書物蔵

古本オモシロガリズム

徴証を判然たらしむべし!――受入印の起源について

 蔵書印がマイブームである。ただしわちきは近代にしか興味がないので近代蔵書印。
 で、蔵書印自体については戦時中の小野則秋以来――彼は大東亜戦争にも蔵書印は重要だと書いていた――の研究があるのだが、図書館の「装備」の歴史(林靖一を見よ)を検みすれば、蔵書印以外に各種の「補助印」があったことがわかる。
 ところがこの補助印についての研究がまるでない。
 補助印のなかでの筆頭は、日付入りの受入れ登録印だろう。日付によって会計単位ごとに財産登録された日時がわかり、日付以外の文言によって入手経路などがわかる。
 もちろん財産登録簿(図書原簿)が残っていればそれを見ればいいのだが、失われた組織の場合、図書原簿は残っていないことが多いし、残っていても文書開示請求しないと見られないところが多い。
 一方で図書本体に押印された受入印を見ると、その年その月その場所にその本が確実に存在していたことを証することができるので(まれに後世の偽印があるが)、書籍の受容史(=読書史、学説史)研究で便利な情報として使われる。しかし、受入印についての研究もまるでない。
 そこで少し調べたのぢゃが...
 ちょっと面白いものを見つけた。

 福井保が編んだ蔵書印譜に「内務省図書局」が立項されている。そこでは「大日本帝国図書印」なる印が紹介されてをるのだが。
 その説明文中にこんなのがでてくる。

また、「内務省図書局保存課処務順序」の第四条に、「一切ノ図書ニハ(大日本帝国図書印)及(某年納本或ハ献本謄写購求)ト彫シタル小印を捺し徴証を判然タラシムヘシ」と規定され、受入印が併せ押されるようになり、これによって収蔵の年代を明らかにすることができる。

 さすが福井さん、書誌学者でなく司書ゆゑに書けた記述かとおぼゆ。そして、内閣文庫にあった実例として「明治九年購求」「明治十三年購求」「明治十五年納本」の3例を図示してゐる。
 それはともかく、すわこそ、とて、この「内務省図書局保存課処務順序」を探したるに、これが見つからなーい。コマッタ∩(・∀・) ∩
 とて、せうがなく次のものを見つけてきた。

図書局分課〔明治〕十五年三月十日
 図書局保存課処務順序
  第四条 一切ノ図書ニハ(大日本帝国図書印)及(某年納本)(或ハ献本謄写購求)ト彫シタル小印を捺シ徴証ヲ判然タラシムヘシ(『法規分類大全 官職門 官制』p.245)

 少なくとも明治15年段階では事務分掌内規に明示されていたことがわかる。
 で、わちきが興味をもっとる帝国図書館書籍館)のはうなのぢゃが。
 デジデジを見るに「明治九年文部省交付」とか「明治九年図書寮交付」といった印や「明治十年×月×日文部省交付」といった印が見受けられる。これを併せて考えるに。
 1876(明治9)年ごろ、内務省図書局保存課において「(某年納本)(或ハ献本謄写購求)ト彫シタル小印」を押し始め、それを真似てか同時に東京書籍館においても「(某年納本)(或ハ献本謄写購求)ト彫シタル小印」を押し始めたのではあるまいか。そしてその目的はまさしく「徴証を判然たらしむ」ためだったと言えるのではなかろうか。