書物蔵

古本オモシロガリズム

名簿など灰色文献を保存すべきはどこか。

田中一郎/名無しの編集総務さん
‏@ralutake

8社が取り扱う個人情報は、学校の同窓会や団体会員などの名簿冊子と電子データの2種類。古書店や廃棄物回収業者、個人、同業者などから購入していた。

個人情報:3億件管理 1件2〜30円で販売 消費者庁、名簿業者8社を初調査 -毎日新聞 http://mainichi.jp/articles/20160326/ddm/012/040/

米国に比して日本ではディレクトリ、紳士録が発達せんかったかはりに機能してゐたのが名簿。当座、業者に使われるからといふて、このまま闇に埋もれてしまふのは将来の日本研究にとって損失。どっかが一括して100年ぐらひ保存する必要がある。
昨年だったか戦前の学校関係古本コレクションが一括大量で古書市場に出て、同窓会報や、同窓会名簿がずっと古書展でたたき売られてゐたが、もったいなかった。近代日本で名を成した人で、学校を出なかった人は一人もをらんのだから、あつめて参照コレクションにすれば、近代日本人の全部がわかったのに
このまへ、保昌正夫だかの年譜勉強といふエッセイを古書展で立ち読みしたら、作家研究をするのに最初にすることは、戸籍(の個人情報、生没年や親族関係)をとることだとあった。近代文学事典類で、生没年が年月日に至るまで入ってゐたのはさういふわけだったんかぁと、うすうす気づいてをったが。
個人情報保護法で、歴史ある「日本紳士録」は廃刊になっちゃふし、名簿だって作られなくなり、会社や地域、同窓会、組合といった中間共同体が弱っちゃってまぁ、わちきのやうな自由主義者がいふのもなんだけど、砂のような大衆化(゜〜゜) ショーンKの経歴詐欺もその延長上にあるんでないの?
ホンタウはかういった灰色文献も集めて保存する機関が1国に1個あるべきなんだ。海外ではそれをnational library(国民図書館)とかいふんだが…
日本には本来の意味での国民図書館がない、あるのは兼業でやってる国会附属があるりきだ、といふのは、実は1970年代図書館業界でさんざ言はれたこと。
近代日本始まって以来、同窓会報や名簿など(会報ものといった)〈特定〉多数に頒布する出版物は納本&届出義務がなかったのだが、ある時にこれらを網羅的に集め始めた国の中央機関があった。それが…
内務省。 左翼運動を取り締まるため、〈特定〉多数への頒布は納本&届出義務がないとする大審院判例があったのに、取締り上、「非常の支障を来すの惧(おそれ)」ありとて、ひっくりかへしちゃった。つまり、出版法の解釈を裁判所に変えさせて、灰色文献にも納本義務を新たに課したのが大正15年。
昭和3年には新解釈の新しい判例大審院に出させたんで、それまで納本義務がなかった灰色文献(特定多数に頒布)もどんどこ内務省図書課に集まるやうになったといふわけ。由井正臣 他共著. 出版警察関係資料解説・総目次. 不二出版, 1983. p.36
今、ないし将来の我々には当時の左翼取締りなんてドーデモよくって、それよか重要なのは、そこで日本全国津々浦々から網羅的に集まった灰色文献がどーなっちゃったか、といふこと。 結論からいふと…
残ってない。 なぜかは、研究がまだ1個もないので、わからない。 内務省図書課で右から左に廃棄しちゃったのか―そのため内務省ビル図書課の階下は、ちゃんと自動車係の場所なんよ(σ^〜^)―取りに行ってた帝国図書館で、「丙部」に入れられて廃棄されちゃったのか、一部「乙部」で残ったのか。
ひるがえって、ありがたき図書とて保存された「甲部」は結局、現在、どこの図書館―まぁ旧帝大クラスなら―でもある本なのに対して、「乙部」はかなりめづらしい本とて明治100年―戦後の古本ブームもこのころ―に公開され、みなに歓迎されたのぢゃったが、「ん?(・ω・。) してみると…
失はれた丙部、あるひは帝国図書館に送られず内務省図書課で廃棄されちまったもんは、むちゃくちゃ重要だったんぢゃね(。・_・。)ノ」と、フツーの頭ならスグ思ひつくことである。

って、この丙部の話さぁ、さっきの現在の灰色文献(名簿、同窓会報)と、本来の国民図書館と国会附属の兼業館の話を合わせてみると、いま、どこがなにをしてないか、って話になっちゃふなぁ… けど、かういった、大きな枠ぐみのなかで、現状の組織や業務をとらへ直してみる、ってーのを出来んのが…

マジメでキチンとしたい人々の欠点なのよ(´・ω・)ノ それに気づいてをりながら、座して目の前を、近代教育史資料群が散逸するさまを見るのは、いささかツライなぁ… って、わちきみたいな古本者が心配することでもないか… でも、気づいちゃったんで、ここに録してをくなり(´・ω・)ノ