書物蔵

古本オモシロガリズム

金森徳次郎「楽しいかな図書館人」

ミスというのは字引を引くと処女と書いてある。処女を奪うということになるとものの道理を尊重している人間が口が裂けても言うべきことでないような気がする。それにもかゝわらず私は図書館人はミスを奪うことに努力し貢献しなければならないと考えるのである。
このような不屈至極な思想があるのに驚く人がないともいわれないが,私には私だけの理屈がある。近ごろの世相を見ると右から左,極端から極端へとあらゆる議論が盛んである。(中略)人間世界にかくの如く無分別に意見がわかれることは不思議である。しかし実情は事実を見きわめないで議論をして,勝手に判断するものもある。濃いに得手勝手な詭弁をつくりあげる者もある。それでなくても,人間と人間との間に憎みや怨みがあつて,無理やりに人の意見をねじ倒そうとする場合もある。これを英語でいうならば,ミス・コンセプション,ミス・ジャジメント,ミス・トラストという類であろう。このミスが取り除けたら愉快であろう。(27年6月)『書物の眼』p.41-42