図書館に勤めたことにある御仁ならば、ある美術家の、ぜんぜん有名でない作品についての記述ないし図版の有無を聞かれたことは多いだろう。
けれど、日本の美術の場合、できるとこといへばせいぜい、ニチガイのレファレンス事典を引くことぐらいで、あとは展覧会図録でも見たらとて、美術図書室のソウモクやNDL-OPACを案内するぐらいのこと。
そんなときいつも思うのは、「日本の美術にもカタログレゾネ」があったらなー、ということ。
カタログレゾネっちゅーのは、ある美術家の生涯全作品を載せたカタログ。
日本にもカタログレゾネがあればよい、なぜないんだろう、と森さんに言ったらば、すごく簡単な答えが返ってきた。
真贋の問題ですよ(。・_・。)ノ
このまへオタどんが紹介していた
- 作者: 駒村吉重
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/05/13
- メディア: 単行本
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この本はミステリ仕立てノンフィクションだけど、元ネタは次の本らしい。
- 藤牧義夫眞僞 / 大谷芳久. -- 学藝書院, 2010.11
駒村著によれば、大谷著はきちんと調べをしている本のようである(ってか、それが研究ならあたりまえなんだけど)。
大谷は、当時の電話帳や火災保険特殊地図を見つけてきて、「浜町二ノ十一」の織物関係者をかたっぱしから調べだした。(駒村著p.51)
へーぇちゃんと調べとんのねぇ。ちなみに火保図に〈特殊〉をつけるのは、沼尻長治さんの独創で、その独創は、じつは5,6年前から広まったといってよい。だからわちきは、古くからの伝承・文献その他を参照した火保図言説と、ここ数年の火保図言説の見分けに使ってをるのぢゃ(σ^〜^)
それはともかく、結局、著作の真贋について、日本では海外に比べてかなりあいまいであるので、カタログレゾネが作れないのだろう。
あーあ。
カタログレゾネについての文献
カタログ・レゾネについては、島本浣『美術カタログ論』で1章まるまる使って述べられているが、この本は歴史的な変遷を追う叙述的な書き方をしているので、いまいちわかりづらい。ってか、もともと、ただの、合理的に考えられた(リーズンド)カタログであるということでしかないものが、いつのまにやら総目録になっていった経過がわかるということになっている。
- 作者: 島本浣
- 出版社/メーカー: 三元社
- 発売日: 2005/07/01
- メディア: 単行本
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典型的なカタログ・レゾネとは、一人の美術家による美術作品の包括的カタログが載ったモノグラフである。
http://en.wikipedia.org/wiki/Catalogue_raisonn%C3%A9
スペイン語"Catalogo Razonado" イタリア語"L'Opera completa" ドイツ語"Oeuvre-Katalog"か"Werkverzeichnis"
(追記)意外と「ギャラリーフェイク」が日本におけるカタログ・レゾネ論の先駆け?
森さんの示唆で「ギャラリーフェイク レゾネ」で検索したら、関連文献が出た。あるブロガーが三年前に言及していたもの。
- 「カタログ・レゾネ」日本でも」『読売新聞』2009/6/11(木)
http://blogs.yahoo.co.jp/big_flyjp/40857336.html
「欧米では主要作家の8割以上にレゾネが存在するが、日本ではまだまだ1割以下です」という瀬木慎一(美術評論家)のインタビューを載せている。逆に、「1割以下」も!あるのか( ´・∀・`)ホント?とつっこみを入れたくなってしまふが( ^ - ^ ; )
意外と1997年の、って初出はもっとまへだろうが「ギャラリーフェイク」がレゾネを日本で論?じたかなり初期の文献であるのかも(゚∀゚ )アヒャ
あと、雑索やALCのソウモク見たら、意外と「所蔵全作品目録」の意味でも使われているよう。
- ポスター・コレクション カタログレゾネ ; 1 - 4. -- 京都工芸繊維大学美術工芸資料館, 1992 ※これ、必要があって見たことがあるけど、排列むちゃくちゃで引くことができないもので、マイッタ(*´д`)ノ
- 東京大学大学院情報学環所蔵第一次世界大戦期プロパガンダ・ポスターコレクションカタログ・レゾネ = World War I propaganda poster collection, hel d at the Interfaculty Initiative in Information Studies, the Universit y of Tokyo, catalogue raisonné / 東京大学大学院情報学環吉見俊哉研究室著作. -- 東京大学大学院情報学環吉見俊哉研究室, 2006 ※これにゃ、外国のしかないけど、実は情報学環に帝国日本のもあるというのは、ここだけの秘密(σ^〜^)
ただ、わちきはやっぱす、作者単位の総覧リストをレゾネと呼ぶべきと思うがの。
雑索でひっかかった、
は、いったいどっちの意味で使ってをるのかの。ってタイトルからいって後者っぽい。
変わったところでは、
- 海洋堂レゾネ = Kaiyodo raisonné. -- 東京 : オクターブ, 2009.12. -- 323p ; 20×23cm. -- 注記: 編集: オクターブ, 大向デザイン事務所 ; おもに図版 ; 海洋堂の歴史: p280-300 ; 第2版第1刷 (2010.2刊) の「海洋堂の歴史」: p280-299
なんちゅーのもあるやうだ。
さらに追記
ウィキペ英文では、catalogue raisonneは熟語の術語だ。だから米語であっても決して、catalog raisonneにゃせんのだ、複数形にする時には、catalogues rarisonnesと両方にsをつけるのが正しいのだ、ぐらいの議論(だから独自研究だとつっこみがはいってるが)があるのに、にゃんと、妖怪堂じゃなかた海洋堂のレゾネは、ただ、raisonneとあるのみで、catalogueがない!!!
してみると、ニフォンゴでは、
レゾネ=キャタログ・レゾネのこと
となっとるのか?(σ^〜^)
追記(2013。8。25)
しばらくまえ、古書展で森さんに示された版画か絵画の1980年代の教科書に、きちんとカタログれぞねのことが紹介されていた(・o・;)