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古本オモシロガリズム

「図書館コンシェルジュ」は悪?

千代田図書館がはじめた「図書館コンシェルジュ」について、ちょっと考えてみた。とゆーのも。業界内の既存理論からいうと、この、図書館コンシェルジュってば悪なり( ≧∇≦)ニャハハ
というのも、資料に依拠しない回答までもしてしまうから(  ̄▽ ̄)
来館者の質問にお答えするサービスってのは、既存の理論体系では「レファレンス・サービス」とか呼ばれておるのだが、これって日本では資料で答えられることしか答えないとゆー、なになにしない、とゆー観念でとらえられてしまっている「サービス」なのだ(*´д`)ノ

森まゆみ永江氏の、本質的な提起

(コピーを見直したら、森さんの提起で永江氏の問い直し、という流れでした。訂正し、正しく引用します。)
んで、この前紹介した座談会で永江氏がこんなことを言っていた。

そこで、森さんが指摘されたレファレンスの質に関してですが、たとえば、「千代田区でおいしいお店はどこ?」と聞いたときに、市販のレストランガイドを広げられたら、ガッカリしますよね(笑い)。やはり、自分ではアクセスできないような情報が引き出されて初めて「さすがプロ」と思うわけです。(p.136-137)

これってば、既存の参考事務(レファレンス)の観念からいうと、とんでもな意見に聞こえてしまう。
・おいしいおいしくない、とゆー主観的な判断が背景にないと答えられない質問である。
・資料参照していない。
・マジメな調べ物(例えば市場調査)でなく、ちょっと聞いただけ。
でももちろん、永江氏の意見とゆーのは、あってあたりまえの意見なのだ。わちきに言わせれば、学問の分析概念にすぎんレファレンス・サービスの定義に、ひっぱられすぎているのだマジメな図書館員さま方は。

分析概念を行動規範にするのは

米国の閲覧係員ってば別に資料に依拠してだけ質問に答えているんではない。講学上の都合から、やってるサービスのある部分を後付けでreference serviceと呼んでいるにすぎんのだ。だからこそ、いまでは実態が肥大して、reference and information serviceとか、単にinformation serviceと呼ばれるようになっておる。
アメリカの分析概念を金科玉条にするこたーないのだ。だいたいアメリカ人がそんなことはしておらん。
おそらく、米国の図書館とゆーのは、まずもってなんでも聞いていい場所なハズなのだ。その一部分が、資料や専門家にreferするreference serviceなわけである。
だいたい、図書館で創るとかいう「information card」なるものに書かれている「事実」はまさしく、ほかのだれでもない、資料に依拠せず図書館員が認識した「事実」以外のなにものでもありますまい。
日本土着レファの創造神だった志智嘉九郎はまさしく、まずもってなんにでも答えますよ(古今東西森羅万象)、というスローガンを吹いてまわり、さらに、業界内部向けには、「いまは導入期なので、業務独占と重なるグレイゾーンもひろく扱うべき(要旨)」ということさえ言っていた。すごい。
定義にあわないからやらん、というのはノーリスクだけど、ノーリターンだし、結局のとこノータリンでしかない。

レファレンス・サービスの発展が頓挫している日本であってみれば

結局、志智嘉九郎亡き後、特に公共図書館においてレファレンス・サービスの発展が止まってしまうのは、もちろん貸出大躍進とそれを支える前川理論によるところもあるけど、米国の分析概念(レファとは、○○というもの)を行動規範的に捉えてしまったというところもあるとわちきは思うぞ。
米国のごとき情報サービスの発展に、見事に失敗した日本図書館界であってみれば、ちょっとあぶなげな「図書館コンシェルジュ」、こんな日本的ゲリラ戦(んな概念あるのか)を、なまあたたかく見守る視点があってよい。

ところで、千代田はどんなつもりでコンシェルジュ

断片的な記事と、座談会と、あとすこしブログにサービスを受けた人の感想があるぐらいで、いったいどんなつもりで千代田区行政がこのサービスを導入したのか知りたくなってきた。
そこで思いついたのが、議会会議録。気の利いた議員さんが質問してくれてればなにか記録があるだろうと。質問はなくても説明や説明資料になにかあるだろうと。
ありますた。

2007.03.02 : 平成19年保健福祉文教委員会 本文(http://kugikai.city.chiyoda.tokyo.jp/>議事録>図書館コンシェルジュで検索)
◯柳図書文化財課長 それでは、千代田区子ども読書活動推進計画(案)についてご説明いたします。(略)
1つは人の面で連携を強めていきたいということで、今度の新図書館では、実は図書館コンシェルジュという職種を設けて、積極的に読書のアドバイスをしたいと考えております。実は既に書店さんなどでは読書アドバイザーという制度がございます。それから、今、古書店さんで古書コンシェルジュというのをお考えになっているというのも聞きます。そういう意味で、同じような本のご案内をするという部分の共通性、人材の育成、こういったことを連携してやっていきたいということが1番でございます。(略)

