書物蔵

古本オモシロガリズム

これも一種の出版史本:造化機論といふジャンルを知り、日本SF創作の嚆矢を思ふ

いやサ、造化機論についちゃあ、名のみ聞けど、その中身についてはあまり知らなんだ。
周辺的ポルノとして消費されちまった明治の性科学、その嚆矢たる

  • 造化機論 / ゼームスアストン原撰 ; 千葉繁譯述. -- 乾 ; 坤. -- 神奈川 : 薔薇樓 , 1875.11. -- 2冊 : 挿図 ; 23cm. -- 和装 ; 見返しの責任表示: 善亞頓原撰. -- (BB02547541) ; http://ci.nii.ac.jp/ncid/BB02547541

とか

  • ゼームス・アストン 著 ; 千葉繁 訳. 通俗造化機論. 稲田佐兵衛, 明9. 100p

とかの訳者、千葉, 繁 || チバ, シゲル のプロフィールを赤川学先生がおっかける、てふこのほんを読み終えた(σ・∀・)σ

これを買ったのは次の書評を読んだから。

日記もなければ、写真もない。だから様々な工夫と手間が必要になった。残された数少ない手がかりを蒐集(しゅうしゅう)し、一つ一つを徹底的に洗いだし、赤川は千葉の事績を追いかける。その方法と経過が、極上のミステリーの如(ごと)くに、実にスリリングで興味深い。史料学・文献学・古文書学など、学問の区分を易々(やすやす)と越える、みごとな腕の冴(さ)えである。
朝日新聞書評 時代と格闘した人を再発見 [評者]本郷和人(東京大学教授・日本中世史)
book.asahi.com/reviews/reviewer/2014110900008.html

わちきも出たばかりのとき、東京堂の軍艦台でパラリと見て、ちとオモシロげ、と思ふたんだケド、まっ、いーかと打ち捨ててをったのぢゃが、上記の書評を読みテ、もすかすると、資料論に使えるかもしれんとて、購入したら、おもしろく一気に読了したてふワケ(。・_・。)ノ
江戸期に本を出した人々は、和学なり漢学なりの前近代の枠組みで、調べることができたりもする。明治20年代以降の人々は、紳士録など近代の枠組みで調べることができたりする。ところが、この千葉繁のやうに、意外と明治初期に活躍した人がわからかんのよ(σ・∀・)σ
それを、歴史社会学者の赤川先生、知り合いの歴史学者におそはりながら、調べる過程を本で書いていて、そこがオモシロなんだわさ。
千葉繁のバヤイ、一身にして二世をふるっちゅーか、前半生が前近代の人なんで、分限帳とか(これは藩の職員録みたいなもの)をひっくりかえしたり、たいへん(@_@;)
でも、藩の史料を「めくり」で調べたりして(根性引きと同義)手がかりを得たりとか。
ちと危ういな、と思ふたところは、一か所かな。実は本当の訳者はほかにいるといふ、早矢仕ゆうてきの記述。2ページであっさりとしりぞけちゃってるけど、これはもうちっと、その人がホンタウの訳者だったらてふ方向から調べをしてもよかったかも。
事実考証は探偵の証拠調べときはめて似ている(てか、ほとんど同じ)だからね。

出版史の側面も

造化機論は、出版社ののちの宣伝によれば、この本、数百万部も出たさうなのぢゃが(えっと、これは朝日だったか読売だったかの広告ね。さすがにふかしすぎか)、かやうな「大売れ本」(戦前、「ベストセラー」なる概念はなかった)となったさうな。
千葉は、かの福沢ゆきちのマネをしてか(これは赤川先生指摘してなかったやうな。著作権のまへの版権は著者になかった)、版権を自分が出版人になることで持ってたから、けっこう儲かったのではでは。
通俗版を出した稲田佐兵衛は知らんなぁとて、架蔵せる「出版文化人名事典」を見るに、稲田政吉の項目に「江戸時代から続く玉山堂山城屋佐兵衛」とあって、ほほう、この事典、本文もちゃんと読めば読むほど味がでるの、と思ふたことぢゃった。

原著者、James Ashtonも、訳者とおなじ「半有名人」Σ(゚◇゚;)

先生は原著者は不明としてをったので、なればとてわちきも調べたが、すぐにはわからん人だとわかった。原著のタイトルページに、医学博士だよとあるけれど、Saurなどの「半有名人」DBを参照しても、その先に進めんのぢゃ。
猫猫先生がアマゾンのレビューに、

。元来生没年すら分からなかったのを、友人の助言を得つつ解明していく。こういう「半有名人」の調査というのは今後ますます必要になるだろう。人物調査の手順も分かる。ただ千葉繁は官員だった時期があったので端緒がつかめたが、それがないといろいろ苦しい。

と書いとるが、原著者アシュトンも、医者で、どうやら最初の版(おそらく1859年ごろ)は私家版として出版されており、文筆家ではないので、その後の消息が書誌DB系からはうまくつかめない人である。

出版史つながり→日本SFの創始者のオトモダチが期せずして

ところでこの本の末尾に、主要な造化機論のリストがある。これは嚆矢たる千葉繁のものが、マジメなもので、なおかつ、著者が医者系統であるのに対して、売れるからとて陸続と出た造化機論の著者を見るに、いはゆる今でいふライター系の著作家が参入して書いてをる、といふ指摘をするためのものなのぢゃが。
そのなかの一人に、ん?(・ω・。) これはなつかしと思ふた人が一人をる。

  • 色情哲学 : 奇思妙構 / 甲田良造(華城散士)著. -- 東京 : 金港堂 , 1887.6. -- 7,177p ; 19cm. -- 記述は印刷再版(1891.8)による. -- (BA83711790) ; http://ci.nii.ac.jp/ncid/BA83711790

これを書いた甲田良造。この人、もう一冊、

  • 立憲政体論 : 君民同治 / 甲田良造 著 貫名駿一 1882

といふ本を読んどるんだが、オタどんやSF者なら、この書誌情報見てすぐピキーンとくるよね(σ・∀・)σ
にゃんと、貫名駿一のオトモダチぢゃああーりませんか( ^∀^)
ん?(・ω・。) 貫名駿一なんて知らんってか(σ・∀・)σ
わちきもさうぢゃった…(*゜-゜)
なれど、実は

この日本国で、天地開闢以来、はじめてSFを創作した人

といったら、おどろくかしら(σ^〜^)

日本で最初にSFを書いたひとは大阪府会議員
http://d.hatena.ne.jp/shomotsubugyo/20130524/p14