書物蔵

古本オモシロガリズム

「あなたは小利口な人です。」

朝日新聞(別冊週末be)2009年06月13日朝刊b10に載ったこんな記事を見たことが忘れられない。

(悩みのるつぼ)教え子の女生徒が恋しいんです
 ○相談者 男性高校教師 40代
 40代の高校教諭(略)。自分で言うのも何ですが、学校内で評価され(略)妻と子ども2人にも恵まれ(略)。 でも、5年に1度くらい、自分でもコントロールできなくなるほど没入してしまう女子生徒が出現するんです。 今がそうなんです。相手は17歳の高校2年生で(云々)。
 教育者としてダメだと思いますが、情動を抑えられません。どうしたらいいのでしょうか。

これに答えた作家・車谷長吉の答えが忘れられない。とくに最後の一言が。

◆回答者 作家・車谷長吉 恐れずに、仕事も家庭も失ってみたら
 私は学校を出ると(略)。が、この会社は安月給だったので、どんなに切り詰めても、1日2食しか飯が喰(く)えなかった。(略) 北海道・東北への出張を命じられると、旅費の半分は親から送ってもらえと言われ(略)。
 次に勤めたのは総会屋の会社だった。金を大企業から脅し取るのである。高給だったが、2年半で辞めた。30代の8年間は月給2万円で、料理場の下働きをしていた。この間に人の嫁はんに次々に誘われ、姦通(かんつう)事件を3遍起こし、人生とは何か、金とは何か、ということがよくよく分かった。
(略) 世の多くの人は、自分の生はこの世に誕生した時に始まった、と考えていますが、実はそうではありません。生が破綻(はたん)した時に、はじめて人生が始まるのです。従って破綻なく一生を終える人は、せっかく人間に生まれてきながら、人生の本当の味わいを知らずに終わってしまいます。気の毒なことです。
 あなたは自分の生が破綻することを恐れていらっしゃるのです。破綻して、職業も名誉も家庭も失った時、はじめて人間とは何かということが見えるのです。あなたは高校の教師だそうですが、好きになった女生徒と出来てしまえば、それでよいのです。そうすると、はじめて人間の生とは何かということが見え、この世の本当の姿が見えるのです。
(略) 私はいま作家としてこの世を生きていますが、人間とは何か、ということが少し分かり掛けたのは、31歳で無一物になった時です。
 世の人はみな私のことを阿呆(あほう)だとあざ笑いました。でも、阿呆ほど気の楽なことはなく、人間とは何か、ということもよく見えるようになりました。
 阿呆になることが一番よいのです。あなたは小利口な人です。

いいなぁ。。。
「あなたは小利口な人です。」
と、いまほかの記事もみたら、車谷さんが1971年から2年半だけつとめていたのは総会屋雑誌だったとのこと。新左翼系の言説内容だったとも。どこだろ?