書物蔵

古本オモシロガリズム

ジャム文献学からレファレンサーのあらほましき態度を導きだす

住谷氏の、国会図書館のカウンターで「ジャムの作り方を教えてください」と聞かないでほしいという昭和42年のお話の続きね(*^-')b

「ジャムの作り方を教えてください」これは主婦の利用者でなく、ある女子の大学生の質問。しかも農学部の学生。こういうケースに出会うと、ものを安易にきくことは、文化を低めることだといったある文化人の言葉が、実感をもって迫ってくる。(p.201)

昭和40年代の主婦ならば、地域共同体や親族関係が今とは比べ物にならないくら緊密に(うざいぐらい)あったので(君たちは知らんだろうが、大東京だって向こう三軒両隣、割烹着の世界だよ)、「ジャムの作り方」を図書館で聞くなどというニーズは事前に封殺されただろうけれど、当時であっても相対的に共同体から切り離された(自由な)女子大生(「女子の大学生」という表現が今となってはオモシロ)であればこその質問ではなかろうか。田舎から花のお江戸にポッと出てきて、不図、「ジャムを作りたい、けどまわりにジャムの作り方を聞けるような知り合いがいない」女子大生が、東京名所でもあった図書館で聞くというのは、むしろ、自然であり、涙ぐましいことはではあるまいか(。・_・。)ノ
もちろん「女子の大学生」が本当に「自由」になって(消費者化、個人主義化して)しまっていたら、女性であろうとも、ジャムを自分で作らねば、などとは考えなかったろうが。そこは過渡期ということで(σ・∀・)σ
もちろん、

図書館で聞くのはよいにしても、国会であるべきか

てふ疑問は残ってしまふのだけれども(これについては後述する)。
で、レファレンス・サービスマニアたるわちきは、そんな時代状況や館種の勘案などフッ飛ばして、果たしてジャム文献は上手く見つけられるのか、といふ話をしたい。

脱線:レファレンサーがつね日ごろ、文献をながめる際のコツ

注意深いレファレンサーってのは、どんな事象に対しても、変わった(相対的に少ない)取り扱い方で書かれている文献には常々、注意しておくものである。
今回の質問でいえば、
ジャムについての文献といふことになろうが、実はその取扱いかたが重要。
たとえば、ジャムに対する態度に、実用的、と趣味的といふ2つの観点があるとして。

ジャムの作り方 → 一般的
ジャムの歴史 → レア

ということになろう。
んで、注意深いレファレンサーは、日々、文献に接するうえで相対的に「レア」な観点や取扱いをしているものに気にかけておく。
つまりジャムの件でいへば、ジャムの作り方の本は、スルーしておいて、ジャムの歴史の本は、

ん?(・ω・。) これはチトめづらかかも(*´▽`)

と心にとめておく。
むかしヨガの歴史について聞かれたことがあり、ヨガの実践法の本なら山ほどあるのに、歴史がないなぁとて、困ったことを思い出すよ(ってか、件名の設定を工夫したら出た)。
そんで、ジャムの作り方の本なら、フツーの実用書を出せばよい。ってかそれなら国会以外にもフツーの書店、市町村立図書館にあるわいね。
とゆーことで、この質問はホントは街の書店や市町村立で受けるべきだったのでは、といふ目がでてくる。
もし「女子の大学生」がジャムの歴史や日本受容史や、はてまた「ジャムの食品工学的」作り方を知りたかったのならば、こりゃあ、一般書店、一般図書館でなく、県立や国立で聞くのが本道といふことになっただろう(まあ、住谷論文ではそこまで記述がないからわからんが、レファレンス・インタビューてふもんはそこを訊きだすのが肝要)。

あくまで主標目に対して、細目にあたる部分が相対的にレアという意味

まあ、専門的にいえば、標準列挙順序で、主標目の後にくるサブディビジョン(細目)に、相対的に出版件数が少ないものが付くような文献を見かけたら、メモしておくということ。
どのような取り扱いがレアかは、じつは主標目(主題)によって変わってくるので、例えば、いまだ「軍隊」のない(だって憲法にそう書いてある)民主日本国では、戦車の取り扱いマニュアルというのは書店で売ってない。

戦車の運用法 → レア
戦車の歴史 → 一般的

これが軍国日本なら、運用法の本が多くなるだろう。
文献を見るときには、かやうに、あらゆる(ないし担当の)主題(トピック)に対して、めづらかなる観点、取扱いをしているもののほうに注意を寄せるといふのが、よいわけである。

質問が真摯であればトピック自体の高低は、おそらく関係ない

嫌がらせ、いたずらとしての質問ならともかく、そうでなければ、あらゆる事象(トピック)を、レファレンス・カウンターで聞いてよいだろう。もちろん、法定独占に係る質問内容や(医療、法律)、業界内規律で政策的に答えない(宿題とか)ものは司書は答えられないが、法定独占なら、レフェラル・サービスとして、まさしくレファレンス・サービスの違う形態として受理すればよいのだし、宿題だって、役立つ文献ぐらいなら教えたっていーのだ。
しばらくまへに、エロマンガの書誌的調査(これは、ほとんど不可能)、ってか住谷さんの国会にどれぐらい納まってるか調べた文章があったでせう。
あれなんかも、トピックそのものは下品かつエロい話題かもしらんが、たとえば女司書にいたずらで聞くようなものでなければ、立派にレファレンス・クエスチョンとして成り立つと思ふ。