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古本オモシロガリズム

図書館史の術語としての「帝国図書館」

戦前期、日本帝国の国立中央図書館は、いつか話したやうに、場所も転々とし名称も頻々と変わり、あまつさえ、設置主体すら変わったことさへあるうえ、当初は、国立だけど必ずしも中央図書館的性格は持ってをらんかった。だからこそ、最初の名前はナントまぁ「書籍館」という一般名詞かつ固有名詞だったわけで(当初の東大が「帝国大学」だったのに似ている)。
帝国図書館の内部文書を使って歴史を書きまくった(?)西村正守がこれについてオモシロイことを言っている。
『参考書誌研究』(6) p.23-36 (

〔論文の〕表題については、当館の全身を一括して呼ぶ名称に実は困った次第であって、上野図書館とすれば、明治十八年以前の湯島聖堂時代をはずすことになるし、国立図書館とすれば、東京府所管時代の扱いに窮するわけである。
 止むをえず、一応最も長期且周知の帝国図書館の名でこれを代表させることとしたが、落着の悪い点は御寛容願いたい。(p.三四:右開きページ)

ということで、明治5年の書籍館公共図書館のモデル館)にはじまり、昭和23年に国立国会図書舘に合併されるまで77年にわたる東京の国営図書館を総称せんとすれば、人口に膾炙した聖堂の図書館(明治期)でも上野の図書館でもなく「帝国図書館」と呼んでしまうしかない、ということです。

文部省・書籍館(1872.4.28)→博覧会事務局・書籍館(1873.3.19)→文部省・書籍館(1875.2.19)→同・東京書籍館(1875.4.8)→廃止(1877.2.4)→東京府書籍館(1877.5.4)→文部省・東京図書館(1880.7.1)→帝国図書館国立図書館

もちろん、勝手に「日本帝国図書館」とか形容詞句をつけちゃだめよ。

追記

すかさず友人からつっこみ(*´д`)ノ
上記のことを理解したうえで、帝国図書館だと、実際にあった官制「帝国図書館」とまったく同じ表現形になってしまうので得策ではない、という。
ん?(・ω・。) たしかに(^-^;)
すると聖堂の図書館をあへて捨象して「上野図書館」というしかないのか。

追記(2019.6.17)

中島京子「夢見る帝国図書館」(文藝春秋,2019.5)が人気である。
出てすぐ、ドクターストップがかかって時間ができたこともあり、通読したのだが、このような形で日本の一般読書人に帝国図書館史が普及するとは、意外なうれしさもあった。
わちきの周りでは、対象物あまりに近すぎていまいち楽しめんかったなどという感想もあったり、わちき自身は作中作を、もう、ほんとに擬人化した話にしてしまってもいいようにも思ったが。
それはともかく、上記の件、つまり明治5年のザ書籍館から昭和23年の国立図書館までの官立図書館を現在呼ぶ際、「帝国図書館」と呼ぶのでよいと改めて思った次第。
ちゃうど、ご本人たちは、どこまでいっても「自分たちはローマ国だしローマ人だよ」と1000年以上も言ってた人々を、我々が、ビザンツ人とかビザンチン帝国と呼ぶようなものとして。