産経によって解体されることになった図書館省へのオマージュとして弔文もとい長文upじゃ(^-^*)
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昭和29年に出た,図書館学の学問論の本,じつは今でも唯一の単行本に『図書館学の展開』大佐三四五著がある。その「結語」の直前,本文の最後のページ(p.258)にこんな記述が。
(図書館法による司書資格制度ができたが)然るに近く実施されんとする司書職階の格付けは,国会図書舘がこの職階の枠から脱した関係で,原案の1,2級を撤廃し,3級を以て新たな格付の最高1級に当て直したため,全体として低下した。このことは将来の図書館人事に暗影を投ずるものである。
おおさ・みよごはここで何を言っているのか。これだけでは図書館マニアでもワカラナイ。これにはいろいろ補助線が必要なのだ…
ピラミッド組織(ヒエラルキー)と図書館員
(図1)日本型大部屋主義組織 A省 B省 C省 大臣 ☆ ☆ ☆ 局長 ○○○ □□□ ◇◇◇ 課長 ○○○○● □□□□□ ◇◇◇◇◇ 係長 ○○○○○●● □□□□□□■ ◇◇◇◇◇◇◆ ヒラ○○●○○○●●● □□□□□□□■■ ◇◇◇◇◇◇◆◆◆ │← ○ →|← □ →|← ◇ →| 異 動 範 囲 ☆ 政治任用職 ○□◇ 他の職種(事務官・技官など) ●■◆ 司書もどき(いわゆる「図書館員」。その職をたまたま発令された主に事務官)
上記のような,省庁のハイアラーキーがあるとする(って今もあるか(^-^;)アセアセ)。こんな世界では,図書館員としてイチバン格が高いのはA省の課長クラスの人,ということになる。それに採用や異動が省庁単位でしかないとすれば(って今,現にそうか (・∀・) ),図書館員だったらどんなに立派な人でも課長や係長以上にはならないし,他の職種にいかねば異動すらできかねん,ということになる。だから異動があるとすれば,図書館員とかなんとか言ってられない。ただの事務官としてぐるぐるまわることになる(って,結局,現状の記述になってしまった…)。
職階法の最初期に一瞬だけ
ところがいまだ効力が停止されたままの職階法。この職階法のもとでは,戦前のほんたうに偉い「司書官」よろしく,司書職というのは独立した職種「司書」と位置づけられていたのだ。
そして,去年までの国会図書舘のように,館長が大臣待遇である図書館があれば(まあ,現にあったのだが… いまはもうないけど),以下のようになる。
(図2)職階法の理念型 A省 B省 国会図書舘 大臣 ☆ ☆ ★ 局長 □□□ □□□ □■■ 課長 □□□□■ □□▽△□ □▽■■■ 係長 □□▽△□■■ □□□▽▽△■ □▽■■■■■ ヒラ□□■▽△□■■■ □□□▽▽▽△■■ □▽△■■■■■■ │← ← ← ▽△□■ → → →| 異 動 範 囲 ☆ 政治任用職 ★ 特殊な政治任用職(議会が指名) ▽△□ 他の職種約300種(一般事務職,邦文タイピスト,庁内電話交換手,自動車運転手など) ■ 職階としての職種「司書」
職階制がほんとうに敷かれれば,■の部分の職位は省を超えて異動する。そうなれば,おなじ司書がA省のヒラをふりだしに,当人の才覚と運次第で,B省の係長司書,A省の課長司書,国会図書舘の局長司書といったようにキャリア形成することが(可能性として)できるのだ。
つまり,司書が司書のまま位(くらい)を上げて偉くなることができるというわけ。もちろん,そのようにして偉くなった課長や局長であれば,
司書としてのスキルは言うにおよばず,ラインとしての素質もある人
ということになる。
じっさいに…
岡田温(おかだ・ならう)が文部省の帝国図書館長(課長クラス?)から国会図書舘の整理局長になったのは(これは制度としてではないが)まさしく司書が司書のまま栄達したと解釈できるのだ。
岡田温が持論を枉げてまで国会図書舘に転職したのは,おそらく彼の脳裏に,いまわちきがここに書いたピラミッドがあったのだと思うぞ。そして司書のキャリアアップの先達とならんとしたのだろう。そしてまた,そんなふうに考えられる岡田は,
適度な保守性と組織人的資質を身につけた,ラインとしてふさわしい希有な司書
だったのだろうとも(ホント,図書館界には組織オンチのスタッフばかりだから)。
