書物蔵

古本オモシロガリズム

ヒュパティアの最期:「Agora(邦題アレクサンドリア)」の主人公

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Agora

洋画で「Agora(邦題アレクサンドリア)」(2009)というものが上映されている。
主人公はハイペイシャ(ヒュパティア)という女学者なんだけれど、classical antiquity(西洋古代世界)が大好きな友人に前から、

牡蠣の貝殻で体をこそげ取られて惨殺されちゃうんですヨッ!;`・ω・´)o

っと、サンザ聞かされていた歴史上、ほんとうにいた人物である。
後期ローマ帝国の人名事典といえば、Jonesの三巻本あたりが定番なんだろーけど(あるいは、旧パウリか?)、どっちも持っとらん(アタリマエ)ので、さっそくウィキペを引いてみる。
すると、ヒュパティアの項目があるが、日本語版の構成がなんとも貧相(´・ω・`)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%A5%E3%83%91%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%A2
史料と解釈と事実と評価がぜんぜん分かれていない。
しょうがないので英語版を見てみると、どーやら、ヒュパティアについての史料は、同時代のソクラテス・スコラスティスクスと、ニキウーのヨハネスの記述が典拠となるらしい。
って、こんなところでニキウーのヨハネスに会うとは!
http://en.wikipedia.org/wiki/John_of_Niki%C3%BB
むかーし、7世紀のキリスト単意説について調べた時に、上記英語版ウィキペにもあるように7世紀の記述についての重要な史料であるので、使ったことがあるよ。もとはギリシャ語で書かれたんだけど、いま残っているのはそのアラビア語版をエチオピア語に訳したもの。もちろん、みんなこの文献を読むためだけにエチオピア語を読むわけにいかないから、仏語訳か英語訳を参照することになってっけど。

歴史上のヒュパティアの最期(英文ウィキペから翻訳)

ちなみにウィキペによると父親のテオンはアレクサンドリア図書館の館長らしい。そーゆー意味ぢゃあ映画は図書館映画なのかな。
映画における主人公の結末はともかく、ヰキペの史料を訳してみた。

ソクラテス・スコラスティスクス(5世紀)の記述
 ヒュパティアですら当時しょうけつをきわめた政治的嫉妬の犠牲となった。というのも彼女は〔エジプト州長官〕オレステスと何度も意見を交換してきていたが、このことはキリスト教徒の民衆に中傷的に広められていたので、彼女こそ、オレステスが司教に同調しない元凶であるとされてしまった。それゆえ、キリスト教徒の一部は偏狭ですさまじい熱狂につきうごかされ――その首謀者はペテロというリーダーだったが――、彼女の帰りを待ち伏せして乗り物から引きずり出した。そして、カエサレウムという教会まで彼女をつれてくると、そこで彼女をすっかり裸にし、タイルや牡蠣殻で肉をこそげとって殺してしまったのである。体をすっかりばらばらにすると、めちゃめちゃになった骨をキナロンという場所にもって行き、焼いた。

ニキウーのヨハネス (7世紀) の記述
さて、その当時アレクサンドリアには女の学者がいた。異教徒でヒュパティアという名前だったが、彼女はその生涯を魔術と天文、楽器に費やし、そしてサタンの策略を通じて多くの者たちを騙していた〜そこで指導者ペテロに率いられた一団の熱心党が決起し、この異教徒の女、市民や長官をその魅力で騙してきた女を捜して行進した。彼等はこの女の居場所をつかむや、そこへ殺到した。そしてこの女を見つけると、カエサレウムという名の大きな教会まで引きずっていった。これらが起きたのは断食月の頃のことだ。彼等はこの女の服をはぎ、死ぬまで街の通りを引きずり回した。そしてキナロンという場所までくると、火でこの女の体を焼いたのだった。

熱狂した民衆と宗教指導者が結託すると、ろくなことないんだよなー(*゜-゜)
熱心党はだいっきらいなのぢゃo(`ω´*)o