書物蔵

古本オモシロガリズム

昭和初年の「以印刷代謄写」認識(代謄写 続々)

また「いんさつをもってとうしゃにかう」って表記についての記述をみつけた(^-^*)
しばらくまえ三宮で拾った戦前の論文の書き方本にあったよ。
『科学論文の書き方』 田中善麿ほか 養賢堂 昭和10年(訂正6版)
この本は近年まで版を重ねられたロングセラーであるよう。
この本の「文献の種類」という章がそれ。
「単行出版物」「雑誌,報告」「別刷」の頒布形態から3つにわけて概説したうえで,出版法規との関連から次のような話を展開している。

学術上の出版物は必ずしも法規上の出版物と同一に律することができない。たとえば本邦の科学上の出版物において,出版法によらずに発行された印刷物が頗る多い。「以印刷換謄写」等と附記したものの如きは多くはそれである。(略)勿論出版法,予約出版法,新聞紙法の何れによったものであっても,将又これ等の法律によれずに発行された印刷物であっても,科学上の文献としては区別はない。(p.370)

注意深く読むとわかるけど,「以印刷換謄写」とはなにか,について概念規定をしているわけではない。これはそもそも何なのかは著者にもわからんことだったのかもしれぬ。
けれども彼等(著者が5人もいる)が生きた時代(昭和初期に),すでに,

科学や学問上の公刊物には,「出版法によらず」つまり検閲を通さないで印刷されたものがたくさんあった

それとは別に

出版法によらない「以印刷換謄写」という表記がされた印刷物がでまわっていた

けれども

その,「以印刷換謄写」という表記のあるものの大半は,現在(つまり昭和初年において),(検閲を通してない)学術公刊物だ(だから検閲を通した学術出版と研究上は同等にあつかうべき)

といっている。
この文言が印刷物に広く刷り込まれる(つまり社会的に意味のある)ようになった時点で,灰色文献に刷り込まれる文言と学者たちがみなしていたということ。
それに,なによりもまず,この『科学論文の書き方』自体が検閲を通っているということもある。もちろん,検閲とゆーのは一般的な内容のまちがいを正すためのものではないが,出版警察がらみのことであんまり変なことが書かれてれば検閲でチェックされたと思うのだ。
よけいなことだけど,役人は専門バカだしずるいかもしれんが,自分の担当のことについてだけは極力まちがいやウソは言ったりやったりしないようにするもんよ。

追記(2006.12.31)

追加でちょこっと調べた。
戦前から戦後すぐまで養賢堂‖ヨウケンドウからでて、それからずっと裳華房‖ショウカボウから出されつづけた『科学論文の書き方』をおっかけてみた。
結局、「代謄写」がらみの記述は戦前版のみにあり、という結果になった。
これをどう解釈するか。わちきの仮説(検閲からの逃れ言葉説)からいえば、その例証としたいとこだけど、じつはこれが記述されてた章(「書誌学」と題されとる。といっても、今でいうドクメンテーションが中身)そのものがなくなっているから、かならずしもそうとはいえんです。