書物蔵

古本オモシロガリズム

戦後図書館言説を疑う(悪の制度「中央図書館制度」(2))


きのうの「悪の帝国の悪の制度」で,ムチをふるったものがふるわれてると言ったけど,別に,いたずらにムチをふるっているわけじゃない。(だいたいわちきはサドっ気ないんよ)
それに,当節,反骨や反体制がカコイイ!わけじゃ,もう全然ないしね。館界の体制(左翼体質)に反対してもあんまねぇ。だれもほめてくれない。
たんに,ちょっと考えてみるとつじつま合わんよね,と言っているだけ。
1960〜1970年代にかけて,戦前・戦中派の連中を図書館言説空間からタタキ出し,貸出傾斜経営(貸出中心主義とも)によって(公共)図書館業界を大躍進させた方々。その御大たちが,われわれに残していったいろんな説明(ないし教条)がある。
曰く,レファレンスは貸出の後にしか発展せず。曰く,お金はビタ一文とってはならぬ。曰く,公共図書館は公立直営のみが正しい。曰く,戦前の中央図書館制度すなはち悪。曰く,松本喜一は,これはもうどーしようもない極悪人。曰く……
まぁ,いまでも妥当なこともある。たとえば,閉架式より開架式のほうがよい,とか。
でもこれだって本が盗まれるのを見越したうえで,それでも出納の手間や人件費,利用者の便益を考えるとトータルではよい,ってことにすぎんのだし。けっして,

閉架式=専制主義的悪,開架式=民主主義的善

ってわけじゃ,それこそぜんぜんないのだし。だって,国会図書舘は閉架式だけど,あそが保守主義専制主義の牙城とはとうていいえない。むしろ,共産党社民党が一定程度尊敬を払われる数少ない,むやみやたらに民主的な(ん?人民主義的かな)省庁のひとつだと思うぞ。
まー,たかが図書館事業じゃありませんか。そんな人類にとっての絶対善や絶対悪なんかと直結するようなもんじゃないすよ。その時々(社会や技術)の状況で,妥当なものが(長期的に)うつりゆくこともあるわけで…
てゆーと,カンカンになって怒るんだよなぁ。それじゃひいきの引き倒しになるっちゅーの。
とゆーことで,帝国の悪アク制度「中央図書館」第2弾ね。

民主官僚があっさりと「良い制度」と

ちなみに,図問研大辞典の新版,「中央図書館制度」の説明文は初版(1982)とまったく同じ。単に,図問研のチカラが落ちているだけなのかもしれないが,研究が進展していないというのも背景にあるだろうと思う。てぢかな,雑誌記事データベースを引くと,

1. 福岡県立図書館における中央図書館制度の受容過程--大田光次館長の文章を読む / 松永 茂 図書館学. (通号 77) [2000]
2. 十五年戦争と図書館員--中田邦造と中央図書館制度・読書会活動をめぐって (戦争と図書館員-2-<特集>) / 是枝 英子 みんなの図書館. (通号 111) [1986.08]
3. 中央図書館制度とはなにか??--その系譜と疑問点 / 清水 正三
図書館雑誌. 63(12) [1969.12.00]
4. 全国公共図書館長協議会による図書館法改正アンケート批判--図書館法改正アンケートに対する諸問題 昭和44年7月〔再録〕 (中央図書館制度とはなにか??--その系譜と疑問点) / 北海道図書館研究会 図書館雑誌. 63(12) [1969.12.00]

4件しかヒットせず。ちょっと読んでみますか悪の帝国の悪の制度を。
でも,そのまえに,もっとオモシロイものがみつかりますた (・∀・)

図書館の活動は,個々の図書館が孤立して行ったのでは十分な機能を発揮してゆくことが困難なのであって,このような中央図書制度の確立によって,わが国図書館活動は非常に活気づけられたのである。
(中略・その機能をみると)中央図書館がいかに大きな構想を以て出発したかがわかるのである。この中央図書館制度が,わが国の図書館活動の歴史の上に占める意義は大きなものがあった。(p.25-26)

とべた褒めをしてるのは,戦 後 の 図書館法制定時の社会教育局長,西崎恵。

公立図書館職員令も昭和八年に勅令第一七六号を以て大巾に改正された。改正された規定の中で注目すべき点の第一は,
第二条 館長ハ奏任官又ハ判任官ノ待遇トス地方長官ノ監督ヲ承ケ館務ヲ掌理シ所属職員ヲ監督ス
中央図書館ノ館長ハ兼ネテ其ノ道府県内ニ於ケル図書館ノ事務ヲ視察ス
の規定で,昭和八年の図書館令により,新たに設けられた中央図書館制度に応じて,中央図書館長の職務内容を追加規定した点である。中央図書館制度はさきにも述べたように,その道府県内のあらゆる図書館を指導する役割をもつものであるから,中央図書館長も他の図書館長の持つ権限以上の,図書館の視察という役割を持つようになったのは当然である。(p.28)

ということで,引用は昭和25年に羽田書店から出た『図書館法』(新法文庫)の翻刻(昭和45年日本図書館協会)から。
もちろん,これは中央の官僚の一方的なものいいだ,という見方もできる。
けれど,ここではとりあえず,むしろ戦後民主主義の高揚期には,とてもいい制度だという見解が述べられていたという事実をおさえておきたい。
ほんとうはどうだったのか? ってのは,これからきちんと調べないとね。
あ,そだ。
画像は,翻刻じゃないほうの,ほんものの『図書館法』だよ (・∀・)
羽田書店の新法文庫。羽田書店の羽田って,元内閣総理大臣羽田孜さんと関係あるみたい…
って,画像撮ろうとしたら,現物がどっかいっちゃってる…

20150823追記

西崎恵局長の似顔絵 たしか社会教育の雑誌から