書物蔵

古本オモシロガリズム

出版法研究の定番?

しばらく前に古書展で拾った、マス・メディア法政策史研究 / 内川芳美. -- 有斐閣, 1989.6 を読む。非常に今のわちきにはオモシロい。著者は進歩的観点から分析しとるので、ちょっと「反動的」とかいいすぎる嫌いもあるが、基本的な事実関係がきちんと抑えられていて勉強になる。5000円ぐらいで拾った記憶があるが… アマゾン・マケプレで2万もつけとるとこがあるね。でもマスコミ史や出版史の研究者には必須アイテムなのだろうなぁ。
わちき的にオモシロなのは、内川先生も雑誌を含まない新聞だけの統計はみあたらないと言っているとこ(p.83)とかなんだけど、日本図書館史的に最重要なのは第5章「言論統制装置としての出版物納本制度」のとこだね。「出版物納付法案」ってゆー第65帝国議会(S8.12.26-S9.3.25)で審議未了になった法案をてこに、納本法規について考察してる部分。

「出版物納付法案」(昭9)に帝国図書館

内川先生は「〔反動性をごかますための〕姑息な狙い」と指弾しておるが(p.184)、この法案に、

第十一条 出版物ノ発行者ハ其ノ発行後直ニ帝国図書館ニ現品一部ヲ納付スベシ

とあるのが日本図書館史的にはキモ。でもまあ直後に「前項ノ出版物ノ範囲ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム」と続いているから、法律が成立したとしても(戦後の文化国家日本と同様に)実務官僚が網羅性を毀損してしまったろうけどね。図書館官僚にも「配電盤理論」は適応できると思うぞ。
内川先生はこの法案は全体として出版統制の強化を狙ったものであるとし(まあ同意)、その納本の部分を抜かした形で、のちの「不穏文書臨時取締法」(昭11)になるという。
館界で「図書館法研究」ってゆーと、1950年の「〔公共〕図書館法」の祖述でしかない(そんなのなら西崎恵の本が1冊あれば足りる)ケド、こういった文献は参照されないようですな。

同法案に図書館学のにほひ?

同法案は第二条で「定期出版物」(新聞・雑誌)と「普通出版物」(単行本)を分けているんだけど、その定期出版物の定義の一部にこんな表現がある。

終期ヲ予定スベカラザル出版物ヲ謂ヒ

これって、図書館情報学で習う「逐次刊行物」の概念規定と同じだよね。
あくまで出版物の内容、それも反体制的言辞にしか興味がなく、出版物の外見、つまり書誌学や図書館学には縁遠い内務官僚サマ方が作った法案にしては、あまりにも図書館学的な表現(゚∀゚ )アヒャ
これは…
帝国図書館をつうじて英米図書館学の講学上の概念が、戦前の日本の実定法に影響をあたえんとした稀有な瞬間といえるかも(・∀・)
こーゆーのこそ、図書館史トリビアの粋の粋ですなぁ(*´д`)ノ(って、なに言ってんのかワケワカランでしょうが)