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古本オモシロガリズム

いまどきの図書館本とか

わちきは基本的に古い図書館本ばかり読んでいて、いまの図書館本は趣味でないのだが。
GCWさんも読んだとかいふ『公共図書館の論点整理』(勁草2008)なる本があるのだが、なんど読んでも忘れちゃうので(^-^;)、ここに(〃^-^)φ

公共図書館の論点整理 (図書館の現場 7) (図書館の現場 7)

公共図書館の論点整理 (図書館の現場 7) (図書館の現場 7)

1.「無料貸本屋」論
実は、貸出サービスを「無料貸本屋」として批判する向きは昔からある(昼間守仁1986)。基本的に貸本屋論者は「公共図書館の現状のあり方を批判しているのであって、存在自体を批判しているのではない」。貸出サービスを中心に図書館を考えるか(貸出至上主義)、相対化して考えるかによる違いにすぎないが、貸出主義者から見ると貸本屋論者は「公立図書館の機能と目的を貶めている確信犯」に見えてしまう。無料貸本屋論争とは、貸出サービスを相対化するか絶対視するかの違いであり、実は図書館シンパによる従来路線への異議申し立てであった。
【感想】基本的に図書館というのは日本ではじっこでしかないので、文句にせよなにか言ってくる勢力というのはシンパである(なりうる)はずなのに、すぐ敵対視しちゃうのはいかがなものか。ちなみに楠田五郎太貸本屋と批判されたといっていたから戦前からこのことばはあったのでは。ん?(・ω・。)でも1950年ごろまで閲覧料を取っていたからただの「貸本屋」と「無料貸本屋」はちがうか???
2.ビジネス支援サービス
実は、ビジネス支援サービスは昔からある(大阪図書館1904)。近年の○○支援の特徴は、内容の新しさではなくサービスの展開方法の新しさにある。地域住民全体でなく、マーケティング的に特定層をターゲットにし、それにあわせて政策的予算をゲットしてくるという図式自体が従来の図書館経営になかったものだ。
「「○○支援」のサービスは〜図書館改革の〜象徴〜と考えられる」が、ビジネス支援そのものが成功(ニーズの掘り起こしに成功)するかは予断をゆるさない。
【感想】ビジネス支援のニーズ掘り起こしの成否は、ちょうど、1960年代の貸出ニーズの掘り起こしと同じで、貸出も当初、ニーズがあるかどうかは掘り起こしてみないとわからんぐらいのことが言われていた(たしか森耕一)。1970年前後の貸出派のワクワクドキドキ感を、いま○○支援派が感じておるはず。
3.図書館サービスへの課金
実は、課金容認論昔からある志智嘉九郎1953)。1990年代にオンライン有料DBを導入する手法として課金容認論が出るようになり、改めて論争となった。そもそも無料制は政策的なものであり、コピーなどでは料金を徴収しており、論争をきっかけに有料無料の線引きが学問的に(例えば「外部経済性」の有無など)ひかれてしかるべきであったが、「図書館法の危機であるという感情的な表現での意見表明がなされたことでエスカレートした」ばっかりで、結果として論争は学問的成果も生まないまま、有料DBの公共図書館への普及も生まなかった。
【感想】図書館法第17条って不磨の大典かと思ってたけど、政策的なものなのねー(・o・;) 公共図書館のユーザだけ、便利な有料オンラインDB(とくに従量制のもの)にアクセスする選択肢がないというのもこまっちゃうね。大学からおっぽりだされたら、ちょっとした調べモノもできん、ちゅーことね(-∀-;)
4.司書職制度の限界
実は、現在ただいまでも「司書職制」は確立されている(図書館法1950第4条)。それが自治体に義務化されていないだけ。それを義務化(規制強化)するための準備として、最初は「職務分析」が行なわれたが(文部事務次官通牒1950)、JLAが「専門職(profession)」という概念をもちだしてしまう(JLA1974)。
 しかしこれは、本来まったく文脈の異なる概念だったうえ、特に日本の司書集団にはあてはまらず失敗(3要件の不在:体系的知識、懲戒権を持つ同職者団体、公共性・有害性*1のあるサービス)。そうこうしているうちに環境が激変し(新自由主義的改革)、館界内で職務分析の再評価された(大庭1998)が手遅れだった。
 また、司書職制そのものは、直営・正職員たることを要求しない。というのも、司書有資格者がありあまるほどいるので低賃金で雇える一方、内部調達しづらい専門的職務こそ外部化に最適という考えが自治体に普及してしまったからである。
 では、それらの有資格者から公共性・有害性のある(つまり有用な)サービスが立ち上がるかといえば、現状の司書資格の中身が低すぎるうえ、その向上も望めないところが問題だ。資格生産者たる大学は、資格の中身の向上には不熱心。というのも、資格発給をウリにはするがコストはかけたくないから。
 著者は「司書職制」義務化運動の「限界が顕になった以上が別の方策が講じられなければならない」として、著者は有資格者に限らずとも人材を集めたほうがよい、とする。
