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古本オモシロガリズム

高くてうまいもんを食うか、安くてそこそこのもんを食うか?あなたはどっち

GCWタンが紹介していた毎日新聞の記事「民営化が進む図書館/利用者軽視の公費削減/地域との議論尽くせ」(2006.6.7)を読んでみた。
静岡市立中央図書館の民営化について、館長の諮問機関「図書館協議会」が、「民営化試行凍結の答申を出す」と決議しようとしたが、教育委員会の次長が、「答申ではなく、意見か申し入れの形でお願い」といったので紛糾しているという話がマクラ。
そのあと民営化後の事例がいくつか。(プラス・マイナスで列挙してみるね)

北九州市(5館)

+5900万円の経費節減
−廃棄本が増えた(という声)
−地域資料の収集が低下した(という声)

山中湖情報総合館(全国初の民営化2004年)

+記載なし
−職員の薄給(NPO職員7人平均年収180万円。 館長は無給)

東京都江東区

+無愛想だった職員→若い女性の笑顔
若い女性→質問すると事務室に引っ込んだままに

受託側の代表としてTRCの意見

+記載なし
−「図書館法に無料貸出しの原則があるため、(中略)全くうまみのない事業」と石井昭会長。

んでもって,署名記者の賀川智子(静岡支局)の総括は

喜んでいるのは支出が削減できた自治体と、「改革」の例が増えた小泉政権だけ

と。
記者氏はこの後、自分が米国留学したときにうけた、高度な図書館サービス(レファレンス)をもってきて、「日本の図書館は戦後、米国を範として再出発した」はずなのに、「日本の図書館は教育委員会の末端組織でしかない」と嘆く。
んで、最後の結論として

目先の採算だけで民営化を急いではならないだろう。

と,小泉改革公共図書館への波及に反対・疑問を唱えている。
なーるへそ。いいたいことはわかったよ。でも,この人のマジメさに免じてマジメにツッコミしてみるね。
わちきが中立的立場から感想をいうと、山中湖など、おそらく職員のモチベーションが(異常に)高いところではサービスも向上しているはずなのに、それについてはネグっている(職員の労働問題にすりかわっている)ところは問題だなぁ。まあ,それは別にしても,やっぱ「利用者」だけでなく,「納税者」も利害関係者として出すべき。
そうすれば、話はもっと簡単になるよ。
てか,そうしないとこれ読んだ読者は2つの立場しかとれなくなっちゃう。
曰く,「小泉=悪の独裁者」か「公共図書館=左翼=悪(orバカ)」か。
もちろん,わちきはどっちもとらぬ。

議員内閣制をなんと心得をる乎! 似非民主主義者供奴!

記者氏がいみじくも書いているように、小泉改革の主導者や支持者は喜んでいるわけだ。
で、その支持者ってのは日本国民の多数派であるわけで。

国民の多数派→自民党へ投票→議院内閣制→小泉首相

とゆー,小学校の教科書に載っている図式だぞ。
大衆・個人の直接行動(革命・テロ)を是認しない立場から言わせてもらえば、

図書館は多少サービスが低下してもいい。それ以上に予算を減らすべき

と納税者たる国民さまが判断してをる、ということだわさ。
だとしたら,公僕たる図書館員や人民の友たる記者様に何をいうことがあろうか(もちろんこれらが前衛として人民を指導すべきというなら話ゃ別だ。「国家に直隷する図書館員」「消えた図書館官僚」で再論するつもり)。

簡単な話 高くて美味いもん vs. 安くて不味いもん

日本国民にとっては,選択肢はとっても簡単で、

 高コスト=高サービス
 低コスト=低サービス

の,どっちか,ということにすぎない。
こんなふうに類型化するとすぐ、「低コスト+高サービス」型がほしいと,ないものねだりする人がでてくるけど、この世にそんなものはあったためしがない*1
もちろん、「高コスト+低サービス」型のほうは容易に存在しうるし,現に江東区存在したよ。正職員が貸出しをする図書館がそれ。実際、わちき江東区の図書館員だった人に、上記「ニコニコ若い女性」が入る前の「むっつりお年寄り」時代に、まったくおんなじ現象があったことを直接聞いたよ。「質問があるとこわいから、事務室にかくれてる」んだって。おなじようにレファレンスに答えられないんなら、ニコニコお嬢さんのほうが許せるのでは(もちろん両性の平等や年齢差別の観点からは両者は同等なのだが)。

日本は人民共和国じゃないので

で、もし小泉改革が日本国民から支持されておるんならば、それは「低コスト=低サービス」の「低低図書館」でよいと総体としての国民が言ってをるということなのじゃ。
もし,これにどうしても納得でけへんのならば,共産党社民党が議会で多数党になり,人民戦線内閣が組閣できるようにすべきだよ(って,だれも本気にしないでしょ。)。さすればわちきなぞ,今頃ノーメンクラツーラとなって愚昧なる人民どもを指導してやるぞよ。

日本国民は「高高図書館」を知らない

ただ,思考実験として,こんなにも極悪非道で反人民で封建主義的な悪の図書館ブログなのにもかからわず,ここで館界寄りの「思考の補助線」をだしてしんぜると…

日本国民は、「高コスト=高サービス」型の図書館を見たことがない
=だから選択肢がもともと1つしかない
=ゆえに国民が選んでいるとは言い難い

とはいえるかも。
もちろん、ここで「見たことがない」というのは、「そーゆーものがありえると十分に世間的に認知されなかった」という意味ね。
まあ、国内では一部の大学図書館と、大規模には国会図書舘の調査及び立法考査局がやってるだけだから,「高高図書館」は*2
広く国民が(そんなものもあるなぁと)認知できるだけ「高コスト高サービス型の図書館」は陳列されなかったというわけじゃ。
で、記者氏は、米国留学で「高コスト高サービス型」をつぶさにみてきたのだわなぁ。
で,記者氏は選択肢を持つことができた。
そして,ご自分の(新聞記者という知的エリートという)職業上の必要性からも「高高型」がほしい、といっているわけだ。

知らせなかったのは誰?

うん,これは当ブログの読者には明らかだよね。(めんどいからはしょる。おわり。)

蛇足 じゃ,いまからどーすればいいの?

うーん,すくなくとも貸出以外でジタバタするしかないのう。

追記 TRC会長のことば

「図書館法に無料貸出しの原則があるため、(中略)全くうまみのない事業」と石井昭会長は言ったといい,事実そうなんでしょけど。
この記者氏は踏み込みがあまい,あまいのう (・∀・)
公正取引委員会に独占の疑いをかけられるほど公共図書館市場を制覇したTRCが,ほんとに「全くうまみのない」だけの事業をやるとお思いか???
だとしたら,TRCは,ずるずると赤字を拡大させる体質の日図協なみにバカということになるが。事実は逆だと証明しとる。
上記の会長さんの言葉にはウソはないが,言い足りない説明したりないことがあるんよ。
それは…
自分で取材せよ。
ともかくじゃ。
論理的にオカシイ部分には必ずなにかある,と考えるべき。

*1:あえていえば、上記、山中湖がそう。けどこれは無給のbonze・小林是綱氏あってのことだからね。「カリスマ的支配」じゃよ。ゼコウ氏はこの世に1人しかおらんので一般化はむり

*2:それにまた,学術語でいえば,レファの「最大理論」でやっているのは調査及び立法考査局だけ。おなじ国会でも一般考査は中間理論〜最小理論でしかない,というのはコソーリと教えちゃうね。大学も同じ。