ちなみに持論というのは,国会附属図書館に国立図書館が吸収されることへの反対ね。産経新聞が,司書業務は国会附属図書館にとって「副業」だと書いて諸氏の反発をまねいているけど,法制的にはそうなのだし,岡田には
国会図書舘では司書業務が「副業」扱いされることは50年以上まえにお見通し
だったのじゃ(^-^*)。
そんな岡田が国会へ転職したのは,むかしわちきは「高給に目がくらんだから」と思っていたが,いまになってみればそれだけじゃないことがわかる。岡田は専門職種としての司書全体の底上げを期待していたのではないか(本人は金森徳次郎の説得にまけたぐらいのことを言っていた気もするが…)。
はずれた国会図書舘
もちろん,ラインとしての才覚がなければヒラのままなわけだけど,それでもA省でマンネリ化すればB省のヒラ司書に異動できようし,B省で同僚とケンカになれば,C省のヒラ司書に異動もできる。ある人が司書のままでも人事の停滞はおこらない。
大佐三四五は,当初,上記のように想定されていた職階から国会図書舘がはずれることによって,局長や課長にあたるような上級の司書の職級が「職級明細書」から無くなったことを残念がっているのだ。
国会図書舘が(って正確には国会職員が)一般の国家公務員でなくなったのは,あまり理由のあることではない(とどこかで読んだ)。実際,「国家公務員(特別職)」ってのは自衛隊員も同じ。兵隊さんと国会職員じゃサカサだよね。たしかその本では,「(特別職)」ってのは,「その他」の意味でしかないといってたね。
そして職階法は死文化し
職階法はあっというまに死文化(このあたりの事情は最近でた岩波の本に書いてあるみたい)
昨年までは…
(図3)去年まで A省 B省 国会図書舘 大臣 ☆ ☆ ★ 局長 ○○○ □□□ ◇◆◆ 課長 ○○○○● □□□□□ ◇◇◆◆◆ 係長 ○○○○○●● □□□□□□■ ◇◇◆◆◆◆◆ ヒラ○○●○○○●●● □□□□□□□■■ ◇◇◇◆◆◆◆◆◆ │← ○ →|← □ →|← ◇ →| 異 動 範 囲 ☆ 政治任用職 ★ 特殊な政治任用職(議会が指名) ○□◇ 他の職種(事務官・技官など) ●■◆ 司書もどき(いわゆる「図書館員」。その職をたまたま発令された主に事務官)
さらに産経新聞によって…
(図4)2階級降格事件の後 A省 B省 国会図書舘 大臣 ☆ ☆ 局長 ○○○ □□□ ◆ 課長 ○○○○● □□□□□ ◇◇◆◆◆ 係長 ○○○○○●● □□□□□□■ ◇◇◇◆◆◆◆◆◆ ヒラ○○●○○○●●● □□□□□□□■■◇◇◇◇◆◆◆◆◆◆◆
と,まあこうゆーワケなんだろうなぁ。
図書館史的には,今回の産経記事よりも,去年の記事のほうが重要だということがわかる。
★が衆参事務総長の天下りになる原因となった国会図書舘乱脈事件(昭33)の時に,間宮不二雄はざまーみろって(あくまで要旨ですよ)言ったけど,それはやっぱり日本の官僚制を甘くみる考えなのだ。
国会図書舘長が降格されたということは,日本国全体の図書館員が降格されたということ
になるのだ。あーあ。くどいけど言う。二階級降格事件のほうがよっぽど大事件。
でも,わちきみたいに古書趣味してると,なぜだか長期的な変動を説明しやすくなるねぇ。古書さまさまじゃ\(^▽^)/ワーイ
しかし
役人に知り合いがいれば誰でもわかるようなイロハを,司書課程じゃ教えないねぇ。これは図書館学の主流が米国由来だからだね。間宮不二雄だってバリバリの米国仕込みだから。けどここは日本なんだよねぇ…
わちきもこれでも昔は横文字の図書館学文献をひっくり返してたこともあったけど,なんかバカバカしくなってねぇ。図書館情報学が図書館実務に影響しづらいのも,そのせいで不思議な図書館言説が叢生しちゃうのも,学者が日本的文脈に疎いからだと思うよ。
予告
「まぼろしの図書館省2」は,「あったかもしれない図書館省」ね。
参考文献
『図書館学の展開』大佐三四五著 丸善 昭29
『図書館ハンドブック 初版』日本図書館協会 昭27 「職階制」の項(p.210-)
『大学図書館の業務分析』日本図書館協会 1968 付録「職種の定義および職級明細書〔司書〕(人事院公示)昭和26年2月28日公示(p.129-)
重大な訂正
「ところが数年前,ほんたうにひっそりひそひそと廃止された職階法」
まだ廃止になってないみたい… 記憶違い… ボケたねこりゃアヒャ