書物蔵

古本オモシロガリズム

落ち穂拾いでル・モンド,じゃなかった『世界』の図書館論説!

関西遠征などで忙しく,東京の古書展への朝駆けに遅参いたしてをる次第(^-^;)
今日も遅参してしまふ。
けれど,世間的には無価値だけどわちきには価値のある図書館本をいくつか拾えました。
たとえばこれ。
情報社会の図書館 / 丸山昭二郎. -- 丸善, 1982.11
300円。インターネット普及期以前の図書館におけるコンピュータの利用についての本なんだけど。
Webcatのこの本の注記をみると,共著者: 丸山泰通, 堂前幸子, 成田憲彦 とある。
成田さんって人が書いた小説を書店でみたことがあるよ… (・∀・)
それはともかく,さらに落ち穂拾いをしていくと…
あっ('0'*)こりは〜!
総合誌『世界』キタ━━━━ヽ(^∀^ )ノ━━━━!!!!
〜〜〜
書誌学には手厚いのに図書館学とは没交渉岩波書店
その岩波の表看板『世界』
公共図書館には『世界』ばっか,などというねらーの文句もありますが,あれは単に古くからあるという理由でしかないことが近年,図書舘情報学の若き学究により明らかとなったとか。
まあ,ともかくその『世界』の昭和22年6月号に。

国立中央図書館の問題 岡田温

えっ?えっ? なにが「問題」なの???

2つの道 国会か文部省か

まず経緯説明がある。
昭和21年の秋の国会で,姉崎博士が貴族院で「國立中央図書館の性格をもった國会図書館」を建議して可決されたが(ネットの会議録DBによれば,90 - 貴 - 本会議 - 42 号(回)昭和21年10月9日),一方で,文部省のほうでも終戦後まもなく国立中央図書館を立案しはじめ,これも昭和21年秋に骨子案がまとまったという。
つまり,岡田のいう「問題」とは,

国立中央図書館として,果たして国会図書舘を以てこれに当てるのが適当か,或は文部省をしてやらしめるのが適当であるか

という問題なのだ。
気をつけないといけないのは,この時,「国立・国会」図書舘はまだない,ってこと。一方で,「ただの・国会」図書舘が,これより2ヶ月前に制度上はいちおー存在していた,ってのがややこしいけどね。(国立中央の機能はないタダの国会図書舘。昭和22年4月に国会法と同時に「(ただの)国会図書舘法」が公布されていたことは,ほとんど知られていない)。
国会付属図書館が,まだこれから作られようとする前に,帝国図書館長たる岡田温は,総合誌たる『世界』にこの論説を発表したのだ。

帝国図書館長のご意見は?

この岡田の論説,後半2/3が帝国図書館の設立事情とか一般論とかでいささか論旨がぼけており,あるいは,このボケはわざとにもみえるのだが,要するに岡田の意見はどっちかといえば…

現在のところでは公共図書館側は大体後者に傾いている。この辺の空気をも考慮してか,米軍民間情報教育部の図書館担当官の意向も後者に在るようである。

と,館界,GHQともに文部省案に傾いているという指摘をし,さらに…

貴族院姉崎正治博士が文部省案を後から知った時に)博士は簡単に,それはどこでやっても宜しい。要するにそのような大規模な国立中央図書館がどこかに出来さえすればよろしいのだと云われたという

と,「国会」図書舘中央化の貴族院決議だって,その発起人はどっちでもいいよ,と言っているじゃん,と指摘。
これって。
岡田温氏自身は,国会図書舘の中央化に反対!と言っているに等しいよね。

ほんとうにあった「大・国立中央図書館」構想

それに岡田がいうには,文部省案は単なる帝国図書館拡充案ではないという。

新たに日本の図書館事業の中心機関として白紙の上に国立中央図書館を描いて見ようとするもので(中略)幾つかの民間の法人大図書館をも出来れば一つに総合し,勿論文部省としては現在の帝国図書館を加え,いわば官民で既成の図書館を供出し合って一大国立中央図書館を作り上げて,これに各種の機能を与え,全国図書館の中心機関たらしめようとするのである。

なるへそ。

国会の副業路線を選らんだわが国

今から考えれば。
この,真の意味での「大国立中央図書館」(岡田の言葉を借りてこう呼ぶね)は,公共図書館などと制度的な連携をする方向のものであったわけだが,歴史的事実としてはこの構想は頓挫したということになる。公共というよりも,官庁付属図書館を「支部図書館」として取り込んだ「国立・国会」図書舘というものが成立することになる。
「大・国立中央」は当時の館界の標準的で堅実な理想を描いたものであった。これ対して,「国立・国会」はといえば,三権の長を調整する第四権という,米国でも無理だった,より高邁な(=より現実性の薄い)理想を絵に描いたものだった,という説はこのまえわちきが紹介したよね
昭和22年から23年にかけて,公共図書館(私立公共も,ですぞ!)を組織化していく「大・国立中央図書館」の構想をなげうって,「国立国会図書舘」構想へと図書館政策の舵がきられていく瞬間の証言が,この『世界』なのだわさ(それも反対派からの)。

それからどうなった

さてさて…
わが国が選んだ第四権としての国立国会図書舘はその後,どうなったか… って,みんなでまのあたりにしたばかりだよね。
やめやめ,ってことになった。
って独法化の話じゃないよ,これはまだなのだ(・∀・)。
その前の館長2階級降格事件(2005春)のことをいってをる。
独法化なんてのは,この戦後の理想(第四権論)にくられべればちっちゃいことなのだ(それに… 館界では例外的に,わちきは独法化賛成だしね(・∀・))
第四権論なんて知らなかたーよ,などと驚きいぶかしむ向きもあるやうだけど(まぁ,むりもないけど),(とっても×2)おもしろいのは,独法化賛成の中心人物がそれをはっきりと認めているのだ。

図書館長は三権の長」を調整する役割が期待された時代もあったが,今は衆参事務局総長の天下りポストだ。(『毎日新聞』3/20朝「闘論:国会図書舘改革 坂本由紀子氏/成田憲彦氏」の坂本女史の発言)

独法化の主導者も認める第四権論。もやは(=去年)歴史となってしまったけど図書館史トリビアとしては十分オモシロ。けどこの第四権論,図書館学系の人たちは全然しらないで,国会図書舘独法化論者のほうが知っているってのはなぜ? もしかして図書館人のほうがバカなの? それとも坂本タンに図書館通の内通者がいるのかしら (・∀・)