書物蔵

古本オモシロガリズム

本は千部刷らなければ算盤がとれぬ、といふのが常識

 出版物の全国普及に関して、日配の配給課長だったとおぼしき中條一郎という人が、面白い、しかし的確な指摘をしている。友人が玩具を発明し売り出した。その友人が町中の玩具屋店頭を見たが、自分の発明品が店頭にみえなかったという。そして「新刊書にしても同断だ」としてこう述べる。

本は千部刷らなければ算盤がとれぬ、といふのが常識になってゐるが、千部では東京市内の本屋だけでも行き渡らぬ。全国で一万二千として二冊宛配給しても二万四千冊だ。全国の主な都市の主な本屋の店頭にその姿をみせるには凡そどの位すらなければならぬか推察できると思ふ。

中条一郎「本屋随筆(配給について、統計について、ゾッキ屋の話)」『書物展望』11(7)p.60-64(1941.7)