書物蔵

古本オモシロガリズム

いま・ここにある図書館戦争(『図書館戦争』の感想 2)

図書館手帳
ログをみてみると,こんな過疎ブログに,「有川浩」「図書館戦争」で結構,ヒトがくる。図書館員には,この本を読んではしゃぐな,って言ったけど,わちきは現役図書館員じゃないから,図書館戦争ではしゃいでみますた(・∀・)ニヤニヤ
ちなみに『図書館戦争』と無関係に1年前から使ってきた「図書館大戦争」って表現は,わちき(書物奉行)の創案ね。図書館戦争ならぬ,図書館<大>戦争。もちろん「妖怪大戦争」みたいなもん。
右の画像はほんものの図書館手帳ね(後述)。
んではヨタ話のはじまりはじまり〜(・∀・)/
〜〜〜
図書館戦争」いやーまじスゴイはこれ。
読者は,すごいイマジネーションだ,なんてすっかり思いこんでるけど,著者はフィクションを書いてるフリをしてるとしか思えないよ,わちきには。
だって,この小説で使われてるプロットやアイテム,そのまんま,この現実世界にあてはめられることばかり
もしかして著者はわちきをしのぐ図書館言説オタクではでは。

出版物浄化法

まず「メディア良化法」。これ,「児童porn禁止法」のことだよね。もともと刑法やら関税法やらで猥褻物は禁ぜられているのに,さらにメディアを浄化せんとするとは,さすが清く正しい日本国。
いや,しょーじきいってわちき,ポルノは好きだけど,児童pornはポルノだと思ってないんで,どーでもいいや,ってほってあったんだ。まー宮台センセとか一生懸命,国会の委員会に出てきて参考人してくれてて,うーん,ブルセラ評論家も国会招致とは,ってよころんでたんだけど。
ところがところが。
この禁止法,表現の自由を侵したり,検閲や記憶の抹消をひきおこす恐ろしい法律だったと,このまえ朝日新聞に教えてもらったんだわさ (・∀・)  正しいこと好きな朝日新聞さんよ,ありがたう!
って,知ってるよね,図書館員ならば。メディアを良化せんとする朝日新聞。さすがだわさ,清く正しい朝日新聞珊瑚礁事件よろしく(って若い人は知らないか),良いこと・正しいことのためには手段を選ばんのー (・∀・)
朝日記者さまが,法務省をけしかけて,国立図書館の蔵書を焚書させようとした話は一度したね。違法な図書は焚書せよって。
いやー,さすが正義の味方。
法務省が,朝日の誘導尋問にひっかかって(じゃなかったインタビューに答えて),有罪が確定したら図書館で持ってるのもダメ,ぐらいのことを言ったんだけど,国会図書邢は行政府でも下級官庁でもなかったから,「そりゃあ,おたくの省の言い分でしょ,わちきの省*1法務省の言うとおりにはせんもんね」でおしまい(閲覧停止にはしたみたい)。まあ,法務省も腹をすえて検閲・焚書しようという気はなかったからかもしらんが(議員立法だからね (・∀・) )。
小説では法務省と図書館組織の戦いを描いているが,この事件をズバリ予言しているううううっ!
うーん,国会図書舘はプロ市民朝日新聞社のしかけた焚書をふせいだのじゃ,たまには誉めてやれよ自由委員さんよ
けど,この浄化法って,もしかしたら昭和13年の内務省通達?のことをいってるのかもかも。「児童読物改善ニ関スル指示要綱」ってやつがそうなんだけど,これ「児童読物浄化令」なんて呼んでいた出版人もあった*2みたいだし。
まさしく出版史トリビア通。

階級としての司書資格

物語では,図書士に階級があることになってるけど… これもまた!!!
これは,かつて職階法のもとで,司書に細かく階級が設定されたことを暗示しているんだ。(いまでも,司書職は,「司書」と「司書補」の2階級制だけど,業界人すら忘れてたりする)。
大昔から職階法に注目していたわちきみたいな図書館人事マニア並のマニア。だれも,このことについてマトモに本にした人はいないよ。一介の戯作者とは思えない。ちなみに人事院により実際に告示された階級は5階級。(職階とは,職務を種類と難易度でこまかく分類したものなのじゃ。つまりエラサ順の給料表でもある)

