書物蔵

古本オモシロガリズム

日本国で映画の保存ができてない本当の原因

コピライト氏んとこで盛り上がってるようなのでチト見てみた(・∀・)
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://d.hatena.ne.jp/copyright/20081025/p1
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://www.asahi.com/showbiz/movie/TKY200810250086.html
孤児作品の一種として孤児映画が大量にあり、保存もままならず危機に瀕しているという。
なるへそ。
現在・ただいま、を救うためには、特別な立法も必要かも。おほいにやるべし。
でも実は、法律上ではこんなこと(=映画遺産が引き継がれないという状況)は起きないようにすでになっている、といわれたら、おおかたの人は意外でありませう。

法律的には解決?済みであるというフシギな日本法の現実

じつは映画をとっておく法文もあるし、保存をするため著作権を制限する法文も現に日本法にある。
でも、こんな(なさけない)状況が現にあるというのはなぜかしらん? といへば…
フツーの人はだれも聞いたことがないであろう瑣末な国立国会図書舘法の附則のせい、といったら、ちっとはおどろくのではあるまいか。
ってか、あまり読まれてない戦後納本制度の研究書にここいらへんのことはキチンと書いてある。司書課程・図書館情報学を専攻というのであれば読まれるがよい。

1948年から、映画は保存されることになっていた

国立国会図書舘法において、納入物の範囲が狭いものにされたことは「映画」の納入につき最も端的に現れている。すなわち1949年の改正法の附則第2項に、「当分の間、館長の定めるところにより納入を免ずることができる」という規定が入れられた。(p.139)

この附則は1949年国立国会図書舘規程第3号第4条でほぼ同じ表現で繰り返されており、

この結果、映画を納入すべきであるという米国使節の立法提案は実質的に骨抜きにされ、現在にいたるまで50年間「当分の間」納入を免じられてきた。(p.140)

という。
これは、いちど書いたけど次の本に載っていること。
電子時代の出版物納入制度 : 情報の自由な流れにむけて / 原秀成著. -- 学文社, 2001. -- (官庁資料の公開 : 情報利用の民主化をめざして / 佐藤隆司, 大庭治夫, 後藤嘉宏著 ; 2)

一方で、著作権法に図書館の特権が

現行の著作権法には、ありがたいことに図書館が保存のためにする複製は許諾がなくともできると書いてある。

(図書館等における複製)
第三十一条 図書、記録その他の資料を公衆の利用に供することを目的とする図書館その他の施設で政令で定めるもの(略)においては、次に掲げる場合には、その営利を目的としない事業として、図書館等の図書、記録その他の資料(略)を用いて著作物を複製することができる。
  一 (略)
  二 図書館資料の保存のため必要がある場合

まぁ、図書館の特権条文が書き込まれる場所は、かならず「著作権法」じゃないといかん、ということはおそらく原理的にはないんだけど、とりあえず今の法律はそうなっている。
んで、1948年から映画がキチンと国立図書館に「納本」されつづけていれば、いまの著作権法で、なんら問題なく保存措置が講じられたはずであるということだ。
あったかもしれない映画遺産だねぇ。
なんとも惜しいですの。

司書課程の省令科目案「図書館法制」について

この前、司書課程でこの科目を1科目まるまる新設するというのは多すぎるような気がすると言った。だけど、図書館現象(資料・情報の収集・整理・保存)にまつわる法的な問題を、個別ばらばらに関係してくる諸法規の各条文について、あきらかにしてくれるような授業や教科書がもし、できるんであれば、1科目あってもいいかもしれんという気がしてきた。
その際、とっても重要なのは、先に図書館現象を考えて、それにどんな法律のどこの条項がからんでくるのかを検討すること。これを逆にやると、法匪を生み出すばかりで図書館事業が縮小再生産に陥るんだよねぇ(・∀・`;)