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古本オモシロガリズム

 図書館屋とは:職人が開発してきたツール

ベテランの参考掛員がこういうのを聞いた。「日外のツールはあまりよくない。(一方で)図書館屋がつくったツールは好きなんだ
日外(にちがい)というのは、日外アソシエーツという出版社のことね。1965(昭和40)年の創業だそうで。図書館職員養成所の出身者がつくったベンチャー企業。日外のは細かい作りこみがたらないということなのだろう。
ツール(トゥール:tool)というのは道具。図書館界では、reference toolのこと。ふつうは、辞書・辞典・年鑑・ハンドブックっていうね。中国語では工具書とかいう。図書分類表や目録規則なんかもツールにはいる。読み通す本じゃなくて,参照する本。
業界的にはreference bookを訳して「参考図書」なんていうけど、これ一般語の「(受験)参考書」と紛らわしくっていけない。「参照本」のほうがいいかも。
各種の参考図書の開発は、戦前は個人ベースのものが多かった。いま思いつくところでは,石井研堂の「明治事物起原とか,日置昌一の「話の辞典」とか。紀田順一郎の「名著の伝記」にいろいろ書いてあった気がする…
「日本随筆索引」をつくった太田為三郎は、帝国図書館の参考掛?だったけど、図書館という組織がつくったというより、彼の個人著作にちかい気がする。
こんな、個人でよいことをする図書館員を「図書館屋」と呼称する時代がありました(いまは廃語ぎみ)。いいかえると職人ね。図書館界で開発されたツールもまた,むかしはこのような職人たちによって開発されてきたのだ。天野敬太郎朝倉治彦稲村徹元なんかも代表(敬称略)。日本十進分類表(NDC)も、間宮商店員たる森清(もり・きよし)の個人著作的な性格があったし。
いまは組織がレファレンス・ツールを作る時代になった。協会の委員会とか、大図書館の委員会とか課とか。個人に頼らない分、継続的な開発ができるようにはなった点は、まぁ、よいことなのでせう。
で、そのツールをつくる代表的組織が、民間会社たる日外アソシエーツ株式会社というわけ。
ここがまーいろいろなツールをどんどこ出すんだけど、大味(おおあじ)なんだよねー確かに。
で,話はもどるけど,職人がつくるもんのほうがイイに決まってるんだわさ。図書館学は包丁学だっていったけど、名工のつくった銘入りの包丁のほうが、工場でつくった包丁より、そりゃー手にはフィットしますわな。だから冒頭の感想はある意味正しいんだわさ。
けど、この件については、「春秋会」という補助線をもってくるとまた、ちょっと違った様相をおびはじめる…。それについては、また。