書物蔵

古本オモシロガリズム

学者先生の公共図書館論

読了した学会論文集の感想。
『変革の時代の公共図書館:そのあり方と展望』日本図書館情報学会研究委員会編 勉誠出版 2008,10
あんま

公共図書館に関わる主要な論点を客観的に検討し(序文)

という感じではないねぇ。それぞれ、わりと主観をだしている感じ。まぁ論文集だからいいのか。

1 荻原幸子「〔巻頭総論〕「公の施設」と「社会教育機関」をめぐる変革の動向」
2 根本彰「社会的な変革の動向と公共図書館―日本の公共図書館学とポスト福祉国家型サービス論」
3 塩見昇「公立図書館の動向と日本図書館協会
4 糸賀雅児「図書館法2008年改正の背景と論点」
5 山口源次郎「さまざまな変革の事象と公共図書館 公立図書館への指定管理者制度の導入:その理 論的・現実的問題点」
6 山本順一「最近の訴訟に見る公共図書館とそのサービスについての法的考察」
7 吉田右子「住民による図書館支援の可能性:公共空間の創出に向けて」
8 齋藤泰則「公共図書館による情報アクセス保障の意義:J. ロールズの正義論の視点から」
ほかに、韓国、英国、米国、独逸の公共図書館政策を紹介する「コラム」と称する小論文

荻原さっちん論文は、うーん、『社会教育の終焉』のことがキチンと書いてあったのがめずらし。図書館学系の言説って、「社会教育」という概念にすがるわりには(って、「ゆえに」か)、その概念が破産を宣告されたことに触れないから。ただ、『終焉』は話題にはなったけど影響は少なかったとみなしているが、その根拠文献がないのはいかがか。
根本先生は、またもやオモシロである(別掲)。塩見先生は… まぁわちきと逆さの意見であることはいいとして、やはり協会の責任者が協会の正しさを個人的に*1弁護するという図式にムリがあるのでは。「市民の図書館」路線でカウンターに拠って貸出しをせよ、と言いたいのだろーなぁ、ということはなんとなくしかわからず。
イトガッチは… うーん、法制事務の報告っぽい。それはそれで従来の図書館言説に少ないものではあるが。
ゲンジロー先生は… 指定管理の現実的問題点なら『ず・ぼん』のほうがオモシロいなぁ。外部化がサービス低下になるというのは、ある意味あたりまえの指摘なんだけど、軽サービス(貸出だけ)軽コスト、という要望にどう切り返すか、新サービスモデルについて書いてないね。ま、貸出死守なんだろうけど。
順々先生は… あぁこれはやっぱり筆が… 論の骨子はいいのに、不要なレトリックが大杉。ってか、査読で指摘がなかったのかすら…。うーん、若手研究者が御大に意見するのはむりなのかすら… 学界ならぬ学会も「世間」?!
根本論文とそれでしったトンデモおもしろな事実(ドイツ公共図書館の有料化)については、また。

*1:「ここでは理事長としての発言ということからは少し距離をおいて」(p.39)とあるが、「少し(の)距離」とは、どのくらいなのか。ぜんぜん距離を置かないか、ぜんぜん関係ないか、のどっちかにしてほしいが。これでは批判も(誉めることも)できやしない。