書物蔵

古本オモシロガリズム

「以印刷代謄写」とは「遁れ言葉」(代謄写つづき)

よく古本屋にころがってる『現代史資料』みすず書房
いやぁ,これ,とっても役に立つね。
って友人にご教授いただいたんだけど,これに載ってたよ答え。
第51,52回帝国議会で審議されたけど通過しなかった「出版物法」案てのがあるんだけど,その審議のなかで言及されていた。
こういった,

法制がらみなのに法定されていない業界慣行ってのは,法改正の材料としてでてくる

ってことなんだねぇ。
第五十二回帝国議会衆議院出版物法案委員会議録(速記)第二回」(昭和2年3月2日)での,委員の山桝儀重と政府委員の鈴木富士弥のやりとりがそれ。
議会報告書が検閲不要の事業報告にあたるか否かを論議したあとで,山桝がこう問いかける…
(原文はカタカナかつ口語で重複多いため,わちきが適宜,「」のところ以外は現代語風に改めた)

○山桝委員
 いままで届け出ないでいいようにというか,手数を省くためというか,「印刷ヲ以テ謄写ニ代フ」という文字を記載して検閲にださないものがある。いままで話してきた報告書に限らず,いろんな印刷物によくそういう言葉を載せてのがれている事例があるけれど,そういう「遁レ言葉」を内務省はどう考えているんですか?
 また司法省は,そういうことに関して判例があるかどうか教えてほしい。
○鈴木政府委員
 たしかにその言葉は印刷物によく載っている。けれど,この言葉があったからといって,その出版物の性格が変わるわけではない。だから正確には取り締まりの対象になる。とはいえ一方で,今までは大して実害もなかったため,実際には取り締まりをしてこなかった。
 これからは取り締まるかもしれないが,法律があるからといってなんでもかんでも検挙しなけりゃならん,なんていうことはやってない。
○本田政府委員
 その言葉でのがれているという話があったが,その言葉が印刷されていても,内容が出版法に違反していれば,やはり出版法違反として取り締まることになる。
○鈴木政府委員
 判例はないらしい。

ね(^-^*)
わちきが予想したとおりのことを政府委員たちが言っているでしょ(・∀・)/
すごいっち! 法制史学のセンスあるっち!(o^-^)o
(って,答えは友人に教えてもらっては世話ない(^-^;)…)
マス・メディア統制 / 内川芳美解説[編集] ; 1, 2. -- みすず書房, 1973. -- (現代史資料 ; 40,41)
の1にあり。 

ここでの「謄写」の意味

謄写版」の意味かと思ってたけど,日本国語大辞典によればガリ版の意味よりも,ただ写すことの意味のほうがメインだったらしい。
だから,「以印刷代謄写」は,謄写版のところを印刷にした,じゃなくて,たんなる(主に手書きの)写しのところを印刷にした,という意味にとるべきなんだろう。
ちなみに,このまえ立ち読みしてたら「以印刷代談話」という表現もあった。