書物蔵

古本オモシロガリズム

アングラ・サブカル資料を集める条件としての制度設計

なんだかいろいろ載ってそうなので、『図書館界』の最新号を入手して呼んでみた。

革命にはソーカツが

巻頭のエッセイは順々先生の「時給850円の有資格者、専門職ルーキーたち」というもんなんだけれど…

大酒呑みの藤野幸雄先生と酒をまったくたしなまれなかった藤川正信先生のもとで薫陶を受けたこともあってか、最近では、司書講習の皮切りの「図書館概論」を担当することがほとんどとなっている。

ほへー(・o・;) 最後の図書館情報大学長だった藤野先生ってば、大酒飲みとは知らなんだ。
ハナシは「いまの日本のいい加減な制度設計と運用が生み出した図書館職員マーケットは容易には改善できない。これを改善するには、‘革命’以外の手段はなかろう」と「‘図書館革命’」を説くのであるが、にんともかんともよくわからん。いったいどーせいっちゅーの(゜〜゜ )
申し訳ないけど、専門職種制を確立できんかったのは1960年代から1970年代に現役だった人たち、そう、60歳停年後、この2000年代に司書講習で概論を担当するような人たちではないかいな。戦後日本ワールドのなかで、なぜに司書職制が成立せんかったのか、「革命」を鼓吹するんならソーカツが必要。いま薬袋先生の説(『図書館運動は何を…』2001)があり、それによれば、労働運動と司書職運動をごっちゃにするのがダメだという教訓になるのに、このエッセイでは両者の混同のススメになってしまう。順々先生はたまに、すごくいいこというのに、往々にして筆がすべるといわれており、今回は順々先生の筆がすべった例かすら。

国民図書館の納入率調査

木川田朱美,辻慶太「国立国会図書館におけるポルノグラフィの納本状況」も読んでみた。
エロ本の納本率調査。未納本率はエロ単行本について8〜9割にのぼるらしい(つまり納本率は1〜2割)。
本体の実証部分については、あまりつっこむつもりはないなぁ。まぁエロ雑誌やエロDVD(この未納本率はもっと高いのでは)の流通実態をもうちっと文献調査してまとめてくれてると(わちき的には)オモシロだったのでは、ということろ。
あと、p.242右カラム中ほど「大日本帝国図書館」というのは、制度上も研究上も使わない言葉だと思うので(ただ「帝国図書館」とする。往々にして書籍館東京図書館時代も「帝国図書館」で代表させることがある)、よろしこ(´∀` )
つっこみはちょっと本論からズレたとこで。
納本率調査について「ほとんどない」と言っちゃってるけど、あそこの連中が自由研究でやったものがいくつかあったはず。マジメな本について80年代は納本率は7、8割だったと読んだ憶えがある。あそこの連中の、図書館情報学系紀要にあたる『図書館研究シリーズ』とか、さらってみた? 国民図書館という館種について「研究」した人って、あそこの関係者か原ひでしげ先生ぐらいしかおらんのでは(「紹介」なら大酒のみの?藤野先生とかいろいろあり)。

政策の正しさと現場の「まじめさ」と

さまざまな著作物を文化としては等価にみて、ネイションレベルで悉皆蒐集・悉皆保存をめざす、という国民図書館のコンセプトは、これはまあ妥当ではありませう。
でも、そう看板に出してあったにもかかわらず、「有能な」実務者が制度が「効率よく」、「きちんと」まわるよう刈りこんでしまったというのは原先生の有意義な研究で明らかとなっている(映画の納本停止がそれ)。
初代の金森館長が「すべて捨てるな」というまったく正しいことを主張した果てに、「賢い」実務者が、納本で集まってた(はずの)民間パンフレット*1を「ごっそり」「こっそり」捨てて、さらに捨てた事実さえわからなくなっていた、という「パンフレット問題」も、気づかれたのは昭和40年代のことだった(これも『図書館研究シリーズ』に稲村テッチャンらが)。

集めるが見せないという選択肢はありやなしや

いままた、ポルノの納本率が低かったということが明らかになったのはよいとしても、なかなかポルノをほかと同じぐらいの優先順位に、とゆーのはかなりむずかしーのではないかなぁ、と思ってしまふなぁ(*´д`)ノ
とゆーのも。
「集めるけど見せない」というようなカラクリ(制度)をセットで造らないと、きちんと集めることはできないんじゃないかな(゜〜゜ )
報道では事後立法で違法となった児童ポルノらしき書物を国会は持ってをるようだが、見せてない。そういった資料群を健全ポルノ(笑)まで拡大できないと、むやみにコストが殖えすぎてしまうのでは。
消費経済体で、むやみにコストが増える傾向にあれば、すぐに顔を出すのはマジメな窓口官僚*2なわけで。わちきは、窓口官僚がひょっこりあらわれるところに、からくりの矛盾があると思うてをるのぢゃ。
ところで、その矛盾を(結果として)うまくかわした国民図書館があった。その名を、帝国図書館という。。。

帝国図書館の知恵

三流官庁文部省のさらに弱小出先(本省直属の特殊機関)にすぎんかった帝国図書館は、その絶対的貧困(スペース・人)から非常にオモシロい制度を案出していた。それが資料保管の区分であり整理の区分でもある「乙部」なのだ。
財政民主主義のもとで、納税者が「集めたエロ本、オレに見せろよ」と言ってきた時、きちんと研究目的(生産的読書)でないと見せられませんと言えるような閲覧制度があるかどうか。あるいはエロ本の実用性が高い(=消費的読書として使える)期間、塩漬けにしておく保管制度があるかどうかが重要と思う(拙ブログ「珍説・資料保存」を参照せよhttp://d.hatena.ne.jp/shomotsubugyo/20051008/p3)。
けど今の国会さんにそんな制度があるとは読んだことないなぁ(・∀・)
あたかもよし、このまえ開館したばかりの 米沢嘉博記念図書館。ただのマンガ喫茶として使われないようにどのよーなカラクリを案出しておるかといえば、有料会員登録と閲覧への従量制課金という二重のハードルである。これらが、私立大ならではの自由さからできたということであれば、公的施設でポルノをきちんと蒐集するのはなかなかむずかしいのではあるまいか。

*1:官庁パンフは残ったという。理由は、稲村テッチャンによれば、単にたまたま受入部局が違かったから。

*2:行政学でいうストリートレベルの官僚制というやつぢゃよ。