「職種の定義および職級明細書〔司書〕(人事院告示)昭和26年2月28日公示」
1級司書 充実大規模館の部門の長・非充実大規模館の館長・充実中規模館の館長・図書館学校の校長
2級司書 非充実中規模館の館長・充実小規模館の館長・他館への技術的指導・図書館学校の教員・高度に専門的な業務の遂行
3級司書 非充実小規模館の館長・ごく小規模な館の館長・専門的業務に従事する・下級司書を監督・専門的業務のうち困難な業務を遂行 
4級司書 専門的業務のうち通常の業務に従事(事後的に上級司書の監督をうける)
5級司書 専門的業務のうち容易な業務に従事(常に上級司書の指示をあおぐ
大学図書館の業務分析』(1968)p.129-136を引用者が適宜要約(「充実」「大きい」などの基準はべつにあるので原文参照のこと)

もちろん職階だから,これら1〜5級の司書のほかに,図書館内には事務員や出納手がいるんですからねー。1級司書とか,偉すぎ。
物語中の「図書監」ってのも,こりは実在する官職「司書監」のもじりなんだねぇ。トリビアすぎ!

ほんとうにある図書手帳(図書館手帳)

隊員が持ってる図書手帳ってのも,こりは実在する国会図書舘手帳のパクリだね。うんうん。
小説では館員として役に立つNDCの要目表だかが載っているもんだけど,この手帳は,やくにもたたん国会図書舘法とかの情報ばっかだったんで,わちき的には収集対象にしなかったのだ。実際に役に立つ情報が載るんだったら,いろいろ算段して収集するんだけど。あ,でも,あそこが作ると,ほとんどまったく普及しなかったNDLC(国会の独自分類)の表になっちゃうか。これは使えないや。それに,あそこの職員さんたちは分類表に興味ないみたいだし。さかんに職員さんがたが改訂していたらしい(ipアドレスがさらされてたよ)wikipediaの同館項目,分類について重大な間違いがあるのにどなたも直さないようですな。
そうそう,いまある図書館手帳は職員向けみたいだけど,じつはわちきの図書館本コレクションに,利用者向け図書館手帳があるのだわさ。(画像)
『創立八十周年記念』と表紙にエンボスされたちっちゃなこの手帳。上野図書館が昭和27年頃に出したものらしい。中味は利用案内だけじゃなく館の基礎データや,都内主要館の一覧表まであって,読書家にとって行き届いたもの。
あっ,そーだ。このまえ高円寺の古書会館で座り読みした昭和25年前後の古書組合の新聞に,愛書家手帳を編纂中とかあったよ。NDCも載っけるんだって。まさか,それを知っていたのか著者は。だとしたら古書オタクでもあるのか!!?
まあ,些末な問題はこれぐらいに (・∀・)

