書物蔵

古本オモシロガリズム

ここがロドスだ。ここで跳べ!(2):千代田図書館の場合

なにやら「図書館の自由」論者が率先して言論弾圧をやっていると聞いたので、わざわざ買ってみた『ず・ぼん』13(2007)。
ところが買ったついでに*1、読んだ座談会が。
「座談会◎三社で指定管理者制度スタート/話題の千代田図書館に行ってみた」『ず・ぼん』13(2007)p.38-53
どうせ、「あれは違う」とかいわれて叩かれっぱなしでおわっとるんだろーなぁと、バカにして読んでいなかったのだが… 途中でいきなりむちゃくちゃオモシロくなってて(×o×)オドロキのあまり、ふいた(・∀・)

「○○だからできた」論

いや、最初は予想通りの話ではじまっとるんよ。

 一言でいうなら……「図書館とは別物」。(略)
小形 おもしろいところもあったけど、他の図書館に千代田のサービスが援用できるかというと疑問。「図書館界に新しい流れをつくれるほどのものではない」と思う。

思ってたとーり。この後、それでも個別にみれば、古書店との連携など地域との連携してるなどプラスの評価がでてきたところで、やっぱり、「○○だからできた」論がでてくるのだが…

斉藤 とはいえ、千代田の例は、あの地域特有の環境があってのことなんでしょうけどね。 
沢辺 もちろんね。だけど、一方、あそこでふつうの図書館人が図書館をつくってもあんな発想にはならないと思う。神保町という特殊な街が、千代田にあろうとなかろうと。

およよ(×o×) 展開がビミョーに変わってきた。
そしてこの座談会は、沢辺, 均 (1956-) ‖サワベ,キン(ポット出版社長)氏vs.手嶋孝典氏(1949生・町田市立図書館長)という図式でがぜんオモシロくなる。

千代田みたいなことは、旧来館もやってる!って…???

んで、本を売る場を設けることもあるとか図書館人がしゃべった後で。

沢辺 つまり千代田図書館が神田の古本屋と結んで販売協力までやっていることはたいしたことじゃないです、他の図書館でもすでにできていますっていうことだよね。それほんと? 意固地になってないかなぁ? なんで千代田の取り組みを編集委員のみんなは素直に評価しないのか、とすごく疑問だと僕は思っているんです。
さっき手嶋さんが言った指定管理にならなくとも千代田の新サービスはできる、というのも違うんじゃないかと思う。

図書館人が、やってるやってる、ってのをよく聞くと、イレギュラーだったりちんまりとしてたり、PR不足だったり、要するに、「同じことやってます。でもごにょごにょ(隠れて)」というもの。いや、べつにやってたかもしらんが、制度化されてなかったりPRしてなかったりじゃあ、「やってない」に等しいでしょ、と。
なぜそんな事例を千代田批判に出してくるのか、負け惜しみじゃないのか、と。
そんなことを沢辺さんは言いたいよう。
しかし、図書館ネタの座談で本当に議論がかわされるとゆーのは、とってもめずらしい(・o・;)

さらに

沢辺さんはまだ許してくれなくて…
図書館人が、書店のほうから仕掛けてくれれば乗るかも、と言ったのをうけて、

沢辺 どうして自分のほうから提案しないのよ。(略)
僕は図書館の目標は、「本をめぐる体験の世界を豊かにする」ことだと思っているんだけどさ、それは図書館だけで完結する話じゃないよね?(略)
だとすればね、図書館の側から(略)申し出るのもありじゃないですか。そういう努力をせずに、「千代田にはたまたま環境的な条件があった」とか言っちゃってるのはさ、やっぱりズルだよぉ。

ほへー(・o・;)

沢辺 それから、「神保町の古書店ネットワークをつくろう」という動きだって、結局は誰か裏で仕掛けているんでしょう。(略)しかしね、その話に図書館がちゃんと「乗りました」と。これこそが重要なんでしょう?

そうなのじゃ、「結局は誰か裏で仕掛けている」はずのであろうが、それに乗るというのもまた、ひとつの決断であ〜る。

書店(古書店)在庫を案内してはいけない?!(×o×)

また、書店との協力がらみで、
 蔵書が予約中で貸せないのなら書店の、ネット上在庫情報を案内してもいいかどうか
といいあったあとで、

手嶋 私が言いたいのはね、そこまで図書館がやるべきなのか?ということなんです。
沢辺 「やるべきなのか?」というのは疑問符で、手嶋さんは「やるべきではない」と思っているんでしょ?
手嶋 そうです。
沢辺 だったらそういうふうに言ったほうがいい、「やるべきじゃない」と。で、なぜやっちゃいけないの? 僕も図書館の利用者のひとりなんだけど、とっても不思議に思う。

