書物蔵

古本オモシロガリズム

訳語と術語と業界語(かきかけ)

千野栄一が「よいレポートとは」で「スクリプタ」というタイプ印刷の大学講義録(それが後で単行本になるよし)について述べている。講義プリントの一種ですなぁ。

シュミラウエル救授はチェコ文法の専門家で、固有名詞学の権威としても有名だが、なによりも高潔な人格と、 11168 の手本ともいえる明解な講義で知られ、従って、上記のスクリプタの著者としてはうつてつけの人である。 『文献学的作業の技術』はさすが技術について述べている本だけあって
言語 - 第 10 巻、第 7 号 - 26 ページ 1981

ちなみに、Smilauer, Vladimirは、こちら→http://cs.wikipedia.org/wiki/Vladim%C3%ADr_%C5%A0milauer

「(略)ところで、あらゆる本を借りてすますわけにはいかない。というのも、ただ読むだけでは不十分で、しばしば開いてみないといけない本があるからである。(略)売り切れになった本を探すためには古本屋にいかねばならず、しかも、規則的に巡回しなければならない。(古本屋の本は部門別に集められていて、誰でもそこに入るのはただである)……」
そして、このあとに、プラハの古本屋の住所と、その凡てを回るのにはどういったら一番いいかが書かれているので、本の好きな人間ならこの箇所を読んで嬉しくならない人はないであろう。(p.27)

と、古本が好きで喜んでいる千野さんの文章を見つけて喜んでいる古本ずきがここにひとり(^-^;)
それはともかく、さすが千野さん論理的かつオモシロな筆のはこびなんだけど、ここで「術語」についてもいいこと言っている。

術語はもろ刃のつるぎ

「論文なりレポートなが要求される性質には正確さがある。この正確さを端的に表現しているのが術語の使用」だが、「術語は諸刃の剣であり、その使用はよく考えなければならない。術語を多用することは(略)書き手を一人よがりにしていく恐れがあ」るという。
「しかし、他方で術語は正確な表現のためには不可欠なあものである。」と、やはり最低限は術語をつかわないとならぬと、ある意味あたりまへのことをいってゐる。
まあ森さんにいはせれば、千野栄一だからこそ、こんなこともいへたので、ふつーは術語に頼らないとふつー人は専門的論文を書けないけれど。

術語とギョーカイ語と

ところで、ここにOPACてふ語をやめる運動をすべぇといふ人がいる。
http://b.hatena.ne.jp/entry/blog.goo.ne.jp/kuboyan_at_pitt/e/a503d2bbe4107af1bf5171579b2059aa
また、こんな、縁なき衆生(一般利用者)の声もある。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1299765217
ブクマにも書いたが、「オーパックが一般人に通じない」ちゅー問題意識はわかるが。。。(・∀・`;)
だからといって、ことば直しがいま業界・学界で必要かといふと、かならずしもそうならないと思ふ。
「術語(テクニカル・ターム)」を、縁なき衆生の救済において使ふかどうかの問題にすぎん。
お客さんに説明するときには、「蔵書データベース」とか、「所蔵データベース」とかにいひかへませう、といへはよいのではあるまいか。
術語としてマズイというのなら、わかる。
例えば、union catalogのことをいま、日本図書館業界・学界では「総合目録」と呼ぶが、これは本質的に誤解を生む漢語表現である。
やまとことば風でいへば、「持ち寄り目録」にすぎない目録なのだから、べつに文献世界を「総合」しているわけではない。ほんとうなら原語に忠実に、「連合目録」とでも訳せばよかったのだ(っちゅー議論がきちんと昔あった)。
Online Pblic Access Catalogを日本の専門学会業界の術語にするのにどうするか、ということは十分に議論の対象になるとおもふ。
分かりやすくてよい言葉があてはまれば、結果として縁なき衆生に、そのまま使っちゃっても分かる、ということもあるかもしれない。
だいたいサ。
そもそもlibraryといふ語自体が、問題ぢゃん(σ・∀・)σ
古くから「文庫」といふコトバがあったんだから、libraryだって、「文庫」と訳せばいいぢゃん(σ^〜^)
ひとむかしまへは誰でもしってた「エブリマンズ・ライブラリー」を訳そうとすれば、そりゃ「エブリマンズ文庫(本)」でしょう。「大宅壮一文庫」だって、「ライブラリー」でせう。
なんちゅー問題提起も可能(。・_・。)ノ
まあ、ここいらへんは、なぜ書籍館といふ訳語ができちまったのかというところから、考えるとよいのでせう。
ってか、そんな専門論文がすでにあるんだよなぁ。結構結構。