書物蔵

古本オモシロガリズム

ある発禁事例 大正13年

  • 佐々木味津三氏著『二人の異端者』辛うじて発売禁止を免がる!(聚芳閣出版だより)」『文学界』1(2) p.〔67〕(1924.11)

佐々木味津三氏著『二人の異端者』辛うじて発売禁止を免がる!
 九月二十九日に突然内務省の出版課〔ママ〕から電話が「二人の異端者――を一冊持つて直ぐ警視庁の図書検閲課へ行つてくれ」とかゝつてきたので何だらうと思つてそれでもかなり不安を抱きながら急いで出掛けて行つた。
すると「二人の異端者」の中にいけない所があるから四頁切り捨てゝ了はなければ発売禁止にすると言ふ厳命だつたので、大いに間誤つき頁を開いて読返してみるとそこは、杉山みづえといふ女性が年下の愛人の下宿へやつてきた日の描写だつた。きわめて文字少なに素描されてゐるのだつたが「余りに迫真だ」といふ説だから仕方がない。それだけ佐々木氏の筆が力を有つてゐたことを証拠立てられるのだとあきらめて、警視庁を退いた。連刻在庫品は勿論市内の大取次店へも行き、地方書店へは電報を打つて即ち第百十五、六七八の四頁を切取つた。
 さうして漸く、発売禁止を免ぜられた訳である。既に、発行当日位に本屋の店頭で購はれた方はどうか右の四頁を切取つてしまつて下さい。

佐々木味津三とは、「旗本退屈男」の著者。
ちなみにデジデジで見られる国会本は、まさしく上記頁が「欠」となっており、一方で標題紙には「発行所寄贈本」「大正13.9.12寄贈」とある。請求記号も特500/501でない故に。「529-154」が請求記号。
奥付には大正13.9.1印刷、大正13.9.5発行とあるから、上記の文中、「九月二十九日」は「八月」の間違いではあるまいか。だとすると時系列がそろう。というのも、帝国図書館本が寄贈されとるというのが腑に落ちんので。

追記 なんともう1冊帝国図書館に乙部であった

いまみたら、なんともう1冊乙部であった。
特113-676(乙部295-407)というのが、大正15.10.5内交」と印があり、奥付をみると。

大正十三年九月××十五日 印刷
大正十三年九月××廿一日 発行

と、印刷の日付のところが手書きで訂正されてある。
しかしこのデジデジ2冊へのリンク、ひどく間違わせるわるいリンクだなぁ。ってか、OPACから乙部本へいけない。こんなひどい設計にしたのはだれだろう。

スケジュール

結局のところ、こうなろうか。
大正13.
 9.初  9.1印刷、9.5発行の予定で刷るが遅れる
 9.12金 寄贈(出版社→帝国図書館) このころ最初の本が刷り上がる
 9.15月 印刷
 〜9.17水 納本2部(出版社→内務省) 内務省ではおとがめなし
 9.21日 発行
 9.   本屋の店頭に出回りはじめる。
 9.   警視庁が流通本についての情報を入手、内務省に相談
 9.29月 電話(内務省→出版社)出版者は警視庁へ。その後、取次や郵便局へ。
大正15.
 10.5 納本副本が内務省から帝国図書館