書物蔵

古本オモシロガリズム

「代謄写」は明治中期から

ひさしぶりに「代謄写」ネタを拾った。
かの有名な書誌、明治前期思想史文献 / 三橋猛雄. -- 明治堂書店, 1976 にいくつか「代謄写」という文言を載せる文献が紹介されている。
例えば明治15(1882)年の出版物(p.547)

日本訴訟法財産差押法修正草按註解 ボワソナード氏起稿 「付活版代謄寫」同盟印行

この印刷物は、翌年に出たもの*1の前身にあたるものらしいが、出版者の部分に「代謄寫」の文字がみえる。「活版に付し謄写に代ふ」ぐらいに読み下すのかすら。
次は明治16(1883)年の出版物2点(p.571-)

經濟學講義 亞邊爾講述 宇川盛三郎口譯 「禁売買」洋、B、一冊1 373P (5)

まずはこの本に、
「此書ハ仏国法律博士アクペール氏ノ講義ヲ筆記シ鉛版ニ付シテ謄写ノ労ニ代エタルモノナリ」とこの本に載っているという。この文章の文意は、まさしく「代謄写」への先行事情を説明している。
それでこれとおなじ著者の本の記述に(p.573)

理財学講義 アツペール先生講述 宇川盛三郎口譯 十六年四月 「付鉛版以代謄写。禁売買」

とあるという。 
「付鉛版以代謄写」とはまさしく! 「代謄写」の明治の例といえますの。
それに流れからいって、

ナマ講義をメモに起こしたものを、手で書き写すつもりではあったけど、大変だから、印刷するね

というものを

代謄写

と漢語にし、表紙・標題紙・奥付などに刷り込んだということですの。

*1:日本訴訟法財産差押法草案并註解 / ボワソナード稿 ; 一瀬勇三郎譯. -- 司法省, 1883