書物蔵

古本オモシロガリズム

館界スキャンダル 著者標目の生年がなくなる

jun-jun1965さんの「二人の松井みどり」という記事をみたら,日本の学者にしては非常にめずらしくOPACの名称典拠(の機能を正しく使おうとしていること)に言及があった。
それで思い出したんだけど…
手許に,図書館界でも誰が読んでいるんだか不明の連絡誌(のコピー)がある(まぁ都立の目録屋さんは読んでいると言っていたが)。
『全国書誌通信』122号(2005.11)
これは,national bibliographyのデータを作っている部署が出している通信誌。
「目録情報と個人情報について:個人名標目の運用方針」という記事にこんな記述が。

従来は同名異人を区別する必要がない場合でも生年の付記を行ってきたが,今後,新しく典拠レコードを作成する標目については,同名異人の標目が存在する場合にだけ付記事項とする。ただし,没年が判明した場合には,同名異人の標目が存在しない場合でも生没年を付記事項とする。(p.2)

「目録情報と個人情報について」ってタイトルでは全国書誌作成機関のホムペにも文書があるし,それをもとに図書館系ブログとかいうやつでもお知らせが流れてた…
しかし,図書館系ブログってのもそーとーにバカだなー
その文書のキモはホムペのあたりさわりのない文章じゃなくて,その文章の解説,この「通信」にちょろっと書かれた上記の説明文にあるのだ。
え? 全然わからんって。
うん。
いままでは,著者標目には,ほぼ必ず生年がついてきてたけど,

これからはほとんど全然つかなくなりますよ。それでよろしいですね。

といっているに等しいのだ。(補足 これから作るデータに生年がつかない,ということらし。いままで作っちゃったものは生年がついたまま。それは結構だけど,なぜ???)
これでわちきの裏技「全国書誌データの著者標目を簡易人名辞典として使う」はできなくなってしまうのだ。
もちろん付記事項(ほとんどの場合,生年)は,

同名異人がいた場合

の識別子だから,別に生年でなくともよいし,同名異人が(言説空間上に≒単行本著者に)いなければ(本来は)つけなくてよい(末尾に追記しました2010.9.11)*1
ただそれは,目録原理上,理念上の話で,実務上は,いつ同名異人が出現するかワカラナイから,問題なく(公序良俗に反しないで)判る範囲で全員に生年をつけてきたわけ。
いまでも米国ではそうなんじゃないかな。
しかるに図書館後進国の日本では,後から進んでいるどころか,プライバシー保護の美名のもとに退歩させるということになったわけだ。
これで,

平成末から次の時代にかけての著者たちの生年は,その次の時代の人々からは(すくなくとも全国書誌データ上では)全然わからなくなってしまう

というわけ。
わちきはかまわんけど(今の著者達は同時代人なんで識別しやすい),次の時代の日本人達がみんなこまることになる。
わちきの考えでは,これは近代目録史上のスキャンダルなんだけどね。だれも騒がんね。
書誌ユーティリティーという概念がある(あった?)。
わちきは全国書誌データを提供するNDL-OPACをユーティリティのごとく使ってきた。
ユーティリティーって,ようするに水道ね。
コーラみたいに人工添加物ははいってないけど,適度なミネラル分を含み,お腹がいたくならない程度に衛生管理された水がでてくる蛇口。それで水道代はものすごく安い。
その水をジャバジャバだして,論文を書いたりできる。
その適度なミネラル分をわざわざ抜いてしまいますよ,ということ。
ま,日人には米人並みの図書館サービスは豚に真珠ということだった,というわけだ。
にしても,目録の専門家さま方が騒がないのは困ったもの。それでほんとに専門家なの???
でもまー,もうこれは決定して実行されたあとのお知らせの,そのまた解説だから手遅れ。

訂正、というか追記ね(2010.9.11)

つい、和中説にひっぱられて、同一言説空間内(例.同一書誌DB、OPACなど)でアイデンティファイできとれば、それでいーんぢゃないか、とおもうておったけれど、意見をかへまする。
やはり、姓・名+生・没年、つまり、表記+4ケタor8ケタの数値、という形がベストかと。
理由は、同一DB内でなく、自立分散的に入力したデータであっても、結果としてアイデンティファイするには、いちばんラクで確実なデータ形式であるということ。
それぞれ別の場所で入力したものであっても、ほぼそのまま標目として総合目録などに取り込んでマージして、さしつかえないということ。
ここ10年で急にやかましくなった著作権の保護期間満了がすぐにわかる。合法的な著作流通には欠かせないものであること。
和中説はやはり、国会図書舘のOPAC内という、きはめて限られた言説空間内での限定的な正さだったといってよいだろうと思う。

*1:典拠ファイルについては,あんま文献がない。翻訳本があるけど,研究者系の訳者で,なんかヘンテコだしね。考え方としては,目録法-その見方考え方 / 和中幹雄[他]. -- 国立国会図書舘, 1989.3. -- (研修教材シリーズ ; no.6) が古いがよい。このシリーズは実はかなりよくて,わちき,ほとんど全部そろえつつあり。レファレンスの授業で教えられてからひそかに注目してきたのだ。