書物蔵

古本オモシロガリズム

読売の調査結果だと紛失率は0.4パーセントになるけど…

にゃんだかまたぞろ図書館での本の盗難の話が盛り上がっているやう(=゚ω゚=)
とくに読売の調査。
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://www.yomiuri.co.jp/national/culture/news/20081109-OYT1T00123.htm
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://www.sanin-chuo.co.jp/news/modules/news/article.php?storyid=507780006
なんでもかでも、図書館史にしちまうわちきなれば、これも図書館史にしちまいませう( ^ - ^ )
マスコミはどーしても「騒ぎ屋」として動いちまうからね(-∀-;)
あたかもよし、図書館史に使える紛失率一覧表がゲットできた(゚∀゚ )アヒャ
・『公共図書館の論点整理』田村俊作;小川俊彦編著 勁草書房 2008
それをここに書く朝鮮。じゃなかった拡張せん。

紛失率表

わいわいo(^-^)o

各種報告 調査年 市立 県立 公共 典拠
-1) 柿沼報告 1931 - - 2.4% 井上[1937]
0) 沓掛報告 193? 7% - - 沓掛[1954]
1) 石井報告 1952 1.35% 0.58% 1.20% 日図協[1954]
2) 伊藤報告 1986 1.74% 0.62% - 伊藤[1987]
3) 歳森報告 1998 1.33% 調査せず - 歳森[2001]
4) 朝日新聞 2001 調査せず 0.08% - 朝日2002.7.28
6) 読売調査 2008 0.4 - - 読売2008.11.9
5) 英国調査 1991 - - 4.20% Burrows [1992]

※上記図書、「表6-2 全国的「紛失率」調査(平均値)」に書物蔵が図書の文中から0)を加え、上記6)をさらにたったいまの推計から加えた。5)と6)の順番は逆順にした。
でけた!ヽ(o`・∀・´)ノ.+

さすが、柿沼先生!:満鉄図書館の紛失率!

先頭の柿沼さんは柿沼介(かきぬま・かたし)さんだねぇ。青木実さんの業務上の先生だった…(*゜-゜) 数値はわりかし有名な満鉄図書館のもの。当時の経営実態からむりやり公共扱いにしちった(^-^;)
2つ目の沓掛さんは、これまた文化史家の沓掛伊左吉さんだね。じつは明治・大正期貸本屋研究はこの人ぐらいしかやっておらなんだ。ここの7%っちゅー数字は東京市駿河台図書館(よく考えたら、いまの千代田図書館の先祖であった)の開架部分の数字らしい。B開架紛失率だね(o^ー')b しかし、当時、東京市立の開架はみんな「安全開架」だったはずなのに7%もなくなるとは…(-∀-;) これじゃあ開架が廃止になるはずだわ(・o・;)
3人目の石井さんは、じつは昭和2、30年代に業界でとても有名だった石井富之助さん。石井?先生ではありません。伊藤さんは伊藤昭治先生。うーむ、一文の得にもならん日本図書館業界史が役に立つこともあるのだのぅ(*´д`)ノ

というわけで…

絶対数でいうと、年間28万冊!被害4億円!なわけであるが、年間紛失率でいうと10年以上まえの英国の、10分の1くらいということになる。これを…
「日本人の国民道徳は英国人のちょうど10倍優れとる!」というか、
「日本図書館の積極性・開放性は英国のまだまだ1/10しかない!」となげくか、それとも、
ぜんぜんちがうことを言うかは与論に委ねたいところですよ。

追記

表を眺めてたらオモシロいことに気づいた。それは…
・図書館業界内調査がみな、1パーセント台であること
・新聞社系調査が両方とも、一ケタ分業界内調査よりケタが(少ないほうに)ズレること
これはナニを意味しているのでせうか?(・∀・)

追記2014.2.8

また読売がおなじ騒ぎ方をしているんでブコメつけたけど、このエントリの中間が冗長に感じたので、その部分だけ切り取って以下に張り張りしてみたお(o・ω・o)

公表数値に欠けているもの:蔵書冊数

読売記事を見てまっさきに困ったのは「調査に回答した図書館の総・蔵書冊数が書いてない」とゆーこと。これが分からなければ、いくら「何冊なくなりますた! 何円なくなりますた!」と言われても、なにがなんだか分かりません。100冊のうち10冊なくなったのか? 1000冊のうち10冊なくなったのか?
こんなんじゃ、モラル論しかできません。モラル論にしちまうと、13000000冊中の1冊だろうが、そんなの嘆かわしいに決まっとる。「汝、盗むなかれ」と決まっとるでしょ。
ってか、上記図書を読む限り、図書館業界で盗難・紛失を測るときには次の3つぐらいしか値がないらしい。

A 紛失率    年間紛失冊数/蔵書冊数×100
B 開架紛失率 年間紛失冊数/開架冊数×100
C 貸出紛失率 年間紛失冊数/年間貸出冊数×100?

どうやらフツーはAの、タダの年間紛失率を使っているらしい。Bは開架が進んだ今では県立や大学、国立図書館とかじゃないとあんま意味ないかな。Cは伊藤昭治先生が1980年代に提唱したものらしいが、あまり普及していないよう…

調査対象館の蔵書冊数をむりやりに…

せうがないので、統計書『日本の図書館』2007年版を使ってヒネリ出してみる。
記事によれば次の館にアンケートしたとか。

道府県庁所在地
政令
東京都(いわゆる都下のことか)
23区
計570館

なんだかワケワカラン選定(・o・;) 「計74都市区」とあるから、にゃんか統計調査の定番単位なのかと思ってググったら、この記事しか出んかった… ますますホヘー(・o・;)
ただ、回答率は約93.2%だったらしい。
ともかく、この計570館の総・蔵書冊数に近似の値をひねりだしてみた。

政令指定都市 37009000 257館分
東京都 43738000 378館分(都立+23区+都下) - 都立3館分2418000
計632館 78 329 000」冊

なんか県都の図書館を入れてないのに570館をかなり上回る632館になっちまった… それに本当は40万人以上の市立図書館のデータも県庁所在地のかわりに足そうと思ってたんだけど… まぁいいや。読売が調べたという570館の同種・同規模の図書館蔵書のトータル概数が議論に必要なだけだから。
せうがないので、この段階で、570/632で、「78 329 000」冊をかけてみた。すると、
70 644 825.9冊。まぁ、そんなとこかな。7千64万冊ね。一応、回答率もかけておくか…
65 840 977.7冊

調査570館のうち、回答した約9割の総・蔵書冊数は、約6千584万冊と推定

ということでよろしいか。

年間紛失率ぢゃ!

で。
計284421冊が2007年度の1年間で「行方不明」(紛失のこと)となったそうな。
さっそく割り算じゃ。
(284 421 / 65 840 978) * 100 = 0.431981736
ホヘー(・o・;)
ケタまちがえちゃったかすら…(-∀-;)
年間紛失率が0.4%しかないよ… 4%だとカッコいいのに…*1(・∀・)
まぁ、出ちまったもんはしょーがないとして、例の論文の表に足し加えてみると…

*1:すわ、これでやうやく日本の貸出運動もイギリス並みに!と騒ごうとしちったですわいわい。上記表の英国1991年の値が4%。