書物蔵

古本オモシロガリズム

帰ってみたら… 志智嘉九郎が!

神戸市の古本屋さんから届いてた(^-^*) 数日前,日本の古本屋を巡回してたら,ひょんなことから見つけたのだ(^-^)/
空論集 / 志智嘉九郎. -- 志智嘉九郎, 1969 極美 2100円
まさかこんなあっさりと見つかるとはおもってなかったよ。
これは,「日本レファレンス史のミッシングリンク」を「はよう書け」との志智さんからの冥界通信か?
この本,前半は図書館についてのエッセイで,後半が時事ネタのエッセイ。

全体を一緒にして,「空論集」という書名にしたが,この空論集という書名もいは[ママ]ば人がつけた名前である。書中「空論のたのしさ」にも書いてある通り,吉田貞澄という変った男が,常々「館長は空理空論ばかりをやっている」と悪口をいっていたところから思いついたものでる。(自序より)

吉田, 貞澄 ‖ヨシダ,サダズミって人は知らないなぁ。図書館員だったのだろうか。でも,嘉九郎さんに,自分の悪口をいう変人といわれてることをみると… よっぽど仲がよかったのね。うらやまし(^-^*)
そんで最後のページを読んだけど…

国旗と自由
 支那事変中,日本軍の行くところ,その土地の中国民衆が,にわか作りの日の丸を振って日本軍を歓迎した----というような報道がなされ(略)私もそういう実景をみたことがある。
 日本軍の侵略を中国の民衆が喜ぶはずはない。(略)濤もいつかは穏やかになる。それまでの辛抱。その辛抱の間へたに騒いで怪我をしたりするのは愚の骨頂。そういう怪我をしないために,彼等は,有りあわせの半紙に赤い丸を画いて,日本軍の通る沿道でそれを振ったのである。(略)いずれにしても,彼等にとって日章旗は厄除けのお札であった。

実は志智さんは支那通のひとりだった。別名(江井洋三,エイ・ヨウゾウ?)で著書もある。
北京の公使館につとめ,天津の領事館に出向していた志智は,すぐには帰国せずにいろいろと仕事をしていた。
ある時,中国人の友人を「中国服を着用して夜陰に乗じて訪問した」(友人のことを慮って「交際を遠慮していた」のである)。
すると友人は,青天白日満地紅旗星条旗をみせてくれた。

「そりゃあね。誰だって,これくらいの用意はしておきますよ」

と友人。
万歳をしなかった中国学生の話をしたら,こうも言う。

「そういう気持ちですよ(略)気持ちの上ではその学生と同じことです。ただ,そういう青年たちと同じように行動できないだけのことです。女房を持ち,子供を持つようになると,そいういう直接行動ができないだけ。(略)----あなた,吃驚しちゃいけませんよ」

といって出してきたのは,なんと五星紅旗(国民党支配下なのに)。
やはり中国人なのだと志智は思ったという。

私は昭和二十一年五月,華北から最後の引揚船で帰国した。
船の中で私の脳裏をたえず去来していたことは,(略)日本人が自分の家に星条旗を掲げるだろうかということであった。(略)
船が仙崎についた。仙崎の町では星条旗を見なかった。私はほっとした。(略)私の心配はどうやら杞憂であったようだ。私は大きい安堵を感じた。都市ではアメリカ兵と手をつないで歩く日本姑娘が威張っていた(が,そんなことは)取るに足らんことだと思えた。

米兵と手をつないだ日本クーニャンってのが「威張って」いたんだねぇ。それはともかく。

現在,中国では紅衛兵が大暴れに暴れている。(略)私は天安門広場ば人の海になり,紅い旗でそれが埋められている報道写真をみるたびに,ヒットラー時代のドイツを思い出すのである。(ちょび髭のあるなしという違いはあるが)写真の構図はほどんど変わらない。

あらら,こりゃー端的にいって文革批判だよ。今となっては文革=悪いことってなってっけど,当時(つまり文中でいう「現在」)は,文革=良いこと,って見方も相当に強かった。とくに図書館員には文革を支持した連中も相当いたのでは(要調査)。むむ,さすが支那通なり。
でも,嘉九郎さんの真骨頂は,支那通であることじゃない。

((当時の)自民党国旗掲揚を奨励してるけれども)それにも拘わらず,旗日に日の丸を掲げない家がかなりある。去年の正月であったか,三ノ宮から摂津本山まで,国鉄の沿線で,どれくらい国旗を掲げているだろうかと注意してみたことがある。(略)掲げていない家が半分以上もあったようである。(略)私は現在の日本に,国旗を掲揚しない自由があることを目出度いと思い,そして,この自由が永遠に続くことを希望する。

と,自由主義的な観点をのべた直後に,

ただし,このことと,日本が平和な美しい国になり,国民がいつも日本人たることに幸福と誇りを感じ,その気持ちの表現として,旗日には各戸日の丸を掲げるようになることとは矛盾することではない。(四十二年一月)

なんか,「旗日には」「日の丸を掲げ」たくなってきちゃうなぁ。こういう論法だと。
この人って,やっぱ,いい意味で常識人なんだなぁ。いろいろオモシロイことをブチ挙げるんだけど,実は常識人ってのは,いいなぁ。うん。