超絶憲法論(1) 行政から独立した図書館と,未?独立の財政作用

こんどはもっとスゴイぞ。憲法ですよ憲法論。
物語では,図書館が行政権から独立して機能してることになってるけど… これまた,さすが!
これは 現 実 に ,我が国(と米国)でのみ国立図書館が行政権から独立しとるという事実を象徴しているんだわいね。
どんなに強大な首相さまも,法務省さまも門下省さまも,手をだせませんなぁ… 行政作用的には。
だから児童porn廃棄問題で法務省にも対抗できた。三権分立さまさま。
実際,国会内には警察がいない。かわりに院内警察がいる。日本国内なのに,あそこだけ警察権が独立してるのだ。国家機関が行政府から独立した警察権をもっているってのは,まさしくこれの借景ですな。
けど,権力分立論にからめて物語では,周到にも「図書館税」に言及しちょる。う〜ん慧眼の至り,財政作用に言及するとは。ってのも,権力分立しとるはずの日本国においても,最終的に立法府が行政府に統制されちまっているというきわどい問題をついている。
これはすごいよ! 著者は行政法学マニアじゃないの? あるいは憲法論マニア!!!
とこで,この図書館税って司書有資格者ならトーゼン知っとるよね。え? まさか知らないってか!!!
権力分立論の説明からちょとズレるけど,これはね。目的税なんよ。
英米図書館史でチョビットだけ出てくる,あることに関する税収の何%かは必ず図書館に使うと決めるってやつね。日本じゃ,自動車取得税は道路に使うってきまってるから,ど
んどん道路が造れるってわけさ。目的税すんばらしい。
いくら親が子供に(中央政府が地方政府に),こづかい(地方交付税交付金)として,「小遣いの何%は書籍代(図書館経費)として加算しといたからね」ってカネわたしても,一括してもらったほうは,実際に使う段になったら「参考書(図書館)はちょびっとでいいや」で,おしまいだからねー。で,話を戻すと…
いやー,さすがだわ。権力分立論を展開しながらも,行政作用と財政作用をわけて考えるヒントまで出しておいてくれるなんて。
って,この「財政作用」ってのが,いまの憲法下でも最終的に立法府が行政府に従うことになってしまうキー概念なのだわさ。にくいのー,この財政法学オタクめ。
衆議院でも参議院でも,國會圖書邢でも,カネは財務省がだすからねー。財務省が予算つけなけりゃあなんも新しいことはできませんがな
分立した権力といえども,予算をつうじて立法府も司法府も結局は行政府に統制されちまうんだわさ。財政法のコンメンタール(逐条解説書)なんかにゃ,財政作用は権力分立をこえて及ぶぐらいのことがサラリと書いてあるけど,別にそれが原理的に正しいってわけじゃないのだ。
うん,だから実際にフランスの第○共和制では,立法府財務省に無関係に予算をくめてたはずだぞ。さすが啓蒙主義の国フランスじゃ。フランス共和国万歳!
ついでだから,警察権だけじゃなく,徴税権も図書館に付与したれ。徴税の段階から独立してこそ,真の権力分立といえよう。うんうん。日本国憲法はナマヌルイのじゃ。行政の国税庁がカネを持っていったと思ったら,つぎに立法の徴税庁もカネを持っていく… あ,もちろんさいごに司法府の徴税局も。いやー,中世ヨーロッパみたいね。すごい,3回も義務を履行できる名誉が与えられるのじゃ,日本国民こそ幸せじゃ。
次回作には,図書館徴税官を登場させるのじゃ(・∀・) 図書館の自由を守るために国民に二重課税するのじゃ*3

超絶憲法論(2) 立法府による三権分立の侵害? それとも第四権?

そして物語では公共図書館の統括組織が出先の公共図書館を通常の行政作用とはことなる別系統の行政管理の体系になってるけど…
これのモデルはまさしく,あの憲法違反の疑いが濃い「支部図書館制度」だね。リヤルでは立法府にある中央の官庁図書館が行政府のテンデ・バラバラな省庁の官庁図書館を揮下におさめとる。支部図書館などというと,いかにもイカメシイが,なに,ブランチ(枝)のことですよ。フツーは「分館」と訳します。
ところで,占領軍のニューディーラー達が遺していったこの制度,憲法違反の疑いがあるって知ってた?(わちきはある人から聞いた) 違憲ですよ違憲! 違憲立法ですよ*4
うーん,自衛隊が軍隊か否かとおなじぐらい重要な問題なのだなぁ(憲法学的には。といってもどの本にも載ってはいないが)。
だって,三権分立専守防衛以上の国是なのに,立法府の國會圖書邢長の部下に行政府の役人がなってるんですよー。これはもう明白に,日本国憲法第65条違反だわなぁ。
国会図書舘の公式HPなんかみると,行政への奉仕なんてゆーヌルイこと(あるいは自己韜晦)を言ってるけど,この制度の本質はまったく正反対,逆の情報の流れ。行政府から情報を立法府へ吸い上げるという深謀遠慮。立法府が間接民主主義の砦とすれば,まさしく国民の知る権利を具体的に保証する制度なのだ。「制度的保障」論のカールシュミットもびっくり。けど憲法違反(の疑いあり) (・∀・)
行政府の情報も司法府の情報も,(印刷物になると)ぜんぶ自動的に立法府に吸い上げられちまうんだねぇ。現状はさんたんたるものらしいけど(単なる連絡組織?),構想としては図書館による国権の統一(ないしは,三権ならぬ四権による政治)があったんだのー。すごい,すごすぎっ! そしてこの小説は館界でも知られていなかったこの制度を白日のもとにさらすことになったのだった。すごすぎ×2ってか(・∀・)
現在ただいま,国会図書舘が独法になるって話があるけど,国立公文書館が独法になって文書の収集率が低下したらしいことを踏まえれば,これは行政府の立法府つぶしだよ,ってな陰謀史観もなりたつなぁ。隠微なかたちで日々冷たい戦争は行われておるのだ(`・ω・´)  これぞ,いま・ここにあるほんたうの図書館戦争
〜〜〜
ということで…
さんざ遊んだあとでなんだけど,最後に。
この小説は… 単純に「「図書館小説」として読ん」ではいけない! とくに現役図書館員は。
図書館小説として読むんなら,こんなふーにヒネクレて読まなきゃ。著者はおもいっきり奇想をふくらましたんだろうけど,あにはからんや対応する図書館現象がこの日本にあったというわけなんだわさ。ま,司書課程の教科書類には,こういった歴史・政策・経営の話はあんまり書いてない(というか,研究もない)から,しょーがないともいえるんだけど。
それに,この小説で書かれてること(司書が中立的に言論の自由を守る)ってのと逆さの船橋西図書館焚書事件(司書が右派の言論を圧殺)があって,それについての業界の反省も進んでないのに,呑気に喜んでる図書館員がいるというのは…
ヒネクレがいやなら,たんに一読者として素直にラブコメ楽しんでりゃーいーの。

