書物蔵

古本オモシロガリズム

特集「図書館法改正をめぐって」をめぐって

今月号の図書館雑誌はわりとオモシロ
巻頭には「文部科学省生涯学習政策局社会教育課企画官」の(長い役職名だなぁ20文字もある)栗原祐司氏が書いておるけど、そも『図書館雑誌』に本物の官僚が名前入りで文章を寄せるなどというのは、異例というか何十年ぶりのことだろう。まぁ、そのことだけでもここ数十年の館界の純粋マッスグぶりがわかろうというものだが。
で、ほかにもいろいろあるんだけど、ここでは順順先生がこれまたオモシロな文章の感想を。
ってか、順順先生は今回改正にご不満。怒りにまかせて一気呵成に書いたものらしく、ちょっとわかりづらくなっているのは困るが。
不満の理由はちょっと抽象的なレベルと各論レベルとがあって抽象のほうではこういうことらしい。
今回改正は教育基本法改正(2006)を受けたものでしかないが(それは、そうでしょうが)、で、基本法改正は「(翼賛)体制の構築」を目指したものであるし(これはハテナ)、今回の改正も結局のところ、学校教育の失敗を糊塗するための社会教育の補完にすぎん、だから、やだ、と。
うーん、ただ学校教育の失敗は進歩派が支持していた「ゆとり教育」の失敗だったわけだから、社会教育が本来、「自由で伸びやか」であるべきにしても、学校教育を「自由で伸びやか」にして失敗した連帯責任を負わされるというのは、政治的には終始一貫しとるのだが。もちろん、「学校教育は謹厳実直たる一方で社会教育は自由でのびやかたるべし」という意見で前からあったのなら*1、今回怒ってもいいわけだが、自由派はのべつまくなしに自由が好きだから、先生が学校も自由で伸びやかたるべしと考えていた疑いが濃厚のような気が。

電磁的記録にネットワーク情報資源が入らんのは確かにナンセンスだけど…

図書館法改正の各論については、改正法にいう「電磁的記録」はパッケージ系だけしかはいとっらんから不十分、という。それは確かにそうだと思うけど、ネットワーク系を視野に入れたら同時に法17条(無料原則)も見直さないといけなくなりますけどよろしいか? 博物館法みたいに、

公立図書館は、入館料その他図書館資料の利用に対する対価を徴収してはならない。但し、電磁的記録の提供のため、やむを得ない事情のある場合は、必要な対価を徴収することができる。

とかなんとか。
おそらく17条をきちんと議論する政治状況が館界にないと文科省スジに見切られとるんよ。だからパ系はスルーされたとわちきは見ますが。だいたい1990年代の課金容認論争の元締め、糸賀先生が関係しとるんだから*2、パ系について気づかんなどということはありえないわけで。パ系がスルーされとるなら相応の理由を想定せねば。
1990年代の課金容認論争の唯一の遺産、従量制のネ系・電磁的記録は、やっぱりなんらかのコントロール(おそらく課金)をしなければ導入できないだろうということで。
ただモチロン、こういった反対意見が雑誌にのることはむしろ望ましいことで、それによって論点が明らかになったり、読み手が自分で考える補助線になったりするわけで。それにオモシロいし。
ほんとは改正に唯一反対した党派たる日本共産党の意見を代弁するような文章もあってよかったのではないかと考えるが、ちょっとオモシロくはなりそうにないかしら。それとも日共系の図書館員で筆のたつ人はもうおらんのかしら。

*1:わちきなどはこの立場。学校教育は読み書きそろばんだけをきっちり教えて、芸術教育は全廃すべきと思うよ。それに公共図書館を社会教育の中に位置づけるのは好きじゃない。文化施設だと思いたいから。

*2:これは『公共図書館の論点』で知った。