書物蔵

古本オモシロガリズム

 学者の図書館談義(その2)東京百事便

さらに井上氏の国会での体験話がつづくんだけど,なんだか誉めてるのかけなしてるのかよくわからない。まー,けなしてるとみるのが正しいんでしょうけど(笑)。ずっとまえとりあげた荒俣センセ「ブックライフ〜」や戦前の「書斎と読書」でもあったけど,なにかっつーと出てきて,さらに文句を言われる図書館って……。まー,わちきも利用したことあるけど… 非道かったですねぇ,その時は。

疑惑のエピソード

その体験談のなかに紛失本の話がでてくる。明治時代の本なのだそうな。閲覧請求したら「その資料はもうない」と言われたのに,丸善がだした国会の明治期マイクロに収蔵されてたのがわかって不信感がつのったというもの。出納員が棚のうしろへ落としてしまってたんじゃないか,と憶測してますな。たしかによくあることですねー。
でもこの話,10年前にも読んだこと思い出したよ。もしかして,これ?
井上章一国会図書館でのつらい日々(わたしの読書日記)」『オール読み物』1993年12月 p.340-341
うーん。ルサンチマンにみちみちた文章だす(^-^;)
住んでいる京都には自分に役に立つ資料はあつまらないんで

けっきょく,東京の図書館へいくはめになる。都立中央,大宅文庫,そして国会図書館など。とくに,国会図書館へはよくかよう。
古書店も,事情はいっしょ。京都大阪の古本屋では,どうしてもカバーしきれない。神田や早稲田あたりの古書街とくらべると,質,量ともに負けてしまう。東京にはとうていかなわない。(中略)
東京の研究者は楽でいいなーと,ハンデを痛感させられたものである。「文献だけはていねいに読んでるね」と,彼らに言われたりすると,ほんとうに腹がたつ。

このあと国会の閲覧が面倒で時間がかかると述べられ,「それでもしょうがない。とにかく,日本中でここにしかおいていないだろう本が,けっこうある」

だが,いるのだ。そんな国会図書館へ,たとえば川端康成全集なんかを読みにきている女子大生なんかが。
そんな本,どこにでもあるだろう。わざわざ,こんなところまで,読みにくるな。お前らのおかげで,閲覧の時間まちが,長びいているんだぞ。他府県からここまでやてきている者の身にも,なってくれ。

「もちろん,その場で,そんなふうにからんだりはしない」とつづけれるけど,むむー,すごい文章だす。

とうきょう ひゃくじべん

そんで話は『東京百事便』に。これって,「とうきょう ひゃくじべん」って読むみたい。もしかしたら,「とうけい ひゃくじべん」かも。
東京百事便 / 三三文房. -- 三三文房, 1890
本の中身は,東京全体の実用ガイド。軍艦のリストまで*1のってるよ。
とにかく1980年代のはじめ頃,それを請求したら職員に「なくなっています。紛失したんでしょう」と「自信満々に」言われたそうな。

わざわざ,京都からきたのに……とは,もう思わない。(中略)いつものことだ。あきらめよう。

そのあと,丸善の明治期マイクロの集成に収められていたのをみつけ,おどろいたという。

たぶん,きちんとさがせば,けっこうでてくるのだろう。(中略)いまいましい話だ。これからは,窓口でなくなったといわれても,すなおには信じられなくなる。

でもこの本。やっぱりずいぶん前からなくなっていたんではないかな(きっと昭和50年代から)。なんとなくそう思う。なぜって,しばらくまえ「古書目録は分析書誌学だ! 国会のダブリから(2/10)」の項で書いたけど,あそこの図書館って蔵書系統がいろいろ*2だから,マイクロに収められたのはもしかして複本じゃないかなー,なんて。
この本,いまではリプリント版がでてるね。きっと井上センセのこんなルサンチマンが復刻出版社をはしらせたのでしょーね。東京が東亰(とうけい)になってるところに注意。
東亰百事便 / 永井良知編 ; 第1編 - 第4編. -- 復刻. -- フジミ書房, 1999
ただ,このリプリント,みょうに分冊になっているねぇ。もとはちょっとだけ厚めなだけなのに。それに,このフジミ書房さんって,すごく有名でナイ(^-^)。
市立圖書館と其事業 ; 合本1 - 合本6. -- 復刻. -- フジミ書房, 2003
こんな意外な図書館本もだしてるけどね。なぜだか国会のOPACには出てこないし……。これ,どうやって買えばいいんだと思う? わちきはなぜだか持ってたりもするけど…(^-^*)

(この項つづく)

*1:本文には,軍艦はかならず「品川湾」にいるわけではないけれど,便利だから載せるとある。品川湾ってーのは,おそらく今の東京湾のことだね。軍艦の絶対数がすくなかったってこともあるだろーけど,おそらく社会的存在として大きかったんだと思うよ。明治初期,まだ少なかった近代人が数百人もあつまった建造物なんだから。

*2:歴史のある大きい図書館はいろんな蔵書群があるのがふつう