書物蔵

古本オモシロガリズム

業界顕彰録本を埋もれた人の人名辞典に使う

このまえ300円ぐらいでほりだした回想録集が,図書館史マニヤのわちきには,むちゃくちゃオモシロイということが判明しつつあり。

回想・私と図書館 / 日本図書館協会. -- 日本図書館協会, 1981.3 たしか300円ぐらい

まったく同じタイトルで,1991年版もあり,それは持っていたけど,こっちのほうがおもしろい。10年ちがうだけあって,こっちのほうに載っている人たちは,戦前にすでに成人だった人たちだから。
OPACを簡易人名辞典に使う記事で,

有名人(セレブ・経済人・専門家)→ 人名辞典(人事録,業界名簿,研究課題総覧)
無名人(市井人・あなたやわたし)→ 検索対象にならない(し,なるべきでもない)
半有名人  → 検索対象になるのにツールがない

という3類型の話はしたよね。これを図書館業界にあてはめると,

館界大立者(学者,大運動家,大図書館長)→ 人名辞典(人事録,業界団体名簿,研究課題総覧)
市井の図書館員(あなたやわたし?)→ 検索対象にならない(し,なるべきでもない)
半有名人  → 検索対象になるのにツールがない→代替品をさがす→例えばこの本

ってことなのだ。
わちきみたいに,歴史趣味だと,どうしても書き物をつうじてしか人物というのはわからない。すると,実務で名を成した人たちよりも,論文・記事を書きまくった人のほうが印象として強くなってしまう。
もとより言説史をたどることに重点をおいてしまえば,それでもいいんだけど,それにしたって,現場で重みがそれなりにあった連中を無視しては,言説史ってのもなりたたないからね。
たとえばある図書館で,書いて書いて書きまくっている(orしゃべってしゃべりまくる)人物がいる一方で,外部の出版物にたいしてはほとんど書かない人ってのもいる(野に遺賢あり,ってことか)。たまに,なんかの拍子で遺賢が書き物でデビューすることもあるけど,そのまま埋もれることもある。
館界でいえば,大串夏身氏とか井上真琴氏とかが最近でできた「遺賢」にあたるかなぁ。前者については… いわなくてもすぐ思いつくよね(みなまで言わんぞよ)。
図書館事業というのは,あんまり書き物をしなかった人々によっても支えられている(って図書館に限らんか)。
業界の大立者だけじゃなく,中堅どころまでどれくらい目配りできるかが,研究の質にかかわってくるだろうし,趣味としても,わちきは好きなのだわさ。
そりゃ,(調べやすい)大立者を調べて,それにビッグ・ワード(大言壮語。当世なら「民主主義が」。一昔まえの東欧なら「人民の」。もちろん逆もできますよ(・∀・)/)をまぶした評論をすれば,てっとり早く喝采あびるだろうけど,ちょっと趣味としては下品だよ。
業界内でとっても有名だったひとたち,饅頭本がつくられるような人たちでなく,その次の,それなりに有名というか,並みの図書館員ではなかったけど,すごく有名ではない人たちがこの本でわかるよ。
ちらっとみて最初に,おおこれは!と思ったのが

川添猛氏

「図書館法三十周年に思う」という数ページのものだけど,略歴・著述目録もある。

川添 猛(かわぞえ たけし)
 昭和六年 東京に生れる
昭和二十四年 小田原市立図書館に勤務
昭和五十二年 小田原市立図書館長

いや,この人,なにが重要かって。現場サイドの人なんだけれど,図書館言説史的には,カナーリ重要なのだ。
というのも…

「中小レポート」を文章で批判した嚆矢だから

貸出中心主義の傾斜経営方式が,1960〜1970年代に大成功した話は有名すぎるほど有名。もう,神話的に有名(神聖ニシテ犯ス可カラス)。だから,当初はきちんと議論があったのに,それ以降は,金科玉条となってしまった。
で,平成不況の1990年代にようやっと批判されはじめたのだけれど,その嚆矢が,あんまり中央の表舞台には出てこなかったこの人だったのだわさ。バブルまっさかりの1986年のこと。
ある人にその文献をいただき,おおこれは!と思っていたのだけど,どんな人だか文献でわかるとは思っていませんでした。(^0^)/ワ〜イ

この本の分類がヘン

ということで,業界の顕彰録はとっても使えるということで。
ところが,この本の分類がヘン。
まずもって,本自体に分類がついている。これは日本図書館協会が,自分とこの本に印刷しているものね。まずこれがヘン。

分類:NDC 010.4 件名:図書館

これじゃあ,図書館いろいろに関する本ということになってしまう。ちがうよねこの本。中味は,多人数の伝記。タイトルがどうあろうと,中味にたいしてつけるのが分類・件名ではなかったかな。
で,ちょっとはましな全国書誌データをみると,

s1 図書館 s2 図書館員 NDLC: UL11 NDC:010.4

となっている。協会のまちがいを律儀に踏襲してるけど,第二件名で図書館員の叢伝っぽくしてるのは,すこしはマシか。
でも本当は,

s1 図書館員 NDLC: UL55 NDC:010.28

あたりだねぇ。って,図書館員じゃないとぜんぜん分からないか(^-^*) でも,図書館関係の本なのに標目をまちがえるとは,こうやのしらばかま,とはこのこと(怒)