で、実際に気の利いた議員先生がわちきの聞きたい「図書館コンシェルジュ」のことを聞いてくれとる(゚∀゚ )

◯竹田委員 ここにある、ちょっと別な話なんですけど、コンシェルジュの話ね。これは普通、コンシェルジュは案内係ですね。当然司書資格を持っている人が当たるんですか。

なになに。

◯柳図書文化財課長 これにつきましては、司書資格を持っている者あるいは、必ずしもそうでないとというふうには考えておりません。と申しますのは、今回役割を期待しておりますのは、従来例えばレファレンスサービスと申しまして、何かわからないことがあれば、カウンターがあって来て下さい、聞かれればお答えしますというようなサービスを行っていたわけですけども、今回のコンシェルジュはそうではなくて、フロアに出ていって、迷っている方がいればお声かけをしてご案内をするとか、それから、単に本だけではなくて、いろんなほかの情報ツールがあります。それから、ある程度、例えばそれこそこういうことだったら古書店さんに行った方がいいとか、こういう出版社がありますよとかという、そういう総合案内、これはホテルのコンシェルジュもそうかと思いますが、自分の中の施設のことだけではなくて、きょうおいしい料理を食べたいんだけど、どこかいいところないかと言われれば、それをご推薦するということで、まちの全体の紹介もしていくということで、一番求めるのがホスピタリティー、それから、そういうコミュニケーション能力、その上で、そういう主題の知識ということですので、必ずしも司書というだけに限ると人材が限定されますので。当然本について明るいということはありますけども、そういう人材を配置したいと考えております。

これを読むと、司書資格は不問だが、当然、それ並みかそれ以上に本を知っていることと、そしてそれ以上にコミュニケーション能力に長けた人を、ということらしい。
また、「きょうおいしい料理を食べたい」とゆーニーズをも含めるというのは、永江氏の勝手な意見などではぜんぜんなく、まさしく行政の意思であったことがわかりオモシロ(゚∀゚ )アヒャ 

◯山田委員長 今の説明を聞いていると、高山さんにやってもらいたいぐらい。今、説明したこと全部当てはまるじゃない。古書店を紹介するとか、おいしいものだとか。
◯竹田委員 一言つけ加えると、ホテルのコンシェルジュというのもそんなにスーパーではないんですよね。むしろホテルを訪れる人の方が情報を持っていたりするんですよ。ああ、そういうこともあるんですかと言って、自分の情報を仕込むということもある。京都のホテルなんていうのは特にそういう傾向が強くて、やっぱり持っている情報の範囲というのは非常に狭くて、あまりそこのところを期待しても無理なものがあるのかなと思うんですよ、実際は。
 それで、要は案内役であると同時に、コミュニケーションをとることが非常にたけている人というのは前提条件としては必要で、それはもちろん担保されていなくちゃならないけども、やっぱり入ってくる人は、案内係がいると、この人に何でも聞けばわかるのかなと思うので、最低限度本に関する知識が豊富に、研修であれ何であれ持っているということと、(略)だから、そこのところをクローズアップさせながら、発展的に事業を展開するというのがこれからの千代田区古書店街を抱えて、大学の図書館を抱えて、それはほかの自治体にない財産として(略)

どーでもいいけど、委員長が言っている「高山さん」ってダーレ?
追記)
そうそう、これに関しては前川御大がぴったしのことを20年前に書いている(゚∀゚ )アヒャ 英国の例だけど。

外国の図書館では、このような地域に関するレファレンスの部門が発達しており、(略)例えばイギリスでは、テニスをしたい人が図書館に電話すれば、その人のテニス歴、年齢、住所などに最も合ったクラブを紹介してくれるし、ホテルを探している旅行者には、予算に合ったところを教えてくれる。これが発達して、一種の身の上相談の部門、シチズンズ・アドバイス・ビューローを置いている図書館もある。(略)だが、あらゆる問題を解決できるわけはないので、ここでは主として、どこへ行けば解決できるか、どこに苦情を訴えるべきかをアドバイスしてくれる。(『われらの図書館』前川恒雄 筑摩書房 1987 p.57)

日本土着レファの発展を結果として阻止しちまった前川理論の御大が、実はきちんと事実関係を認識しておったという皮肉。