書物蔵

古本オモシロガリズム

古書コレクターが死ぬと、「ナダレのようにひとがきて、本をとる」:峯村幸造→良い人という発見

平井, 通, 1900-1971 || ヒライ, トオル が主人公の小説

あたかもよし、ちやうどヌートリアくんも

を読んでいたとのこと。
いやサこれを読むと、後半、峯村幸造(作中の橘村好造)の立派さが身にしみるね。
あと、平井蒼太(作中の横川蒼太)の一周忌で、印刷屋、愛書家、古書業者などが集まり、順番にしゃべるんだけど、そこに出てくる人たちがまた。

今度のひとは古本屋で、かたわら〈古書通信誌〉という雑誌を出しつづけているという、かなり年配の男である。(p.109)

なんて、こりゃあ、八木福次郎さんΣ(゜∀゜;) 

この会にきているひとの多くも、そういう横川蒼太の子供じみたケンカの相手をさせられているが、たいてい横川蒼太からのこれまた一方的な仲直りで元のようにつき合っていたから、死ぬまで絶交していたひとはいない。ところが、次に喋ったひとは、死ぬまで仲直りしなかったという。このひとも、だれも紹介しないし、自己紹介もないから、わたしはいったい何者なのかわからない。(p.120)

「だれも紹介しないし、自己紹介もないから、わたしはいったい何者なのかわからない」って、わちきにはわかっちゃふのらΣ(゜∀゜;) これって斎藤ヨズエぢゃないの(≧∇≦)ノ

峯村幸造→いいひとぢゃん(o^∇^o)ノ

てかこの本、江戸川乱歩の弟にして民俗学豆本出版家でチョー変人*1平井蒼太こと平井通をモチーフにした小説なんだけれど、平井は話の最初のほうでおっ死んぢまって、実は後半、主人公の相手をしてくれる人物として出ずっぱりなのが、作中で橘村とされとる峯村幸造である(σ・∀・)

橘村好造は、旧制の高等商業と商科大学を特待生で卒業したという秀才であるから、元来書物に親しむ人間であったのかもしれないが、なにがキッカケで特殊な書物愛をもつに至ったのかはわからない。<いったい、本のどんなところを研究するのですか>などとわたしはヤボなことをたずねたことがある。<わたしは、本の奥付なんてものに興味がありましてね。奥付の研究をしております>とはマジメな顔でいったことがあるが、わたしのように必要な本を仕方なく読むことの多い者にはわからない研究である。(p.153)

峯村のひととなりを知るには格好の小説といへませう、ってか、峯村むちゃくちゃ、いいひとぢゃん( ☞◔ ౪◔)☞
だって、主人公が同棲相手(沼田ミツオこと池田満寿夫)の不義がもとで別れる際に、きちんと取り仕切ってくれたり。
峯村幸造といへば、釘ぢゃ、クギ(σ・∀・)σ

わたしはナダレが起るのを何度も見てきましたからね。ナダレのようにひとがきて、本をとるんだからね。どうしてかというと、本の持ち主の遺族は本についてはななんにも知識がない。だからどの本がいくらの値打ちかわからない。ところがナダレの方は知っているわけです><本をとるって、タダで持っていくんですか?><まさかそこまではしないですけれども、タダ同然で買うわけですな。わたしは自分の先生が亡くなられた時は、すぐに先生の書庫の戸に釘を打ちましたよ。はい、釘を打ちましたよ。(以下略 p.54)

稀覯書コレクターが死ぬと、友人知人古本屋が、ナダレのように押し寄せるといふことらしい。
お悔やみにくるナダレが、勝手にこっそり本を持ち出さないように、「書庫の戸に釘を打ちましたよ。はい、釘を打ちましたよ」。
おそろし、おそろし。

斎藤昌三は〕家人が気付かないまま、安らかに大往生をとげられた。昭和三十六年十一月二十六日の通夜の席上、翁の旧友大矢竹雄、長尾桃郎、岡沢貞行、少雨荘二世峯村幸造氏等の発議によって、少雨荘文庫の扉は釘付けされ、家人と雖も立ち入る事が禁じられた。
(『土:金光図書館報』1961 p.272

なんともスサマジ。

峯村幸造書誌

(図版はヤフオクに出た雛絵本)

  1. 「」『書痴往来』4(1) p.- ()
  2. 定本末摘花通解 / 大曲駒村 編,富士崎放江 編,斉藤昌三 校訂,峯村幸造 校訂 書痴往來社 1956
  3. 定本末摘花通解 / 大曲駒村, 富士崎放江 編著,岡田甫 増補 書痴往来社 1958
  4. 峯村幸造「生まれなかつた珍装幀」『造本談義』(北海道豆本の会, 1959) p.- (えぞ・まめほん ; 第26.)
  5. 峯村幸造「 《斎藤昌三翁追悼特集》十一月廿六日前後」『日本古書通信』27(2)=(391) p.- (1962.2)
  6. 峯村幸造「少雨叟著作豆本閑話」『本の手帖』27(8) p.- (1962.8)
  7. 峯村幸造「少雨荘文庫への言葉」『齋藤昌三翁蔵書売立目録』明治古典會 p.8 1964 ※6月10日の売立目録
  8. 雛絵本 / 池田満寿夫, 峯村幸造, 薔薇蒼太郎 著 真珠社 1967
  9. 峯村幸造「限定本記番事始考」『日本古書通信』34(11)=(484) p.- (1969.11)
  10. 峯村幸造「武井芸術の誕生とその魅力」『日本美術工芸』(535) p.- (1983.04)
  11. 峯村幸造「私家版作者の世界」『季刊銀花』(2) p.- (1970-07) ※「執筆者近況」あり
  12. 峯村幸造「序文愛読」『季刊銀花』(4) p.- (1970-12)
  13. 峯村幸造「本の表紙の手ざわりにひねもす飽かぬわが心」『季刊銀花』(5) p.- (1971-03)
  14. 峯村幸造「華墨鑑賞」『季刊銀花』(6) p.- (1971-06)
  15. 峯村幸造「明治本讃歌」『季刊銀花』(8) p.- (1971-12)
  16. 峯村幸造「私のコレクション ゲテ装本」『出版ニュース』(983) p.- (1974-09)
  17. 峯村幸造「佐々木桔梗=本の美学」『季刊銀花』(40) p.- (1979-12)
  18. 峯村幸造「武井芸術の誕生とその魅力」『日本美術工芸』(535) p.- (1983-04)
  19. 峯村幸造「奥付け楽趣」『季刊銀花』(66) p.- (1986-06)

*1:この人のこだわりは、オンナずもうと、パイパン