さういへばこの雑誌はヌ氏に譲ってもらったんぢゃったっけ。
- 『痴遊雑誌』昭和十一年三月号
これに戦前納本史上、むちゃくちゃオモシロい記事が載ってをる(´・ω・)ノ
- 望月百合子「納本異聞」『痴遊雑誌』 昭和十一年三月号)
望月, 百合子, 1900-2001 || モチズキ, ユリコ というのはアナキスト作家とでもいふのか。若いころはかなりの美人さんである(画像はネットから)。
で、わちきが注目するこの記事は、望月が内務省の納本係からいやがらせをうけたというもの。けっこう露骨な書き方してる。
記事の冒頭は、顔なじみの特高部長が望月の自宅を尋ねてきて、内務省へ納本すべき2部あるはずの本が1部たりていないからすぐに提出させろ、と頼まれたという(ちなみに特高部長は警視庁で、単行本の納本には直接かかわらない)。
望月は
発行の四五日前に私自身で二部大きな角封筒に入れて、届書と一緒に納本係へ送つ
たはずだから、内務省のほうで探したらと特高部長にいったのだという。
それきり私はそのことを忘れてゐたのだ〔。〕ところが一ヶ月以上もたった頃の夜、例の部長がもう一人の刑事をつれて玄関に立った。
と、望月もしやうがないので、内務省に出向くことに。そして、
出版屋が時々この手にかゝといふことは今迄もよく噂に聞いてゐた。出版屋は商売なのだから、彼等お役人の感情を害しては損だ。うまくゆけばマイナイをしてすら検閲をうまくきり抜けたいと思ふ人間がうぢょ/\してゐるのだから、勿論ほんぐらゐは何冊請求されても、二つ返事で持って行って、決して一言半句も異議をはさまない。
という。
ここでこの文章をちと分析すると、かうなる。
主として内務省の「お役人」が「この手」を使うという「噂」があった。
- トロットと猫と犬 / ア・リシュテンベルジェ著 ; 望月百合子訳. -- 東京 : ふらんす書房 , 1935.11. -- 217p ; 20cm. -- (BA4565008X) ; http://ci.nii.ac.jp/ncid/BA4565008X
著者標目: Lichtenberger, André ; 望月, 百合子. -- 分類: NDC6 : 943
かきかけ
その部分だけ書き抜き。
この納本部屋にはその時十人ばかりのおそろしく育ちの悪い、みな「給仕から成り上がりました」といふやうな品性のない若者がゐたが、その中の年長らしいひどく貧相な下卑た男が私の傍に、まるで香ひでもかぎたいかのやうにつめ寄つてきて、淫獣のやうな眼で私をにらみ据えた。それは無気味とも凄惨とも云へない雰囲気なのだ。私は危くこれが私達の神聖な内務省の一室であることを忘れるところだった。
「警官が嘘をついたといふのか」「内務省か逓信省で間違つたといふのか」「官吏侮蔑だ」とか、およそ下品なコセコセした三百代言にもまさる屁理屈を相手が女だと思つて私をぐるりと取りかこんで並べ立てるのだ。おとなしく席についてゐた若者は半分もゐなかった。
「表紙のとれたこんなローズものを」
トロットと猫と犬」アンドレ・リシュタンベルジェ
トロットと猫と犬 定価一円二十銭
昭和十年十一月一日印刷
昭和十年十一月五日発行
検印
訳者 望月百合子
発行者 古川時雄
発行所 東京市渋谷区千駄ヶ谷三ノ五〇一
ふらんす書房
振替東京七七〇九九
印刷者 水野俊次郎
東京市中野区本町通一丁目十三
内交・昭和一〇・十二・廿