜182)なんちゅー翻訳をよせとる。この文集、数十人が文を寄せているが、それらを総合すると、自殺の原因は精神神経疾患。統合失調のようでもあるが、過度の躁鬱病のようでもある。発症してから調査をはずされ、調立庶務や新聞雑誌課(新雑;しんざつ)に廻されたようである。

むかしの人達

追悼文を寄せとるなかで、九段高校の時の担任が柳沼, 重剛, 1926-2008 || ヤギヌマ, シゲタケで、もともと「野球が好きで勉強が嫌いな」子だったので「正直な所、勤め先が国会図書館というのには驚きましたが、その勤め先が気に入っているらしいのも驚きました」と言っていたりが唯一の有名人かなぁ。ほかに書いているのは同僚たちばかりらしく、「書庫の階段をのぼって、目ざす屋上に向かって」「そして、何分かのち、彼はあの高い所から確実に死んでいった」(p.45)とかある。どうやら書庫の屋上から館長室前へ飛び降りちゃったらしい。。。(´・ω・`) この不幸は昭和56年4月13日のことであったらしい(p.4)。でもみんなできちんと追悼しているね。むかしの人達は情があつかったんだねぇ。。。

投書というもの

でも、そういったご本人の不幸はともかく、背景に書き込まれていることがオモシロい。とくに坂本博といふ人*1が「思い出したくないこと」(p.48-51)というのを書いているなかに。。。

〔新聞雑誌課の〕部屋に着いてお客の投書が掲示されていると、必ずそれにコメントや反論を加える。無視しすることができないというよりか、返事をしないと相手に悪いという気持ちだったらしい。

これを分析すると、1)投書は事務室内に掲示されたが、2)大かたの職員はそれを無視していた(まじめに受け止めちゃうのは病気の人だった)ということがわかる。投書がどうなるかといった利用者にとっては重要でも館首脳からはどーでもいいことについては、なかなか外部にわからんからこれは貴重なり。

複写実務と著作権法:複写代行業者を当局は見逃していたとしか読めないが(σ^〜^)

組合は、著作権法を盾に文献複写取次業者を排除しろと〔松沢茂さんに〕アジられたこともある

「文献複写取次業者」という言葉ははじめてみた。この一文から分析すると、「業者」はどうやら著作権法に抵触するようなことをやっていて、それを当局が排除しないから職員組合が(正義の観点から?)排除せよ、言われたということかしら。。。さうすると、当局は業者を見逃していたといふやうにしか分析でけんが。。。 しかし、それを言っていたのが精神神経疾患の病人であるということはどういふことなのか。。。って、さふいふことか???(σ^〜^)
複写業務って実は結構重要だと思っとるんだけど、その実態ってーのが、じつは記述されんのよ。まあ本質的には現行の著作権法に到底遵守できんような条項がある一方、昭和時代の日本人の遵法意識ってのは今とずいぶん違っていたからなんだけどね。

ダマガリとは何か?:調査及び立法考査局調査員に発令されると行うことなの?(σ^〜^)σ

いちばんゲラゲラ笑っちゃったのは。。。

(調立から)新雑に来たのでダマ貸〔ママ〕りを全部返しますから見て下さいなど告白する明け広げな彼と話していると、何事もはぐらかして仲〔ママ〕々本音をはかない自分が無言の批判を受けている気になるのであった。

というところ。
わちきがむかーし居たことのある図書館では「ダマガエシ」というジャーゴンがあって、そしてそれは、なんと日本の図書館にしてはめずらしく「延滞料」を徴収するために、延滞者が返却手続きを故意にせずに書架の定位置に戻してしまうという現象をさした言葉だったけれど、この図書館には「ダマガリ」なんちゅー言葉があったのね。
これを分析すると、おそらくダマガリはダマガエシの反意語で、手続きのない貸出のことであろう。来たから返すというのは来なければ返さない(ですんじゃう)ということを暗示しているねぇ。来たから、つまり異動したから、ということはある部署に属していればダマガリをしても特にとがめられないか知らないふりをされる組織風土があるけれど、ちがう部署にはちばう風土があるからそれに従いますよ、ということかしら。この人は、調立から新雑という異動だから「告白」することになったけど、逆の異動なら逆のこと、つまりダマガリをしない人がするひとに風土としてなる、というように読めてしまうが。。。
って、またくりかへしちゃうけど、これらの証言全体が精神神経病の人の証言という図式――それも自殺した人の――で語られているのは、こりゃ、どーゆーふーに理解すればイイのかしら(σ^〜^)

追記(2013.6.19)

さうさう。このエントリを改めて見て思ひだしたけど、このエントリを読んだ人からかなりまへ、じきじきにメールが来て、落ちた場所は館長室まへではないのではないか、とのことであった。まぁその人も現認したわけではないさうだから、なんともいへぬのだけれどね。

2013.12.30追記

タイトル副題に「→国会図書館において投書はどうあつかわれていたか?」を足す。
注記に「おそらく、坂本, 博, 1949- (サカモト, ヒロシ, 1949-)。」を足す。
小見出しに、「複写代行業者を当局は見逃していたとしか読めないが(σ^〜^)」と「調査及び立法考査局調査員に発令されると行うことなの?(σ^〜^)σ」とを足す。
証言全体が精神神経病の人の証言という図式――それも自殺した人の――で語られている」を強調し、「――それも自殺した人の――」を足す。
ほんに国立国会図書館史上の奇書であることよ(゜〜゜ )
さらに、タイトルを「かつて国会図書館で投書や著作権法違反はどう扱われていたか。また調査員に発令されると行う悪習について」に変えてみる。
ほんとうにこれは奇書ですよ。

同日さらに追記

以前、ツイッターで、

保存論のダメさで思い出したけど、池本幸雄;坂本博;沼田良 「図書館「破壊」学入門」『図書館研究シリーズ』(22) p.65-132(1981)がいまでも基本文献。これ読まずに保存論を語る連中は全部ダメただこの論文、ものすごく奇矯なんだよねぇ。わちきは好きだけど(σ^〜^)
https://twitter.com/shomotsubugyo/status/246252244067053568

とつぶやいたが、どうやら、上記の坂本さんといふのはこの論文を書いた人とおぼゆ。年齢からいってすでに現役を退いた人らしいが、共同執筆者はな、なんと、副艦長をやっとるらすぃ〜\(◎o◎)/!
http://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2012/1195949_1827.html
この「図書館破壊学入門」も奇書ならぬ奇論文の一つで、論はまったく正しいのだが、その注に書かれていることがなんともスゴイ(σ^〜^)σ
しかし、あんなこと書いて次官になれるとは、じつはものすごーくアナーキーなところなのだろうか(・o・;)

*1:おそらく、坂本, 博, 1949- (サカモト, ヒロシ, 1949-)。