付記

「国会図書舘 branch library の第四権」論については,ある人の説をそのまま援用。書物奉行の創案ではありませんよー。ただ,書き物にはなっていないようなので文献参照が…。国会会議録をみたら,金森徳次郎はなんともふやけた提案理由をしているから,やっぱGHQの方から攻めないと実証的研究になりづらそ。だから文献になんないのかな。
児童pornについては,草稿でもっと書き込んであったんだけど長くなったので切り離し。「国立図書館とポルノ」で再論するかも。ただ個人的には児童pornは普通のポルノと同列に論じづらいところがあるし,なにより興味がないのでやらないかも。
権力分立論と財政作用については,財政<法>学の教科書にふつうにある。「財政学」とはまったくことなる学問分野である点に注意。今でも杉村章三郎あたりを読めばいいのかしらん… 学者系が書いた財政法規本ってほかないないし。財務省事務官の書く教科書は深み(合理的な説明)に欠けるからなぁ
権力分立論は3権分立ばかりがあるわけじゃない。4つや5つにわける論もある。たしか会計とか監査とかを分出していくのだった。上記の第4権としてのbranch library制は,いわば情報による分出ね。
分立すんなら徴税から,って指摘も書物奉行の創案でない。友人の弁。
図書館税については図書館関連の辞書にあるけど,英米図書館史の話題としてトリビアあつかいになってる。目的税一般については,たしか数年前に単行書が1つあった。
また,わちきは有川氏になんらの悪意もありませぬ。ただ,図書館政治的にタイミングわ悪いのだわさ。戦後図書館界の理想が崩壊していくなかで,その現実から図書館員たちの眼をそらす効果が結果としてある,それはエンタメとして成功しているからなおさら,という点で書かずにはおれなかったのだわさ。
せっかく青少年向けエンタメを書いてもらったのに不肖の図書館員たちがめだってすみません,というところ。

付記2 著者のはなし

いろいろ検索したら,著者のインタビューが出てきた。http://books.yahoo.co.jp/interview/detail/31662609/01.html

追記(2013.8.9)

法学というのはつまらぬものと思うてをったが、こんな論文ならオモシロいなぁと思ったことだった。

*1:まぼろしの図書館省2で再論予定

*2:「絵本のあゆみ<座談会>編集者の立場からみた」『日本児童文学(臨時増刊絵本)』(1971.12)

*3:てか,「図書館の自由」論に寄りかかった専門職種論って,よーするにこれでしょ。政治的に正しいことをする職員を配置するために高コストに耐えよ,って。そんななら,フツーの公務員でも大丈夫なんだけど。もっと具体的なサービスの中身から論を組み立てなきゃだめだよ。

*4:国立国会図書舘法の規定により行政各部門に置かれる支部図書館及びその職員に関する法律 昭和24年法律101号