書物蔵

古本オモシロガリズム

『文学作品に描かれている上野図書館』1984を読んでの感想

昨日、リストをアップしたけど、もちろんのことこの不思議なコピー本は各文学作品の当該箇所だけ収録されている。アンソロジーだね。便利便利。
というわけで手に入れて4年目に通読してみた。

記述量が多いか、心に残ったもの

4 生方敏郎 「梵雲庵淡島寒月翁を憶ふ」
8 田山花袋  「東京の三十年(上野の図書館)」
11 和辻哲郎  「自叙伝の試み」
20 谷崎潤一郎 「ハッサン・カンの妖術」
23 樋口一葉 「日記」
 「図書館へ書籍みにゆく」というフレーズ。
28 菊池寛 「出世」
 下足番の出世。記述が具体的で帝国図書館が主たる題材の小説の唯一のものかと。

これら文学作品を通読して、気づいた点

  • 職員の制服

 「セピア色」とか「カーキ色」の上っ張りが出てくる。司書官などは当然着なかっただろうが、どんな職位か、時期などに興味。
 ちなみに後身の図書館には、昭和30年代あたりまで女性向けの事務用上っ張りがあった痕跡があるし、昭和末までは運転手の制服があったらしい。
 もちろん、制服を着るということがどうゆう意味合いになるかは別途考究せねばならんが、まぁ端的にいって、ホワイトカラーとブルーカラーの違いとみなせよう。

  • 地下の食堂

 これを陰鬱ととらえるか庶民的ととらえるかで著者の、帝国図書館に対するイメージのプラスマイナスが明確になる。メルクマールとなっている。

 明治5年創設時には、書籍館は湯島の聖堂にあったわけで。明治18年に上野に移転するまでは「聖堂の図書館」と呼ばれたらしい。もちろん、明治の初頭は「図書館(ずしょかん)」ならぬ「書籍館(しょじゃくかん)」なわけだけど。

  • みんなよく使ってる

 文学者はどちらかといえば在野系。だから大学図書館に頼れず、帝国図書館をよく使っているなと。
 今ならさしずめ都立中央図書館的な位置を占めているように思う。
 この時代、在野の読書家によく奉仕したといえる。そう考えれば、帝国図書館の本がヘンテコな改装本になってしまっているのも(当時、保存図書館という観念は薄かったし、「原装保存*1」などという観念も存在しなかった)、やむをえない気分になってくる。

*1:もとの装丁のまま保存すること