書物蔵

古本オモシロガリズム

建制順誤解の弁解から図書館組織汎論に至る

オタどんの誤解

「書物蔵」に、図書館の職員は雑誌カウンターよりも図書カウンターの職員になっていい格好したがるというようなことが書いてあったと思う。
http://d.hatena.ne.jp/jyunku/20100819/p1

とあるが、そんなことは言ってないぞよ(=゚ω゚=) 誤解ぢゃ。
もちろん、
「図書館の職員は雑誌や図書の貸出カウンターなんかうっちゃっといて、貴重書やレファの職員になっていい格好したがる」
という傾向があるは思うが(σ^〜^)
んー、これは説明不足だったかすらん(゜〜゜ )
オタどんも注記でかいとるように、むしろこれは「雑誌担当」、つまり、図書館界全体で雑誌を軽視してきたという全体傾向の話と、組織内の問題としては、どっちかっつーと整理部門でのことなのでした(。・_・。)ノ
でも、あの記事は前提となる知識とセットでなかったから、誤解するのもやむなしか(-∀-;)
といふことで、ここに補足(。・_・。)ノ

図書館組織の一般

一般に、図書館なる団体においては次のように組織内機構が造られる。これは、小さなところでも大きなとこでも大きすぎるとこでも同じはず。

図書館の組織の図(一応、館種非限定)

館長┬庶務 庶務担当 企画・協力担当
  ├整理 受入・雑誌担当 図書担当
  └閲覧 レファ担当 貸出・書庫担当

建前(タテマエ)としては同位の部署にエラサの違いはないはずなんだけれど、実態論上としてはあって、それは2つの現象としてあらわれる。

建制順=エライ順

ひとつは組織図(あるいは事務分掌規程で)のうえで、先に書かれる。これは、「建制順」ともいわれていて、おおむね先に出来た順なんだけれど(つまり、古い部署のほうがエライ傾向になる)、まれに政治的リーダーシップによっていじられることがある。たとえば、1988年の文部省における生涯学習局の設置とか。
まあ長・中期的な政策順位とでもいえようか。
その伝でいえば、たとえば国会図書館などは組織図を見るとヘンなとこがとてもわかりやすく出る。閲覧の一部門、特殊レファをする部門が総務部のつぎに並んでいる。そこで他のあらゆる部門より政策的に特殊利用者を優先しているということが、組織図で明示されているわけなのだ。
で、もうひとつの現象として、これはほぼ必ずタテマエの文書に明示されないことなんだけれども、建制順の優位なほうに、人材を集める傾向にある。まあこれには逆機能もあって、たまたま最初、建制上優位なポストに配属されると、よっぽど明示的に非道くないかぎり、まわりに引っ張られて妙に出世する(そして害悪をなす)ということもあるんだけど(これは、『日本の行政』(村松岐夫1994中公新書)に書いてあった。そーゆー意味ぢゃあ行政法学でなく行政学にも存在意義があるというか)。
でもまー、館界一般では、庶務>整理>閲覧の順になっていることが多い。あわてていうと、庶務がエライんじゃなくて、会計とか企画とか政策判断をつかさどるとこがエライという意味ね(もちろん、ここにも落とし穴があって、決裁文書のお盆を運んでいた純粋庶務の人が、単に顔を知っているから、ということでエライ人に引っ張られて妙に出世する(そして害悪をなすor不作為の罪を犯す)こともあるんだけど)。

閲覧の中では…

話を図書館組織に戻すと。
カウンターとゆーことでいえば、それは閲覧部門(英語ではpublic service)の話になるが、図書が偉くて雑誌がエラクないということはない。そもそも、閲覧部門ではむしろ、レファカウンターや貴重書担当がエラクて、図書も雑誌もひとしなみにエラクないということになっているのでは(。・_・。)ノ まーこれも組織図を見ればわかることだが。
それに、一般には図書(単行本)と雑誌(逐次刊行物:新聞・雑誌)を閲覧部門でわける図書館はあんまりなくて、基本的には大規模館でだけ。国立や都立、大学だとたしか慶応がそうだったような…

館種と時期で転倒はあったが

ただ1960s-1970sの公共図書館界のウンドーでは、むしろそれを政治的に転倒させて、エライのは貸出担当のカウンターで、整理やレファはエラクない、ということにしたんだけどね。
これが実は成功した。くさってた(=やる気のなかった)閲覧現場を全国的に活性化することができたんだわさ。1970年代から1980年代の大躍進は主としてこの転倒したイデオロギーによるものと思う。
ただ、長期的な弊害が1990年代にモロに出た。業界の「中の人」は、「どうだ成功しただろう、これが未来永劫正しい」ぐらいに思っちゃったんだけど、実は図書館業界というのは純粋非営利セクターで、「外の人」によって支えられているものだったのだ。
で、その肝心の、外の人たちがこう思うようになってしまった。

貸出作業みたいな単純作業がそんなにエライなら、図書館全体が全然エラクないのだろう

と。つまり、首長部局や世間様に見切られるという結果を生んだ。その挙句が、指定管理者制度の導入なのである。
もちろん、貸出担当がエライというのは欧米や日本の大部分ではない考え方である。せいぜい、欧州流では昔から今まで図書整理や貴重書担当がエライが、米国流ではレファや企画・協力がエライという変種があるだけ。日本でも大学図書館では欧州流が戦前戦後とも主流で、ICUとか慶応とか米国占領の影響をモロにうけたところだけは米国流に染まっているけどね。

ということで

やはりかようなる知識は司書課程の教科書にでも書かねばらなんかすら(*´д`)ノ