書物蔵

古本オモシロガリズム

「出版警察報」について、最近に起きたいくつかの重要なことと、思ふこと

これは今まで官本エロエロ草紙(国による発禁本ホットパート集)と思われていたが、実は、政治社会重要記事部分の保存箱であり、一般出版史の史料集でもあるということが近年、明らかにされつつある。

  1. 国立公文書館にデジタル本文が出現した
  2. ネット上に総目次が出現した
  3. 皓星社雑誌記事索引に総目次データが投入された
  4. 国会図書館のデジタル本文が出現した

補足すると、1はすでに何年か前からそのような状態だったらしいが、いかんせんこれは「雑誌」の一種なので「記事索引」(目次情報でも可)がなければ使えなかった。雑誌を使うには必須の索引・目次は今までも冊子復刻版の付録の形で存在していたが、これはただの一覧表で「引く」機能がなかったのでいまいち使えんかった。むしろこの付録は戦前期検閲制度についての概説書的なものとして役割を果たしてきた。
その総目次は篤志水沢不二夫氏により入力せられ自信のホムペで公開されたがいまひとつ知られていない。この総目次は
かきかけ

分析書誌的分析キボーン

いままではこの雑誌に載っとる発禁書誌情報と、左翼本*1のホットパート(?)しか研究に利用されとらんかった。1928年から1944年(推定)まで、16年間も刊行された書物雑誌って、じつは結構ないんよ。ほかにゃあ斎藤昌三の書物展望か、それこそ今年1000号を迎へんとする日本古書通信ぐらい(σ^〜^)
んで、言いたいことは、

この書物雑誌そのものに対する分析書誌的な分析がない

ということ(。・_・。)ノ
たとえばサ。
この雑誌、奥付がないんだけど(だって奥付を強制する張本人たる内務省図書課が発行主体だから)、いま参照しえる数冊を見ると、じつは初期の号には裏表紙(表4とも言ふ)の隅にちっちゃく印刷所が明記されているんだわさ。

昭7.6 45号 民友社印刷所印行

昭7.7 46号 杉田屋刷印〔ママ〕所印行

これが何を意味するかは、もちろんこれからの研究者の課題であろうがの。
またさらに。
たとへば上記の45号と46号の表紙には右上に[秘]と印刷されとるだけでなく右下に、「第 56 号」と、数字がペン書きで書き込まれてあり(第、号は印刷)、さらに46号には「大蔵省」とペン書きがある。

容易に立てられる仮説

これから何が言えるかは、もちろんこれから、ということなのだろうが、容易に推論できることとして、

  • ナンバリングでなく手書きできる程度の部数しか発行部数がなかった

ことがわかるよね。おそらく数百部というところだろう。それ以下なら大正期の「出版警察概要」のように、ガリ版で済ませられちゃうからね。城市郎『発禁本』三部作に載っていたこの写真では、「知事」といった宛先があったから、各県には等しく配られていたはずで、2ちゃん、じゃなかたウィキペによれば内地は「終戦時、1都(東京都)2庁(北海道庁樺太庁)2府(京都府大阪府)43県」といふから、48個、さらに植民地
などにも送るとして(あっ、もすかすて朝鮮や台湾に欠号が残ってるかも(゚∀゚ ) でもさすがに「独立国」たる満洲には送ってないかしら。)、48+4で52、さらに各都庁府県には知事分のほかに警察部、検事局は(実務上)絶対必要だから、かける3で、52*3=156。「大蔵省」とある上記の事例から中央省庁の官房あてに1部確保するとして、20冊ぐらいかな。図書課に数十名いる属官にも配布するとして60冊ぐらいかしら。図書課以外にも内務省の中にも配る必要があるね。とりあえず30冊ぐらい???
156+20+60+30=266冊
んで、この雑誌、納本は1冊もしないとして*2、印刷時、製本時に損もうする分が10冊ぐらいあるのかしらん?*3
まあ、300部は刷られていたとみていいのではないかしら。

仮説の検証法

出版警察報 / 内務省警保局<シュッパン ケイサツホウ>. -- (AN00356265)
1号 (昭3.10)-149号 (昭19.3). -- 東京 : 内務省警保局
注記: 出版者変更:内務省警保局→警保局図書課→内務省警保局検閲課・情報局第四部第一課→内務省警保局検閲課・情報局第二部検閲課
著者標目: 内務省警保局<ナイムショウ ケイホキョク>
所蔵図書館 11
宮城県図 14,23<1929-1930>
京大人文研 本館 1-2,4,6-7<1928-1929>
熊大 図書館 2-5,8-21,23-24,26-42,64-66<1928-1934>
首都大 64-75<1934-1934>
東大学環 図書 1-30,33-35,38,41,43-49,52-76,85,91-97,99-109,112-115,118 -121,124-125,129-130,136,139-140,146<1928-1943>
東大法 図書 23-63,65-72,74-78<1930-1935>
同大 社会 39<1931-1931>
同大 人研 1-21,25-31,57,59,61-63,65-68,72-73,79-80,85-86,97-98,101-103 ,107-109,132-135,137-138,141-144,148-149<1928-1944>
奈女大 146<1943-1943>
日文研 1-5,13-19,21,23-24<1928-1930>
北大 図 2,5-8,19,24-32,35,39,41-42,44-52,58,60,63,87-110,113-115<1928- 1938>

そしてこの仮説を検証するには、城市郎文庫を始め、現在日本各地に残っている「出版警察報」の現物を片っ端から見て、その表紙に「第 号」と書いてあるか確かめればよい。わちきの予想では、200番代までしか出てこん、とゆーことになるが、もし、もっと出てきたら仮説を訂正するっちゅーことになる。
つまり、上記の配布先以外も想定しなけりゃなんね、ちゅーことであるのでありまする。
なんとマァ、表紙の数字だけで、こんなにも楽しい推理ができちまふといふオモシロ出版史(゚∀゚ )アヒャ

*1:右翼本、ちゅーか右翼新聞の記事抜粋を利用したのが佐藤卓己先生ぢゃ。

*2:法的には、2部、内務省図書課へ納本する義務がある、って、昔の日本では、かういった場合、テキトーだからなぁ。。。

*3:こういった場合は、ホントは『売れていく本の話』を参照すべきなのぢゃ。