書物蔵

古本オモシロガリズム

あったかもしれない「大東亜図書館学」

わちきの最近の趣味は「大東亜図書館学」(こんな術語はありゃせんぞよ(・∀・)わちきの造語)…
とりあえず探求領域は3つ。

  1. 科学動員のための十進分類
  2. ボランティアによる皇道図書館
  3. 国民読書運動(含.満洲開拓読書協会,芝富読書指導者養成所)

で。
最近は3つめに没頭しておったのだ(`・ω・´) 画像は大東亜図書館学の全貌!
じつはこの3つのうち1,2はわちきが完全にオリジナルでみつけた主題。戦後60年間,すっかり忘れられておった。
だから先行研究もなくて,わちきが調べればそれが(研究的には)初出ということですむから気楽極楽。
ところが3つめは,じつは(零細ジャンル「図書館史」的には)かなり有名な話題なのだ(てか,図書館史の教科書で,戦時中のことで出てくるのは読書運動と資料の疎開ぐらいしかない)。
だから1次史料(当時の資料など)を見つけてくるだけじゃダメで,先行文献をきちんとあたらないといけないというのはいちど話した
だいたいコピーはとれたんだけど,コピーをとるにはページが多すぎるものが1つあったのだが…

(昨日,漫画喫茶にいると)プルルル プルルル
わちき「はい,わちきですが?」
友人A「あの本,古書モールに500円で出てますけど…」
わちき「それ,押さえて!」

ということで入手でけました(^-^*) 側面支援ありがたし。お礼に満洲モノの複本を贈呈す。
うーむ。これで大東亜図書館学の再興へ1歩ちかづいた… か?
まー,これは最近の2次文献なわけだけどね。1次史料については,まあいろいろと。ね(進展しそうな気配ではある)。

造語「大東亜図書館学」(`・ω・´)ゝ

わちきの造語「大東亜図書館学」を概念規定するとすれば。
まず空間的広がり。
日本本土(内地)に限らんということ。外地・外邦(樺太千島,朝鮮台湾,満洲シナ)も含めて「日本語図書館学」が成立していただろう,ということ。もちろん,点と線なんだけど。
さらに主題的なひろがり。
戦後日本図書館学でタブー視扱いされている主題も当然ある(戦争協力のための図書館学)。軍隊図書館,軍事図書館とか。具体的にはいちど紹介した「つはもの文庫」ね。いまだって軍隊図書館や軍事図書館,あるいは軍隊内での図書館現象*1は存在してるのに(ナントカ資料隊だったかな?)図書館言説にはならんねぇ。
あと思想信条の問題も。
日本主義(皇道主義者)の司書ってのが存在しえたのも戦前の話。戦後はひとりもいないといっていい。戦前は「主義者」の図書館員も少しいたのに(竹内善作とか浪江虔とか),戦後,右翼の図書館員がぜんぜんいないというのも不思議なこと。
でも。
なんでこんなトチ狂ったお題をわちきが思いついたかとゆーと。
佐藤忠恕(タダヨシ)が自著(1943)で「時局と図書館学」ってスバラスィーお題を出してきたのに,その中身の記述に失敗しているのを読んだからなのさ。「図書館(実態)」でなく「図書館(言説)」であるところがわちきの琴線に触れたの。
この項目を目次にみつけたときに,フワワワーッとわちきの脳内に妄想が(・∀・)
戦後,図書館員たちは目の前の仕事でいそがしかったし,ごくごく少数の図書館史家たちは当時はやりの左翼的発展段階史観にはまってきたから「15年戦争中=まっくろ黒スケ」に見えてしまっていたわけ。

明治以来,萌芽的ではあるが発展してきた図書館事業も,昭和ファシズム下で止まってしまった

というのが,ごく単純な現在ただいまの図書館史観といってよい。そしてそれは一面の真実ではある。
けど,こーゆーわかりやすすぎる理解ってのはまゆつばもの。
むしろ,

B29の焼夷弾が降り注ぐ昭和19年末まで,(帝國日本や戦時という枠組みの中ではあっても)図書館事業や言説はそのまま発展をつづけ,昭和10年代後半にはそれなりの頂点を示す分野もあった

とゆーのが,わちきの憶測。
「真っ黒クロスケ」ならだれも調べてみようと思わん。けど古本を拾った偶然*2から調べたら,それなりにいろいろ(戦争や戦闘と無関係なものも含め)やってたみたいだということがわかり。
昭和17年の「図書館参考事務」(林繁三担当)なんかもその象徴のひとつだね。
もちろん,あったかもしれない「大東亜図書館学」が純粋にオモシロそうであるとゆーこともあるけど,実は戦後図書館学を再考する点でも思考の補助線になるのだ。
〜〜〜
「左翼人士」(by西部邁)が圧倒的な館界に,もし右翼司書が(一定程度)いたら→船橋西図書館焚書事件はなかった(かも)
自衛隊員は読書や研究をしないのか?→そんなことはなかろう→自衛隊も調査研究対象になる
レファや保存論は戦後に始まったの?→よく調べるとそんなことはない。戦後の輸入モノは輸入ものなりの弱点がある
〜〜〜
なんてね(・∀・)
いままで「戦時図書館学」なんて言ってきたけど,戦争なら日清,日露もあるし,戦争と関係のない事業も多いからちょっとなぁと思ってたのだ。近代唯一の非白人帝国にふさわしき用語だと思うよ「大東亜図書館学」は。

近似の概念「植民地図書館」

近似の概念に,東條先生方の「植民地図書館」があるけど,あっちは言説でなく実態を論じたいみたいで,それが違うのはあたりまえとして,わちきと意見を異にする筆頭は,「植民地」に傀儡国家「満洲国」や北海道などを入れてしまっている点。傀儡国家と当時国際的に合法の植民地と内地の北海道を一緒にあつかうのはどうかと。あとは本土と外地・外邦と言説上つながっていたとすれば,むしろ当時の用語「大東亜」のほうがフィットするということ。
北海道や沖縄,満州国など植民地でないものを「植民地」という概念でくくることの問題ついては。
日本史学徒なら誰でも知ってる(はずの)百瀬隆氏の参考図書を引用しよっと。

現中国東北地方の旧満洲国の範囲を,日本の植民地としてかぞえる文献もある。(中略)[しかし]植民地的支配を行ったとか,傀儡政権の支配下だったというのであれば,いわゆる大東亜共栄圏全体がそうであり,ことさら満洲のみの特徴ではない。
満洲は日本の植民地であったと述べることにより日本の支配を断罪し,中国に謝罪したつもりになるのであろうが,当時の国際法では植民地を持つことは合法的なことであり,今改めて中国東北部は日本の植民地であったと述べることは,その合法性の主張をもたらすという時代錯誤の結果になる。

ということで,満州国を朝鮮や台湾などの植民地といっしょにくくるのは大いに問題ありなのだ。でも周到なる百瀬氏は,どうしてもいっしょにくくりたいなら,別の概念があるという。

なお細川嘉六『植民史』(昭和一六年,東洋経済新報社)では,対象地域に台湾・朝鮮・満洲大東亜共栄圏を取り上げているが,これは日本人の植民地対象地域あるいは植民地的支配を行っている地域もしくはそうあるべき地域として取り上げており,それなりに一貫した考え方である。

一括して扱うとなると,大東亜共栄圏という概念しかありませんよ,ということですなぁ。

*1:たとえば地形図の取り扱い

*2:正確には古書現世の目録で買えなかったことをきっかけに他から購入