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古本オモシロガリズム

いったい誰が政策論をやるの?件名標目表研究

司書課程を取ると。
いきなり「資料組織化」とかゆー教科書を渡されて、むやみやたらに目録規則を憶えたり、NDC標数*1を憶えたりさせられるわけだ。漫画論は726.101とか。
メタレベルの話ってのは、せいぜい、NDCの歴史とかパリ目録原則とか、歴史的知識として(これまたさらに)暗記したりして…
でもさ。

標目形の政治的正しさが問われる可能性があるのではないか とか
そもそもこんなに狭い業界に2種類も件名標目表(キーワード集みたいなもの)がある必要があるのか とか
件名標目は普及してないが、普及させなくてよいのか とか
だれが普及さすべきなのかとか とか
なぜ普及しないのか とか
なんで普及しなかったのか とかとか

こういった疑問をフツーは思いついてもいいと思うわけ。
いいかえると、件名についても、政策論があってもよかろうと。
けど。
ポリティークっちゅうか、方針、政策論ってのがまるでないの。

件名政策論がなぜないか。

といえば、やる人がおらんから。
人っていっても、個人の問題というより、そういった役回りをするプレイヤーね。

A.図書館情報学の分類研究者
B.日図協の件名委員たち
C.国会図書舘のキャタロガーたち
D.TRCなどのキャタロガーたち
E.大学図書館のキャタロガーたち
F.NIIの総合目録管理者たち

こんなところがプレイヤーなわけなんだけど。じつはどれもが政策論はやらん(できん)のだ。
たまたま『情報の科学と技術』がディスクリプタ(まぁこれもキーワードと考えればいい)特集をやってて、プレイヤーAとCが寄稿しているが案の定、政策論はなし。
上記AからFのプレイヤーがなんで件名の政策論をやらんのか、というのを以下に略述せん。
Aの学者先生がたはほぼみんな自動分類とかに興味があるので、基本的に件名を時代遅れでバカバカしいものとしておる。バカバカしいものはテンから相手にせんのも道理。
Bの委員さんがたは一部研究者もおるけど、どんなに一生懸命やっても政策にむすびつかない構造を抱えている。それはこの委員会が管理しているのが『基本件名標目表』(BSH;ビーエスエイチ)だということ。
で、このBSHがなぁ。
2つの点で、このBSHには問題がある。ひとつは整理技術上かなり決定的な弱点。もうひとつは政策論的、業界構造的弱点。
語数が決定的に少なすぎ。件名付与の際に最重要なコンセプトに「特定記入の原則」というのがあるが、この原則を守れないことおびただしい。
件名標目の大原則たる「特定記入の原則」を守ろうとすれば、おそらく著者標目に匹敵するほどの語数が必要なはずなのだ。
もうひとつは、BSHを付与してんのが、Dの、取次系マークに限られるという点。
そのおかげで

Dだけでは改善・向上はムリ

もちろん、積極的に遡及入力事業を捕りに行っているTRCあたりは、そういった非流通系の資料にあたる機会があるんだけど、遡及にまで件名、ましてや新設件名を付与するような動きはないでしょ。
なにより発注する側E系の人々が、「件名なくてもいいじゃん」状態で発注するだろうし、Fも、べつに「図書館難民を救済する前衛」でも「文献報国の信念をもつ官僚」でもない法人職員でしかないしの。

ほんとは学者センセがやるべきなのだが…

ほんとは、AやBがその方向で、一部マジメなDを教導すればいい、とわちきは思っているんだけど、Aはテンから概念索引バカラシと判断しているし(そりゃー、「研究」的にはバカらしいですよ。学者先生の業績にはならんですよ。)、Bについていえば、ここ10年ほどはマジメにやっているということは認めはするけど、関西だからなぁ。これは他のすべての問題にもあてはまるが、Cも、Dも、Fも、東京に居るですよ。物理的な障害は覿面にある(ってこれは某氏の受け売りの説)。

実は

じつは1990年代までCが少しそんなことをやっていた。
分類記号のスイッチングだとか、件名標目の政策性とか、文献が残っておる。
けれどこれも止まってしまったみたいだの(*゜-゜)

件名標目は、なんで日本で普及しなかったのか

もう、とりかえしのつかないことを追っかける書物蔵
死んだ子の歳を、あえて数える書物蔵
ということで、とりかえしのつかない疑問について答えてみよう。
これは…
おそらくどこにも書かれていないことであるぞよ。
わちきは此処に書きつくるなり(とはいえ某氏のご示唆に負うところが大きい、てかまんまだったりも…(^-^;)。
お答え

件名委員会が関西にあったから

そう、これだけ、たったこれだけのことが意外にも影響したのだ。
別に、関西人が本質的に悪なわけでは全然ない。
1)全国書誌作成機関が、2)大学の総目管理センターが、3)国産or4)輸入のlibrary schoolが、関西にあれば。
別にそれでも良かったと思うよ。
でも、上記4つがなぜだかひとつとして関西にないねぇ。
件名標目は本質的に改廃がはげしくなるはず。実際に改廃が必要な現場たるCDEFの近くに戦後一貫して遠かったというのは致命的であった。
も一度いうけど、べつに関西人が悪人だったりバカだったりと言ってるわけじゃぜんぜんない。
だから逆に、分類委員会のほうが関西にあれば問題はなかったのだ。分類は10年、5年単位で見直せばよいから。

*1:標数という訳語はホントはUDCなわけだが…