【感想】うん、この論理構成が妥当だとすると、文科省が司書課程の単位を増やすという規制強化をすれば、長期的には展望があるということになる。が、規制強化がどれだけ今の世の中にうけるか。
5.公共図書館の委託
実は、委託は昔からあった。それもJLAが率先してやっていた(カード斡旋配給、図書推薦事業1947-)。JLAの受託事業は目録も選書も最初はそれなりに儲けており、館界に異論もなかった*2。1980年代に都市経営論による委託への反対運動が起こったが、「図書館界は自ら蒔いた種である選書、整理事業の委託には目をつむり、矛先をその後に起きた貸出しカウンター業務を中心とする委託にもっぱら向けることになった」ので、外部から、なんだ、専門的な選書も整理ももう委託しちゃってるじゃん、だったら全部委託するよ、と言われた際に反論ができなくなってしまった。
図書館サービスは人が大事というのは確かに事実で、その事実の裏返しとして公務では他部局に比べとびぬけて人件費の割合が高い。そしてこれはまっさきに外部化の(すくなくとも検討の)対象になる特徴。
貸出主義に依拠しない委託反対論(山重壮一2004)もあるが、それを貫徹するには司書職集団に新しいヴィジョンが必要になるし、皮肉にも委託化によって司書率が上がるという現象も起きている。
新しいヴィジョンを理事者と共有できたり、評価システムが先にあれば、直営、委託、PFIという経営形態はどれでもいい。問題はむしろ、従来どおりの直営を続けてしまうことである。そのままだと財政悪化で、まるごとスジの悪い委託になってしまうだけである。
【感想】JLAが率先して専門的な業務の委託をしていたという皮肉。これは、JLAに自己批判・総括してもらわねばなりませんなぁ(・∀・) しかし貸出派の人たちって、徹底的に納税者とか理事者、首長部局という「他者」への配慮に欠けるのね。委託=絶対悪でなく、よい委託、わるい委託があるという視点はナールホド。
6.開架資料の紛失とBDS
実は、図書の紛失(盗難)は昔からあった。近年、報道されるようになったので(朝日新聞1996)目立つようになっただけ。いつの時代も開架をすると、だいたい年1.5%の割合で本はなくなっていた。管理責任を追及されるのをおそれた司書たちが明確にしてこなかっただけである。戦後、開架と貸出しによって図書館サービスは劇的に改善されたが、その負の側面は残ったままだった。まじめに考えてた石井富之助小田原市立図書館長)の問題提起は無視されるどころか、「中小レポート」などで叩かれる始末。
 紛失対策のため、ブックディテクション(図書検知機)が日本にも輸入されるようになったが、大学図書館にしか普及せず、公共図書館へは1990年代後半からやっとであった。これも司書たちがナイーブな感情を持っていたからだが、このナイーブさは社会評論家の呉智英によって批判(茶化)された(呉智英2001)。
【感想】司書さんたちってナイーブなのねん。
7.自動貸出機論争
貸出機もBDS同様、導入・普及がガタつく。とくに貸出主義者たちにとって貸出機は目の仇であったところへ、導入派がメリットとしてあげた「プライバシー」という言葉にピキーンときたJLA自由委員会が参入して混戦状態に。カウンター窓口分割(貸出とレファに)反対・賛成論争ともリンクしてさらに混乱。けど、結局、すこしづつ普及がはじまった。
【感想】まるでラッダイト運動ですな。
【全体の感想】
やっぱり日本図書館(業界)史、日本図書館論説史は大切だなぁと。いまのわれわれの(業界的)言説空間ってのは、1970年代の貸出派の人たちが作り上げたもので、その空間のなかに棲んでいると、曰く、「無料貸本屋」と呼ぶ奴は悪い奴、曰く、予算をくれないのは保守反動政治家、ってな具合に、なんでも解釈できちまう*3。やっぱり、いったん時代を古くとるかジャンルを違えて(言説空間の)外へ出てみるのがいいんだねぇ。JLAが率先して委託を勧めていたとか、ほんと、驚いた。ってか、こういった今の*4オピニオン・リーダーたちに都合の悪いことって、無意識的にか隠されちゃうもんなんだねぇ。知っているはずなのに。ソーカツしちゃうよ。
よく戦前の図書館員たちを戦争責任とかいって追及する向きがあるけど、戦時中ほとんどなにもできなかった戦中図書館員よりも、具体的に図書館界に成功(と「負の遺産」)をもたらしてきた戦後図書館員の「戦後責任」を追及する時期がそろそろ来そうな予感、じゃなかった悪寒*5がするですよ。

*1:たとえば医術は一歩間違えれば殺人を引き起こすが、どうしても必要な術であろう。

*2:しかし事業拡大の際にこのJLAの委託事業が1億円近い大赤字を出す(1970年代)。そしてこれを整理・別会社にしたのがTRCで、これは彌吉光長の業績。

*3:なんでもかんでもオールマイティーに理解できちまうグランド・セオリーって、まるごとアヤシイ。

*4:って一昔前か。みんな6、70代では。公共系に30代20代の論客がいないのが困るんだよね。

*5:もちろんこれは悪寒と予感をネット上の慣例に逆らってわざと逆順にしている。