書物蔵

古本オモシロガリズム

Public library の英国モデル:ハウスからライブラリーへ貧者を移送せよ

公共図書館の公共性?について、ほんのちょっとだけブログで議論が盛り上がっているという。

■ [list]はてなブックマークの[図書館]タグがちょっとだけ盛り上がっています(?)
http://list.g.hatena.ne.jp/Hebi/20070104/p1

わちきだったらば、この「公共性」とかいうわかったよーなわからんよーなコトバを、

なんで(おもに有産者の)税金で無産者にタダで本を読ませねにゃならんの?

というみもふたもない疑問文に変換して考えちゃいますね。
でさ。
ざっと見たところ、米国流の美しい図書館観にひっぱられた議論(「役立つ」とか「民主主義」とか)しかないようだけれども…。もちろん、カーネギー財団流の、貧乏人が(図書館で勉強・発明して)金持ちに、ってのも米国流。
はあ、ウツクシ。うつくしすぎて…
じつはそんなのと無関係な外野のエッセイ風のに、もうひとつの歴史的事実の片鱗があるですよ。

自立した市民による国家運営という理想像は崩壊し、(略)パンとサーカスだよな皆欲しがるのは。

http://d.hatena.ne.jp/REV/20070105/p1
こンお人は、古代ローマまで戻っちまってるけど、戻りすぎ。いや、2000年も戻る必要はなくて、150年ほど、米国ならぬ英国へ戻ればいいのだわさ。

もうひとつの英国モデル

(この先、図書館に「美しいもの」しか見たくないひとは読まないがキチ(・∀・))
近代公共図書館のモデルには、耳ざわりのいい米国流もあるけど(そして日本の館界じゃあ、そればっか教えるけど)、英国流もあるのだ。
それは、「社会政策」としての図書館。英国流。
って、まだ上品でワケワカランかしら(・∀・)
英国の公共図書館の成立については、1850年公共図書館法(Public Libraries Act 1850)ってのがいちばん重要なわけなんだが。
これは、

大都市で、市議会の2/3以上の賛成がもしあれば、(金持ちに)固定資産税をさらに増税して、その金で公共図書館を建ててもいいよ(ハコモノだけね。蔵書はこのカネで買っちゃだめだけど)

という法律。
この法律、なんか本をみると、「社会改良」の文脈ででてきたものだという。
『イギリスの公共図書館』トーマス・ケリー,イーデス・ケリー 東京大学出版会 1983

イギリスの公共図書館

イギリスの公共図書館

これの、公共図書館の成立ンとこの章をよむと、なんだかいきなり、禁酒運動の話とかパブの話だとかがこちゃこちゃ延々と書いてある。
んー、わちきも、産業革命下の無産者の殺伐とした気分になってきた…(" ̄д ̄)
酒だ酒だ! 酒もってこーい!( `Д´)
ん?(・ω・。)

ハウスからライブラリーへ貧者を移送せよ

で、そンなかに、この法律を提案した下院議員、ウィリアム・ユアート(William Ewart)が、反対派を説得するために言ったことが出てくる。

別の機会に彼〔ユアート〕はこの点〔税金で労働者たちの図書館を作ってどんな利益があるか〕をいっそう直截的に述べた――彼は、この法案は「創設することのできる中ではもっとも安い警察を提供する」と宣言したのである。(p.78)

まーた、わかりやすくいいかえちゃうと。

Public house(パブ)に労働者をつどわせとくと酒飲んで風儀が悪くなり犯罪が増えるよん。
Public library(公共図書館)に集わせておけば、風儀がよくなり犯罪も減るよん。

パブと図書館、どっちも「Public」ってところが、英語のpublicのふしぎなところなわけだが、おそらくオモシロいところでもある。そういえば、Public schoolなんて、公立学校って訳しちゃいかんのだった。
もちろん、ホントにそうか(社会科学的に正しいか)は二の次で、当時、実際に法律の提案者たちはそう言っていたという点に、この話のキモはある。

金持ちが図書館にカネをださないと、労働者がグレちゃって結局は高くつくよん

という主張を当時の立派な人がしたわけである。
んで…。
もうひとつ本のご紹介を。
図書館の話 / 森耕一著. -- 至誠堂, 1966. -- (至誠堂新書 ; 35)
いやぁ…
この森さんってば、西の総大将だった…
で、基本的には左派的な価値観をおもちだったわけなんだけど、この人のえらいところは
(つづく)

つづき(2014.10.20追記)

(7年ぶりに追記)この人のえらいところは、図書館学者でもあり図書館運動家でもあり、図書館実務家でもあったんだけど、恣意的な議論をしないこと。たとえば、川崎良孝先生みたいに、米国図書館界の進歩的意見しか紹介しないということはなく、この1850年英国公共図書館法成立史学史についてもちゃんと、ロマンあふれる「人民が図書を欲した」という学説と、「いや、ブルジョワが社会政策として設置した」という両説を上記の本で紹介している。
で、明確に進歩派の森先生は、歴史的事実としては、英国の公共図書館は貧民に対する治安対策、社会政策として生まれたという説に軍配を上げている。
パブリック・ハウスで時間をつぶし堕落しちゃふ貧民ならば、タダで読める本をライブラリーに置いといて、そこで読み本に時間をつぶさせれば貧民といへど、堕落せぬのでは、てふ、ブルジョワさま方のありがたいおココロザシ、これがパブリック・ライブラリーの(一方の)起源なのだ。
日本で図書館ウンドーにたづさはる御仁は、みなロマンチストでもあり、それに実際、図書館学のお雇い外国人は戦後に米国から来たので、みな米国型の公共図書館の発生パターンばかり考える。でも、ちゃんと、翻訳書でもいいので、関係書を読めば、イギリス型もあるなぁとわかるわけ。
ちなみに、タダで本を読ませちゃったら、その分、本が売れないぢゃないの、というクレームが著者や出版社から必ずあるが、この、社会政策としての公共図書館モデルだと、実は議論上、それに簡単に反論できちゃふ。
これはあまり言いたくないことぢゃが、

タダでしか本を読まない人は、有料になったら本を読まない

みたいである。その社会的実験ともいふべきことが、実は音楽てふ、小説と同じく享楽的コンテンツを用ゐて行われたことは、あまり知られとらんかすら(。・_・。)

タダでしか本を読まん連中は、タダで読めなくなったら買うようになるか?→社会実験で答えが出た!
http://d.hatena.ne.jp/shomotsubugyo/20131001/p1

わちき最近、図書館史はほっぽりだして図書史(出版史か?)でいそがしいので、だれか論文とか書いてホシーよ(*´д`)ノ