沢辺さんは指定管理だから書店在庫案内もできたのでは(つまり直営ではできない・しないのでは)と問題提起している。わちきもとってもとっても疑問じゃ。けど、この話は、「ここで結論を出す必要はないんじゃないか」ということでチョん。
わちきが代わりに考えてみる。

直営だと書店在庫を案内できないなら、即刻ぜんぶ民営化すべし(わちき説)

もし、直営や公務員の場合に書店在庫を案内することが、直営や公務員だから<できない・しない・したくない>というのであれば、まさしく、「すべからく公共図書館は指定管理者に運営さすべき」ということになっちまいますよー。
もちろん、わちき自身は、公務員であろうとも、書店(古書店)在庫の案内はしてもいいと思うがの。
システム系内で対応できない場合にオプションを示すのが、そもそもヒトにしかできない「読者への援助(aids to readers)*2」だと思うがの。系の中の反応しかできないんであれば、ヒト要らない。これは複本を何冊用意するかってのとぜんぜんちがう話だと思うがの。

ハナシをもとにもどすと

で、この後はあばれた沢辺さん自身が話をもどして、千代田の悪いところ良いをまとめて、さいごに指定管理者制度一般のことを話している。
個別には賛成なとこもある(児童室の不備とか蔵書の貧弱とか新書マップとか)一方で、だから図書館人はだめなんだよ、と思うところもあり(コンシェルジェ批判のとことか、マスコミ批判とか)、まあいろいろ。他にも館内飲食政策について旧図書館人のズルイところなんかは1エントリなりたっちゃうけど、沢辺さんの暴れまくりはオモシロかった。コンシェルジェについては何回か書いた*3
沢辺さんの座談会をぶちこわしかねない暴れっぷりに、「ここがロドスだ。ひっくりかえったとしても、ここで跳ばずしてどーする?!」という気持ちを感じた。さすが、民間会社の社長はちがう。
じつはわちきも古書展のかえり千代田図書館に潜入したことがあり、行ってすぐ、

あっ、これは「図書館(貸出用小説置場)」じゃない。かといってビジネス支援とも、ちょっとちがう…
どっかでおんなじ気分になったが… あぁ、そうそう、六本木ライブラリーに潜入したときだよ

と思ったことですよ。なーんだ、書物蔵もやっぱり千代田は「図書館」じゃない派じゃん、ってか(^-^;)

附.ようよう、おめーは悪の図書館民営化論者なのかよぅ

と怒鳴り込まれそうな予感がするので、さきまわりして答えておく、ってか一度かいたけど。
図書館でちょっとしたもんを売ったり、(入札を工夫して)おいしい喫茶店に入ってもらったり、蔵書でまかなえないときに書店(古書店)在庫を案内したり、そーゆーことをしているんであれば、別に直営でかまわない。
日々、あたらしい図書館サービスのカイゼンに熱心で、業界誌も(批判的に)読み、歴史や文学はいうにおよばず、ビジネス書や通俗書なども(自分の時間に)読んでる職員がいるような、そんな図書館であれば、別に直営でかまわない。
法律の学理解釈を適用してサービスを低下させちまったり、お客さんの顔をみないで対応してむやみと怒らせちゃうような公務員さまのいないような図書館であれば、別に直営でかまわない。
「図書館の自由」を、利用者の自由でなく自分の自由ととりちがえちまうようなヒトがいないような図書館であれば、別に直営でかまわない。
純然たる本運び(フロアワークでなく)のようなものでも定員要求するのが当然とおもっちゃうような職員がいないような図書館なら、別に直営でかまわない。
庶務とかシステムと法律とか、図書館事業の手段として使うものを目的ととりちがえちゃうようなパーキンソンの法則そのままの職員がいないような図書館なら、別に直営でかまわない。
ほれみい、わちきは直営論者であることよ(・∀・)
あれまあ、いま気づいたら、まるで拙ブログは「図書館系ブログ」みたいじゃないの(×o×)

附2 Hic Rhodos, hic salta!のヴァージョン違いについて

標記の引用句については、Hic Rhodos, hic saltus! という最後のサルターレ(ジャンプする)の語尾が違うものがあって(名詞化している)、こっちのほうをヘーゲルとかが使っているそうな。
そういえば『ギリシャ・ローマ引用語辞典』には両方の形が立項されておったことですよ。たしかにhic saltusが、「ここに跳躍」と名詞として訳されている。

*1:図書館で読む・コピるだけなら、絶対まじめに読まんかった。やっぱ図書館本も図書館ですませず、書店で買う意義があるのですなぁ

*2:米国レファレンス・サービスの初期の呼び名

*3:■「図書館コンシエルジュ」と、「レファレンス・ライブラリアンhttp://d.hatena.ne.jp/shomotsubugyo/20070830/p1 ■「図書館コンシェルジュ」は悪?http://d.hatena.ne.jp/shomotsubugyo/20070714/p1