書物蔵

古本オモシロガリズム

書店での立ち読みはいつから? 2

1996年からは「座り読み」もある

「立ち読み厳禁 座り読み歓迎」というキャッチコピーで、座って試し読みできることを大々的にPRしたのは、1996年にオープンした大阪のジュンク堂難波店(現千日前店)が最初だったようだ。

日国では戦後の用例しかない

たち‐よみ 【立読】〔名〕
立ったままで読むこと。特に、書店の店頭の本を買わないで立って読むこと。
*二つの町〔1946〕〈荒正人〉「パンフレットを、わたくしは本屋で立ち読みしたことがあった」
*男の遠吠え〔1974〜75〕〈藤本義一〉キコエヨガシ「OLらしいのが週刊誌の立読みを熱心にやっていた」

明治8年の立ち読み→「見料なしで読む」

  • 「[投書]書店で無礼な学生 立ち読みが済んだら、せめて一言あいさつを(ヨミダス仮題)」『読売新聞』(1875(明治8).10.05朝)2/2

〔世に盗人のタネは尽きまじというが、この世にはいろいろな形態の盗みがある。〕わたくしの親類に本屋が有ありますが、毎度主人がいま/\しがりますのハ――貧書生様が大へいに買ふりを志まして、一寸入用のよめぬ字杯を画引や節用から見出して行く人も有り、尤是にハ限らずすべての本を見料なしでいつ迄もよんで、あげくに「ない物買」を志たり、出来ぬ価(ね)をつけたりして行きますが、成程、本屋から見たら泥棒のやうに思ひま志やう(勿論、本に依てハ読まなけれバ買へないのも有りますが)こう云処置ぶりを志ないで礼程(れいほど)にも及びませんから、てえねヱにあいさつでも志て、お返りなさい――と右本屋の人が新聞へ出してくれと頼みますゆゑ、其儘、貴社へ申上げます
             通三丁目鉄筆画史前島和橋
※適宜、句点、「」――などを入れた。

前島和橋は有名な投書家。
「立読み」という表現がまだないなぁ。「本を見料なしでいつ迄もよんで」といったやうに「見料なしで読む」てふフレーズになってゐる。

明治22年の立ち読み→「立って見る」

  • 「強奪 絵草紙店で立ち読みの染物商の雇い人、背中の縮緬斜子奪われる/東京(ヨミダス仮題)」『読売新聞』(1889.01.11朝)p.2

〔略〕の雇人菊蔵(十四年)ハ一昨夜六時頃十軒店の絵草紙店むさしやの門に立て余念なく見て居る間に背負て居た包を奪ひ取られしが中にハ縮緬斜子(ななこ)等代価三十円程の支那が有りしと云ふ

大正11年の図書館の描写に「立ち読み」

  • 「[月曜付録]労働者の読み物 (一)労働者と図書館と ほか」『読売新聞』(1922.07.24朝)7/8

その草ばきのまま、立ち読みのできる新聞台は、大部分の彼等によって、占められてゐるのである。そして第三面から海外電報、小説 講談、経済欄、欄外、広告の一つ一つまで余す処なくたんねんに読み尽し、更に次の新聞を繰り返し読み耽ってゆく熱心さである。

この記事は、「しかし図書閲覧室には、彼等労働者はほんの二三人きりであって」とつづく。

昭和5年頃には「立ち読みは悪いことだ」

  • 「[女性のこえ]平気で本の立ち読み」『読売新聞』(1960.01.25朝9/12)

「私自身は女学校一年のころ、担任の先生に「立ち読みは悪いことだ」と教えられたのが身にしみていて」立ち読みできないが、「ところがうちの子どもたちは立ち読みは当然のことと」いう。1960年に43歳の女性なので、1918年生まれとして12足して1930年つまり昭和5年ごろに、立ち読みは悪い事とおそはったんだらう。

英語では、to stand around reading ?

この本屋はいつも漫画を立ち読みしている子供たちで一杯だ
This bookshop is always filled with kids standing around reading comic books.
プログレッシブ和英中辞典

昭和12年の書店経営本では

書店読本 / 全国書籍商組合聯合会 編 (全国書籍商組合聯合会, 1937) に既に「萬引と立讀」が立項されてゐる。立ち読みは許容して、うまく購買層を開拓すべきとしている。