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古本オモシロガリズム

「創刊号」の語誌

「創刊号」といふ言葉はいつ頃から使われ始めたのか?

半年ほどまへ、雑誌の創刊号コレクションの意義(といふか機能)につきて森さんと話がもりあがったことがあって、そン時、記事をまとめたのが、保存されとらんで、すっかり放り投げとったのだが、ここに部分的に再現するなり。

専門辞典にないなぁ(´・ω・`)

みんながフツーに使っている言葉でも、意外と出自が調べられないことってのもある。
創刊号」もさう。
専門事典類にこのコトバがでず(・∀・`;)
こんなこともあるんだねぇ(*´д`)ノ
さういふ場合には一般辞典や百科事典だ、といふことで、「日国」を引くと、【創刊号】とは「新聞・雑誌など定期刊行物の最初のもの」で、【創刊】は「新聞・雑誌など定期的な刊行物を初めて発行すること」とある。

けど、いつ頃からのコトバなの(σ・∀・)σ

「日国」の創刊号の用例は「竹沢先生と云ふ人」〈長与善郎1924/25〉、創刊のほうは「血」〈岡田三郎1927〉になっている。日国の用例は必ずしも初出とはいへないけれど、とりあへず、大正時代にはあったコトバと考えてよろしかろ(´・ω・) 一方で、『明治文学全集』の総索引に出てこないから明治のコトバではないっぽい(・ω・。)
大正初期のコトバかなぁ。
と、読売新聞で調べたら、どうやら1909年ごろからのコトバらしい(創刊)。
それまでは単に、一号とか初号を売出す/発刊するという表現であったと(σ・∀・)

「まこと新聞は昨日より売出しになりましたとさ」(読売新聞1876.1.24朝)
「文学雑誌といふができ一号が売出しになりました」(読売新聞1876.7.19朝)

と、明治期はおほむね、一号、初号という素直な表現。
と、明治も末に、「発刊」という表現がみうけられ、

「雑誌文芸評論は愈々来月一日初号を発刊する由にて」(読売新聞1907.9.14朝)
「「常盤木」は与謝野寛氏の都合にて還延し来たりしが来月中旬に初号を発刊すと」(読売新聞1909.3.29朝)

さらに「創刊」という表現も使われるやうになるやうだ。

「中学文壇」は創刊十一周年に達せしよ以て内容を改新して」(読売新聞1909.6.16朝)
「「新文芸」と題する雑誌創刊せらるべく」(読売新聞1910.1.6朝)

んで、新聞のしらべはこんなとこにしておいて、「創刊」ならぬ「創刊号」といふはいかに、とて、とりあへずOPACなぞをバ引くと(=単行本扱いの雑誌が引っかからん、とて)、こんな雑誌が1912年にはっきり「創刊号」と謳っている。

落語と浪花ぶし. 創刊号 / 華声社. -- 春江堂, 明45.3

まあ、創刊も創刊号も、明治末に出てきた言葉といふてよいのでは(*´д`)ノ

同義語、類義語、翻訳語

専門辞典のたぐひに出てないと言ったけど、唯一出てたのは、文科省の学術用語集(図書館学図書館情報学編)でハ、first issueと英語でいふとあり。

(和)創刊号
(ローマ字)so^kango^
(カナ)ソウカンゴウ
(英語)first issue
分野コード G:資料・メディア
編名・刊行年 図書館情報学編 Copyright 1997 文部科学省日本図書館情報学会
http://sciterm.nii.ac.jp/cgi-bin/detail.cgi?FILE=lib97.sgml&ID=0007620&REFER=first+issue&REC=%BF%DE%BD%F1%B4%DB%BE%F0%CA%F3%B3%D8%CA%D4&YEAR=1997&CP=%CA%B8%C9%F4%B2%CA%B3%D8%BE%CA%A1%A4%C6%FC%CB%DC%BF%DE%BD%F1%B4%DB%BE%F0%CA%F3%B3%D8%B2%F1


ほんたうかすら、とて、さっそく入手せる例の英中・中英図書館情報学用語辞典*1でfirst issueを引けバ、
inaugural issueともいふとあり。そこで一般辞典をしらべると、Inaugural とは、就任式などの意味で、ラテン語の動詞、inaugurare(インアウグラーレ:卜占官に伺いをたてる)が語源とぞ。ちなみに、アウグストゥス(尊厳者)は類語。
さらば、ホントは、first issue(ファースト・イシュー)の訳語ってば、「初号」で、創刊号のほうは、inaugural issueに対応するような気もせんでもなし。もすかすて、明治末に、inaugral issueという英語に接した誰かが、その大仰なものいひに、創刊なんちゅう言葉をあてたのかしら(あくまで可能性として)。
ちなみに「日国」の【初号】の項では、同義語が「第一号。創刊号。首号」となっている。用例は『風俗画報』(1899)だから「創刊号」より古いコトバっぽい。
創刊の同義語に「発刊」もあり、こちらの「日国」用例は「一年有半」(1901)。けど、「発刊号」とは、あまり言わない気がする。

ん?(・ω・。) 台湾愛書会の影響???(^-^;)

Glossary of library...によれば、大陸では、日本同様、【创刊号】というらしいが、台湾では【首刊】というらしい。ん?(・ω・。) こりは初号の同義語とされとる「首号」にきはめてちかい表現(+o+) もすかすて、台湾愛書会あたりを経由して戦前日本書誌学が台湾図書館情報学・目録学用語に残ってしまったのかしら(((( ;゚д゚)))アワワワ
因果はめぐるかざくるまヽ(o`・∀・´)ノ.+゜
か???(^-^;)
独逸ザウア社の上記辞典はこのやうに使えるのであるなぁ。日中書誌学・目録学用語の影響関係の類推にもつかえさうなのはモチロンのこと、なにより、へっぽこ(=語彙数が決定的にすくなすぎ)の日本図書館情報学用語辞典類の補助として。
いとスバラシ!`・ω・´)o

とりあへず、創刊号コレクションの補助論として「創刊号」語誌

創刊号が珍重されるようになったのも、明治末の「創刊」「創刊号」概念の成立以降とかんがへてよろしいかすらん(*´д`)ノ
森やうすけ氏の意見が聞きたいところである(`・ω・´)ゝ

*1:Glossary of library and information science : English-Chinese/Chinese-English / Su Chen, Shi Deng = Tu shu guan shi yong ci hui : Ying Han, Han Ying / Chen Su, Deng Shi.. -- K.G. Saur, 2006.